【第57話】航海 4日目 決闘
「「うわぁー 出てきた」」
パインが医務室から出るとすぐそこにいた漁夫の1人がそう悪意のこもった言葉を放つ。
「「おはようございます!」」
普段以上に声を張り上げその彼に挨拶を交わす。
するとびっくりしたように彼は作業に戻っていった。
「元気そうじゃねぇか タコと抱き合ってたくせに」
「「アハハハ」」
パインに気が付いたチャーギが漁夫達とリンデルを連れてここまで足を運ぶ。
「ここに来てもいいけど おまえ もうコーダンさんとは訓練できねぇよ」
「もうオマエとはやらないってよ」
「あの人に剣教わるなんぞ滅多にできねぇのにな 残念なやつだよ」
チャーギがこんなに喋るとはパインは思ってもいなかった。
そうやって「俺」以外とは仲良く喋っている彼の様子を想像してみた。そうすればするほど怒りと疑問が湧いてくる。
「そうですか ・・・ ではお手伝いさせてくれませんか?」
その感情を抑えながら、わざとショックを受けた表情を作り彼にそうお願いをしてみる。
「お前になにができんだよ 草生えるぞ」
「「アハハハハハハハ そうだ そうだ 草」」
ギャラリーが沸く。
「そうですよね すいませんでした あと 助けてくれてありがとうございました」
だったらしょうがない、掃除でもしていこう。パインがそう思ったとき。
「俺が稽古つけてやるよ 丁度作業一段落ついたし 誰かさんは寝坊してたみたいだけど?」
チャーギが仕掛けてきた。
(おそらくまだ俺自身が「落ち込んでいる」と思っているに違いない)
「あ ありがとうございます すいません」
そう言うと、チャーギはもうすでに用意していた練習用の剣を1つ投げた。
「刃はついてない 俺のもな ・・・ コーダンさんにいっちょ前に稽古つけられてたんだ 本気でやろうや」
パインは足元に落ちた剣を見つめた。
「わかりました」
それを拾い上げ、チャーギと面と向かった。
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「「チャーギ チャーギ やっちまえ 若いのとっちめろ!」」
ギャラリーが輪を作って騒ぎ立てる。
きちんと彼と向き合ったのは初めてだ。
コーダンとミグーナばかり見ていたせいでチャーギの事はきちんとは見ていなかった。
身長は自分と同じ、そして今着ているグレーの長そでから見るその鍛えられた肉体は一般人から見れば物凄い形相であろう。しかしそれに相反して脂がかった耳元まで伸びた黒髪とあの特徴的な太い眉がそれらを隠蔽してるが如く普通の人を醸し出している。
簡単にいうと外見で損をしているとでもいおうか。パインは失礼なことを考えていた。
「なんだジロジロ見やがって こねぇなら俺から行くぞ!」
刃渡り50センチほどの剣は暗い空の光を受けるも練習用であったため鈍いグレー色であり、光らない。
そっちが本気ならこっちも本気で望むところだと彼の剣を受けるべく身構える。
「「わーーー わーーー いいぞ いいぞ やれーーー チャーギぃ!」」
(うっ!)
彼の隠された肉体から出る剣劇は想像以上に激しいものだった。
パインはそれらを受けるのに精いっぱいで、じりじりと後ずさる。
そして機を見計らうチャーギの眼が光っていた。
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ミグーナはその様子をギャラリーに交じり様子を伺っていた。
(念のため ・・・)
チャーギは「あれ」を見ていない。もしそうなってしまったとき助けられるのは私とコーダンのみ。そう思い、刃の付いた長いナイフに手をかけている。
(それにあいつも ・・・)
ミグーナの薄い唇がきっっと強く結ばれた。
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(なんで こうなるのかな? バカなの? こんなん本気の喧嘩じゃない ・・・)
リンデルはそう思い、ポッケに隠した実弾の入った銃に手をかけている。
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(あれっ? 見えにくい ・・・)
パインは異様な光景に目を取られていた。チャーギの剣を受けながらなぜか出る白く薄い煙のようなもの。
その正体がなんなのかわからないが、そんなこと考えるスキもなく太眉から繰り出される連撃を受けていた。
「「ガハハ アアアー? バトル ・・・ オレヌキカヨーーー」」
突如として響き渡るコーダンの叫びにギャラリーと、
「よそ見すんなよ ガキが」
チャーギの袈裟切りが左腕に入る。パインはついコーダンの声に気を取られた。
(俺抜きって? もう稽古は俺としないんじゃないのか?)
物凄い衝撃と共に激痛が走った。
(あれ? 気のせいか? )
左腕の違和感と白い煙のようなものできちんと確認はできないが、その中で確かにチャーギの持つ剣が陽の光を反射したのが分かった。
(刃 ついてるじゃないか ・・・)
しかしそのことに今は誰も気が付いている様子はなかった。
(ふぅぅぅ ・・・・・・)
「「あいつ怖気づいてるぞーーー」」
形勢がチャーギに傾いたのを知ってギャラギーがさらに沸いた。
右腕が自分の脈とは別の脈を打っている。それをパインは自覚していた。それも、本当の自分のより強く早く脈動するのが分かった。
しかし、今回はそれを抑えたかった。いつだってそれに頼っているのはなんだか悔しい。
(それに ・・・)
こんなに面と向かって喧嘩を売られたことなんて人生で一度足りともなかった。それを精一杯経験してやろうと思った。
…。
チャーギの剣劇を捌き、気が付くと抱き合うような姿勢を2人して取る。
『そんなんだから皆からバカにされてるんじゃねぇの? 知らなかったか?』
そう耳打ちをされた。
『『バゴッ』』
そして膝打ちをくらい蹴とばされる。
『『ワーワー ヤッチマエー チャーーギ! チャーギ!』』
辺りはさらに盛り上がりザワザワと音を立てている。
「オラ 立てよ小僧!」
パインは甲板を転がる中強く頭を打ってしまっていた。鈍った頭はまた彼を悪い方向に思考を変化させていた。
(なんで俺はこんなところでチャンバラゴッコしているんだ? ・・・)
ふと医務室をよそ見してしまう。
(まだ あそこにいるのが正解だったのかも ・・・)
(やっぱりこんなに嫌われるのは ・・・)
(それに こいつの力借りなきゃ なにもできないじゃないか ・・・)
なんとか立ち上がり剣を握る。
そんな自分に追い打ちを仕掛けようとするチャーギ。
(くっ ・・・)
なんとか凌ぐも次第にそれすらおろそかになって行く。
…。
『『ブーーーーーー』』
(なんで なんでなんだよ ・・・)
そんな自分の様子を知ってか知らぬか、チャーギが血色の悪い不気味な笑顔を作り出していた。
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(なんでこんなフツーのガキがちやほやされてんだよ ・・・)
久々の決闘がチャーギの昂った心を一気に爆発させる。
ある程度。そう思っていた彼の「思惑」は以前のそれよりも決闘の中で膨らんでしまっていた。
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チャーギの剣がパインの剣を握る手を切り上げ、パインは剣を振り落とした。
ここでもう試合は終了。
しかし……。
『『おらぁ!!!!』』
チャーギは本人ですら制御できない渾身の一撃をパインの胸元にお見舞いしてしまう。
『『・・・・・・・・・・・・』』
会場が静まり返った。
…。
パインの胸に深々と突き刺さった剣。それらに誰もが目を見張り、声を出せないでいる。
『がっ』 『ぢゃらら』
パインが膝をつく音と何故かパインの胸を突き抜けた剣が甲板に落ちる音が船上に響く。
「「 ・・・ っ !!!!」」
その後わずかコンマ1秒ほどか、パインから染み出る黒い霧とともにチャーギの体が宙に浮く。
そこでやっとチャーギ以外の冒険者3人が事態に気が付く。
黒い煙のようなものはぬっと立ち上がりチャーギを飲み込み、
「「 ・・・ !!」」
制御不能の黒い影、パインの右腕がチャーギの首をへし折ろうとしていた。
「 ・・・・ 」
『シュササッ』
チャーギを持つパインの手にミグーナのナイフによる刺突がさく裂する。
『『バギッ!!』』 『『どごっ』』
チャーギの首の骨の折れる音のように聞こえた。パインと思われる黒い影はミグーナを見下していた。
ミグーナは黒い影から謎の一撃を腹にもらい膝を付いていた。
「なんなのよこいつは!」
ミグーナが折れたナイフを見てそう言う。パインは無表情のままくるりとチャーギに首を回した。
「ヨシキタコレ!」 「「ふんっ!」」
危険を察したコーダンが拳を握りながらミグーナの後ろから飛ぶようにやってくる。
『『どっごぉ!』』
コーダンのせいけんづきがパインの腹部にクリーンヒット。
『ひゅ~~~ん ・・・ バシャン』
パインは船の外へと船の手すりを破壊しながら吹っ飛んでいった。
そのコーダンの突きで作った風圧により辺りの人たちは身をもたげ、パインの手から逃れたチャーギが甲板にぐにゃりと落ちた。
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(どうして どうして ・・・・)
なんであいつばっかり痛い思いするの?私はいつも、見ているだけ。
反応が遅れたリンデルはコーダンが作った風圧に耐え、声にならない叫びを上げる。彼女の握った手の中は汗でぐしゃぐしゃ。
彼が飛んでいった方向めがけて1人で駆け出した。
(ああ ・・・・)
そしてそのまま海に飛び込む。
『バシャン』
その彼女の横顔、張り裂けそうな風船からでる涙を見ていたミグーナも彼女の後を追うようにして海へと足を運んだ。
『バシャン』
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『ポッポツポトンポッポッポトツポッポ』
天は雨をピーナツ号と、その乗組員に浴びせている。
…。
「はぁぁぁ ・・・ コーダンさん これはいかんのですよ ・・・」
操舵室からこの静かな会場にエゾマがやってきていた。
『『・・・・・・・・・・・・』』
その問いに対して答えられる人はこの甲板には誰1人もいなかった。
「「オイ ミテミロヨ コノケン トケテルゾ!」」
副船長のエゾマを無視し、コーダンは焼け焦げた甲板を見てはしゃいでいた。
…。




