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【第51話】航海 2日目 その1

「はぁ はぁ ・・・」


 パインはまだ薄暗い甲板で1人でウォーミングアップをしていた。早朝に起きるのに慣れてしまっていた。


 今まであんなに晴れていたのに、なんでわざわざここに着いてからこうして雲がかかっているのかと彼は体を動かすのと同時に疑問に思う。そんな彼の朝練の最中にワラワラと漁夫達も甲板に上がってきていた。 


 スクワットやらジョギングやらストレッチを済ませ、パインは軽い汗を流した。


(体はこうしてピンピンしているのに ・・・・・・)

 なぜか晴れないパインの心と船の上空のそれはリンクしているようであった。

 ふとパインが周りを見ると、そんな彼のウォーミングアップを見ている数人の漁夫が冷ややかな視線を投げかけているのに気がついた。


『いいよな 特訓とか 青・・・』  『仕事っつーか あいつは 遊び・・・』


 よく聞こえなかったが、なんとなく悪口を言われている気がパインはした。それらの漁夫に軽く会釈と挨拶をするも、心地のよい返事は彼に返ってこなかった。


『トントン ガチャ』

「失礼しまぁ ・・・ す」


 日が射し、甲板を降り、そろそろ起きると思ったコーダンのいる部屋のドアを開ける。


「アア ワアッタヨ アア」

 ベッドの横端に座るコーダンは誰かと電話しているようであった。

(まだ電波届くのか ・・・)


 ベッドはコーダンの巨体によって苦しそうに曲げられていた。


「ドウシタ パイン モウバトル シタイノカ?」

 電話を切った彼がそう口にする。パインはまた出直そうと思ったが、すぐに会話は終わっていた。

「ええ 早くに目が覚めちゃいまして お邪魔でしたか?」

「イヤ イコウカ ・・・」 

『ギッ』

 ベッドが鳴っていた。


 コーダンと一緒に甲板まで上がる中、彼が深夜までゲームをしていたこと。また、なかなか勝てなかった事をぐちぐちとパインはそれを聞いた。昨日サクラからも聞いていたが、コーダンがゲームをする姿が全く想像できないと今日も思っていた。


 寝不足のコーダンは少しゆっくりと階段を上がっていた。


「キノウノ ツヅキダ ブキ モッテコイ」

 パインは「はい」と返事をし、あの木の棒と木刀をロッカーから出す。


 その時ゼンダが甲板に道具を持って上がってきていた。


「朝っぱらから元気だなぁー パイン 俺も朝から仕事 だぜいっと」


 ようやっとゼンダに名前を覚えてもらったが、彼の早口にパインは少し耳がもぞもぞしている。ゼンダの工事が始まるので今日は船尾まで移動しての稽古になった。


 船尾は船首のそれと違い、広々としていて段差も無かった。動き回るのには最適だ。


--------------------------------------


「スーーーーー はぁ」


 パインはゆっくりと深呼吸してこれからの特訓の準備をする。おそらく自分の「あの力」は「気持ち」とリンクしているようだ。その事をなんとなく理解しはじめている。感情が昂った時にそれが発動していることが、今までの経験からわかってきた。今それをコントロールするのは非常に難しいように思えた。だがある1つの結論まで導き出した。


(強い目的さえあれば ・・・ 動くはず)

(彼に本気を出してもらう!)

 そう思い、あまりやる気があるとは言えない様子のコーダンに木刀を叩きつける。


『『カンッ』』


 それをコバエを払うかのように「木の棒」を使って払うコーダン。


 コーダンが寝起きでやる気がないことをパインは分かっていない。

(くそっ だが 棒は使わせたぞ 今度はそこから一歩でも動かして見せる)

 パインは右腕の収縮を心の目で見た。そこに「何か」いると自分を思いこませ、心の深い部分で接触を図ろうとする。


『ぎっ』

 右手が今までに感じたことがない強い力で支配されるのがわかる。

(おしっ これだ!)

 それを感じながら再度巨人に打撃と突きを繰り出す。


『『ガンッ!』』


 「んあっ ・・・」

 まだまだといった様子で払うコーダン。

 パインは手だけに力が入り、他の部分までそれが行き届かないことに気がついた。


(なんでだ ・・・ )

 右手を「重い」と感じる。体の全てと「何か」をリンクさせる必要がある。それを考え集中する。


「アア ツマンネェ ・・・」


…。


 何度もそれらを試したものの、パインは右手以外の部位に力を宿す事に成功することはなかった。最終的にパインの試行錯誤はコーダンに飽きられ、木刀を握る手を棒で強く打たれうっかり落としてしまう。


 一瞬の間でコーダンの打撃がパインの体の芯を打った。


「アア ダメダ ツマンナイ ハラヘッタ」

 そう言われ今日の特訓は終いとなった。結局彼は一歩も動いていなかった。


(くそう ・・・)


 空が明るくなっても、まだまだ昼のようにはなっていなかった。


--------------------------------------


「オイ パイン ナンカ サカナ コンクライノ モッテコイ」

 コーダンが大きな腕をゆらゆらと動かし、なにやらジェスチャーをしている。

 

 パインはそれを見ると甲板を降り厨房まで走っていった。


…。


「すいません サクラさん 30センチくらいのサカナいただけませんか?」

 幸いサクラが何か仕込んでいた。パインはそんなサクラに朝の挨拶をする。

「何に使うんだ?」


(しまった 聞いてなかった ・・・)

 おそらく相手がアッシュであれば相当怒られるやつだ。そうパインが思い、彼の額に冷や汗が滲む。


「いい顔するなー 君 コーダンさんに言われたのならおそらくマグロ釣り用だな」

 笑顔で接してくれるサクラにパインの心は落ち着いた。

「じゃあまな板に ほれ 君の腕だして 置いて ・・・」


 サクラの持っていた出刃包丁がキラリと輝いた。


(・・・)

「冗談 冗談 !! あはは」


 サクラは前掛けを冷蔵庫の取っ手に引っ掛けた。彼は丸い腹をパインに披露すると厨房の奥に置いてあるクーラーボックスを持ってきてとパインに言った。


 階段を降り、船首側にある「いけす」に2人は一緒になって行った。厨房から持ってきたクーラーボックスに活きのいい何匹かの魚とイカをいれてくれる。


「ありがとうございます!」

 サクラに「後で見に行くわ」と言われそこで彼とパインは別れた。


 パインが甲板に出ると船首側にゼンダとコーダンがいるのが彼の目に映った。ゼンダがコーダンに口から発射する銃弾を浴びせていた。


(なんだなんだ?)


「お待たせしました ありましたよ」

 そうパインは言い、よろよろと2人のいる場所に走っていった。


 船首には先ほどからゼンダが工事に使っている木材や工具があたり一面に広がっている。昨日ベンチプレスをするために使った台が、甲板に大き目の金具で甲板に縫い留められているのが分かった。


「かーーーー けったいな注文だったよ エゾマに許可だしてもらうのも大変だったしよぉ」

「こいつ引っ剥がすの嫌がるんだよ みんな んまちょっとだけここ補強できたから 結果よしだがよ」

「丸のこ こいつに当てるのはあんま俺も気が向かなかったもんでさぁ ねぇ?」

 ゼンダがそう言う。


「アリガトウ オヤジ モウイイゾ」

 コーダンがめんどくさそうに顔を歪めていた。


「もういいぞって おめぇさんよぉ なんか心こもってねぇんじゃねぇか?」

「これやっつけでねぇかんな? 俺じゃねぇとこんな時間で床ひっぺがせねぇぞ?」

「スマン タスカル」


 しばらくゼンダの銃弾は止まなかったが、コーダンが少し叫びそうになったのが分かったのか彼はそそくさと道具をまとめて階段を下りて行く。去り際にゼンダがコーダンの悪口をジェスチャーでしていたのでそれにパインは愛想笑いを返した。


(うお ・・・ なんだ)

 コーダンはいつの間にやら用意していた巨大な釣り竿を携えており、その先の針に自分が持ってきたイカを括り付けていた。


『ビュンッ』

 そして巨大な体を使い、イカを遠くまで投げ飛ばす。


 彼がそうした後に竿を持ってろと言われた。


(えええ ・・・)


 その間コーダンがごそごそと作ってもらった台を確認し、今度は皮でできた太くて長いベルトをロッカーから取ってきた。


「「オオオホオオオホホホ イイジャンカー」」

 そのベルトで彼自身と台を縛り付けていた。


(・・・)


『『ギュルルルルルル!』』

(んはっ!!)


 彼の奇行とも呼べるそれを見ていると、突然リールが鳴った。


「「オオオ カセ」」

 そう言われ彼に竿を返した。


『『ガヤガヤ キタキタ!! ガヤガヤ』』

 いつの間にやらギャラリーも集まってきていた。ここから巨人とマグロの一騎打ちが始まった。


 特注であろうその竿が巨人とイカに食らいついた魚の力でしなる。またリールがグリグリと鳴る。それらの光景にギャラリーから「「おお」」やら「「うへぇ」」やら声が響く。しかし、その勝負は長くは続かなかった。


 巨人の力は凄まじく、見る見るうちに遠くの海で上がっていた魚の水しぶきがすぐそばまで迫ってきていた。


 最終的に巨人が大声を上げるとマグロは勢いよく船の上まで無理やりジャンプをさせられ、見張り塔の中腹に強く体を打っていた。


『『ベッチン!!』』

「「キャーーーーーー」」


 見張り台の上で作業をする女性陣のうちの若い方がその光景を見て奇声を上げていた。


『『オオオオ ウハハハッハ!』』

「冗談じゃねぇな やっぱこの人は ・・・・・・」

 サクラがコーダンに対してそう口にしていた。

「イイ コレ イイゾ」

 台を褒めるコーダンとマグロに群がる漁夫達の温度差がまたなんともいえない空気を作っていた。

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