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【第49話】船出

やっと出航しました。

 まだ暗い空の下、冒険者5人は荷物をまとめてこの船の着く場所まで運んだ。コーダンを筆頭にミグーナ、リンデル、パイン、最後尾はチャーギだった。彼らの独特のシルエットが町の背景にアニメのようによく映っていた。


「はぁ ・・・ はぁ ・・・」


 パインは重い荷物を「ピーナツ号」の甲板に上げていた。


 今の彼はスロープを何往復もして汗をびっしりとかいていた。ロビーで寝ていたせいか普段より疲れがすぐにきてしまっているようだ。磯臭い風にも彼は手こずっているようだった。


 コーダンの荷物というか装備を1つ持つのをパインから言って手伝ったのだが。それが一番きつかったと彼は思い、今後悔している。


「イイノカ アリガトウナ パイィィン」


 荷物を持つコーダンの姿が千手観音のようになっていたもんだから、つい手伝ってしまったのだ。彼の身の丈に合う装備は服と同じく規格外の大きさで非常に重かった。その鉄の大きな盾のようなものが一体何に使われるのか分からなかった。それをパインが背負うとスッポリと彼を包み込んでいた。


 ミグーナは軽装で、小さめの登山リュック、1メートル程の長さの細い弓を背負っていた。


 リンデルはあの黒いショットガンとそれに加えて銃身の長いライフルのようなものを一緒に束ねて背負っていた。


 チャーギは大き目の登山リュックを重たそうに背負っていた。


 そして5人は先に着いていた船員の方達と一緒になって彼らの荷物を運ぶのを手伝っている。

 船員たちの荷物は想像以上に多かった。大き目のトラック2台がこの船の近くに止まっていた。


「おい パインそれそこに置いたら他置けないだろうがー」

 チャーギが声を荒げる。

「あっ すいません どこにおけば?」

「そこ そこの上だよ ったく ・・・」


 彼のてかった前髪が海風に吹かれ、血色の悪い頬がちらっと覗かせた。パインは彼のことが先日から気になっていた。彼からの風当たりは厳しい。気のせいだといいのだがと。


「あいつ いつもあんな感じなの? 大変だねぇ リンデルちゃん」

「いつも ・・・・ ですね っと」

 リンデルもこうして何往復しているとさすがに疲れている。パインに向けてイライラした表情を作っていた。


 暗い空からオレンジ色の朝日が遠くの海から昇ってきた。それに従い空の色もその日の色に染めていった。しかし、この港上空には雲が分厚く覆われており、朝日の恩恵のすべてを享受するには至っていなかった。


「よぉ あんちゃん おはよう すまんねぇ 材料が多くてなー」

 ずんぐりのサクラがトラックから出てきてそう口にする。それにパインは軽く汗を垂らしながら挨拶をする。

「俺の特製スープ飲んだら二日酔い知らずだろ?」

 パインは、はっとそれに気が付く。言われてみればそうだと思った。こうして荷物運びはきついものの、酒を飲んだ後特有の体の怠さは微塵も彼は感じていない。


「た たしかにそうですね!」

 パインの声がうわずった。


「だはは まぁ主食はこいつが出てから獲るからよぉ これでも荷物少ないんだぜ?」

 パインはそうなのかと思い、トラックから樽を担ぐ。


「サケ タリルノカ?」

 後ろからコーダンが来て樽を片腕で担ぐ。それを見てサクラが一歩後ろに足を引いていた。


『うわ 足りねぇかもな ・・・・・・・ 』

「「ンアアアア」」

「コーダンさん落ち着いて ちょっと飲むのセーブしましょうよ」

 少しだけ彼の扱いを覚えたとパインは思った。


「ジャア ヨル バトル ツキアエヨ」

(ちょっと待ってくれ ・・・・・・ 昨日の事を言ってるのか?)

 コーダンとの添い寝を想像したパインは顔色を青くさせた。


「ジョウダン ダヨ パイン オレ バカジャナイゾ?」

 自分とサクラと周りの漁夫たちから乾いた笑い声が響いた。パインのコーダンの扱い方はまだまだであった。


 ようやっとのことで荷物全てが船へと運び込まれ、船の片隅に置いていた自分の荷物をパインは確認しに向った。


(あれ ・・・ おかしい ・・・)

 パインは自分の荷物を置いた周辺をくまなくさがしてもそれが無い。

(なんで なんでだよ 誰かが どこかに持って行った? えええ?)

 慌てふためく自分を見たミグーナがどうしたかと聞いてくる。


「銛 が ・・・ 銛がないです」


 それを聞いていたリンデルが「はぁ?」と声を大にして言う。

「ごめんなさい ちょっと探してきてもいいですか?」

 リンデルとチャーギもそれを知り、辺りを探すも見つからなかった。ミグーナがエゾマの下に向かい頭を下げている。


「いいわよ 早くしなさい!」

 ミグーナが少し離れたところからパインにそうに言い放った。


 辺りからは昨日の夜パインがスピーチをした時のようなブーイングが鳴っていた。それらに頭を下げ、駆け足で来た道をたどる。


(きっとあの大きな盾を持ったタイミングで持ち忘れたに違いない 色んな事を考えすぎた くそお)

(もしくは 朝起きた時 コーダンを起こさないようにして荷物をまとめたのがまずかったか?)


…。


 ホテルのソファでいい気分になっていた自分が情けない。来た道を何度も確認するもあんな長い棒なんて見当たらなかった。ホテルに戻り大急ぎで自分の部屋やロビーを確認するも無い。ホテルの受付を無理やり呼んで、一緒に探してもらうもそれは無かった。


(なんでだ なんでだ)

 焦りながら全力で船まで走る。


 パインが空を見上げると港の空がグレー色に染まっているのが目に映った。


「「おーい あったわよパイーン!」」

 リンデルの声が船の所から発せられ、彼の耳に入ってきた。


(良かった はぁ はぁ ・・・・・・)


 パインのせいで船出は1時間押してしまった。ブーイングの声に彼の耳の古傷が痛んだ。パインを罵る声が止み、エゾマが音頭を取った。


 出航。


 いつの間にやらピーナツ号の前に集まった一般の大衆から大きな声援が鳴り響いていた。


(これだけ大きな行事なのに早速失敗してしまった ・・・・・・)

 パインはそう思い、皆から離れて船の手すりで海を眺めていた。彼は誰にも見えないようにして顔を下に向けている。観衆に手を振ることすら恥ずかしく思っていた。


 するといつの間にやら隣に立つ船医のサンベルが軽くパインの肩を叩く。


「よくあることだよ 気にすることじゃない むしろ多くの人に見送られたじゃないか ・・・」

 彼の爽やかな笑顔が一瞬天使のようにパインの目に映った。


--------------------------------------


 ピーナツ号はここナンテコッタイの外観と同じく白を基調とした船であった。


 構造は鉄と木でできており、所々にある傷は白い塗料が何度も塗りこまれており年期が入っているのが分かった。甲板は木でできており、コーダンが歩くと少し揺れるが、木の感触が体を浮かせるような踏み心地だ。船の前と後ろにはクレーンのような物、中腹には箱型の建物とその隣に見張りをするであろう鉄塔がそれまた白で塗装されそびえ立っていた。


 パインは船員の方に案内され、船中腹にある、人が数人通れる幅の階段を降りる。


 そこから降りた海上3階のフロアには大きな食堂があり、その奥に厨房がある。パインは軽い説明と共にさらに足を進めた。サクラが居ないかと厨房を覗き込んだが、彼の姿はこの時無かった。


 海上2階のフロアには各船員達の部屋があった。10部屋ほど並んでいて、それぞれに木製のドアが付いていた。その中の1つにパインの部屋があった。わざわざそのドアに自分の名札が下げられており、わざわざ準備してくれたのかとパインは感心していた。部屋の並びの奥(船尾側)にあるのはトイレとシャワー室。部屋の列の反対側は全て倉庫のようであった。


 そのさらに下の海上1Fのフロアは船尾側にボイラーやエンジンが置かれており、船首側には獲った魚を保管する冷凍室や「いけす」、小型のボートが置かれているそうだ。中腹の倉庫は海上2Fと1Fが繋がって、広い空間となっているとのことだ。1階に関しては軽い説明だけで実際にそれをパインが見ることはなかった。


 船員の案内が終わり、パインは自分の部屋に入った。この時彼の名札の下にゼンダと大きく書かれていることにパインは気がついた。


 ゼンダの部屋だったであろうその部屋には様々な図面や予定表などが壁にピン止めされていた。彼のあのマシンガンのような声と口からは想像ができない仕事の様子を垣間見たきがした。


 その時ゼンダの姿もここには居なかった。


 パインは荷紐をほどき、この旅の準備、とはいってもほとんど何も持ってきてないので、心の準備をしようと2段ベッドの1段目のベッドに尻もちをついた。


(よし ここからだ!)


…。


「「オシ サッソク バトル!!」」

「「うわぁあ〜〜〜!」」


 部屋のドアが外側に勢いよく開かれ、コーダンの叫びがこの狭い部屋を共鳴させていた。

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