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【第48話】船出の前祝い その2

「えーと リンデルさんとパイン君だったか よろしくね」


 ミグーナのスピーチが終わり、紹介された船員の下にパインとリンデルは挨拶に来ている。


 パインの目の前にいる彼は「サンベル」。船医であった。


 見た目は非常に若いがパインより一回りは上であった。小柄ではあったものの大人の落ち着いた雰囲気が漂い、爽やかな顔立ちと短い髪がいい意味でのギャップを生んでいる。周りを見ると、主に一般女性が彼に熱い視線を投げかけている。


「はい パインです よろしくお願いします」

「リンデルです 怪我したらよろしくお願いします!」


 彼女も一瞬で「イイ男」の雰囲気に気が付いたらしく無駄にいい動きで挨拶をしている。


「ああ いつでも来てくれ 他も挨拶いくんだろう? お疲れ様だね」


 彼にうまい事促されその場を去る。リンデルは少し物足りなそうな様子だ。順番待ちをしているであろう女性陣を残して別の場所に2人で向かう。


「おーおめぇさんスパイク靴はいて歩いちゃいかんよぉ あれは特別な時に履くもんだ 俺もよく履いてたぞ」

「あれ使うときはヒモが大事だ ああ マネーのヒモじゃないぞ はは 靴紐な あれをいい具合にしめるんだ」

「一度失敗してなー 獲物の上乗った時に外れちまって大変だったんだ 気を付けないといかん」

「えーとリンダちゃんだったか? ちゃんと食べてるか? もっと食べないとだめだぞ 俺は ・・・・・・」


 船大工の「ゼンダ」の所に行き、2人は挨拶をしようした。しかし一方的に彼によって話が進められた。非常に話すのが好きな方だった。つか止まらない。良く似合うインテリメガネの彼の身長はパインと同じくらい。体はかなり締まって細く見える。しかしその船に乗るだけの実力はあるようで腕だけはパインと同じくらいに太かった。年齢が大分上なのは彼の顔に入った皺と短髪で白髪交じりの髪でパインはそうだと思った。


「で では失礼しますね」

 半ば飽きた様子で名前を間違えられた彼女がその場を離れようとする。


「おう がんばってなリンダとパイル 直してほしいものがあったら酒もって俺のところきてな あと・・・・」


(何度か話の途中で名前が違うと言ったものの直っていない 直すのはまずそれにしてほしかった)


 お辞儀しながら彼の下を離れ、副船長の所に行こうとする。さすがに長すぎる。


「ちょっとあんた何か持っていったら? 偉い人よ」

 リンデルがそう言ってくる。


 何がいいかなぁと考えながら副船長のカウンターテーブルをパインは覗き込む。彼は顔を赤くし「寂しそう」な表情を作っていた。


「ソフトドリンクがいいと思う」

「あんたそれまじでいってる? ・・・・ まぁいいか」


 自分がお茶、彼女が軽いつまみを持参して挨拶にいく。


「パインです これからよろしくお願いします」 「リンデルと申します これからよろしくお願いいたします」


 畏まって挨拶をする。


「おお 若いのか こちらこそよろしくお願い申す ああ すまんなありがとう」

 疲れているのか?パインは彼の動きが少し鈍く疲れているように見えていた。


「酒に弱くってな 船乗りのクセにな まぁ おかげでここまで来れた気がしなくもないが」

 パインはそれを聞いて少し顔を俯けた。


「ん おまえ ・・・・・・ ちょっと違うな ・・・ だが ・・・ 「あれ」はそうだ」

 突然よくわからないことを副船長のエゾマはぽつりと喋り出した。


「おまえらの上司のあの男 あいつの目は ・・・・・・ 「龍を見て帰ってきた奴の目」だ」


(・・・ ?)


「俺は龍ってやつが嫌いだ ・・・ 人を あんなふうにしちまう ・・・・・・・」

「一瞬 パインだったか おまえを見た時もそう思ってしまったが 違うな すまん いい目をしてるぞ」


 パインは熱意の籠もったその話が気になり耳を傾けていた。


(龍って ・・・・・・ 大分昔の話じゃないか? 学校の教科書に書いてあったけど ・・・・・・)


 パインはエゾマにその事をもっと聞きたかったので質問をしようとした。だがリンデルに抑えられる。

「では これで私たちは失礼します」 「し 失礼しますっ」


 彼女に続けて2人でそう言うと副船長の「エゾマ」はああとだけ言って、自分の持って行ったお茶をぐびと飲んでいた。


 そそくさと2人はその場を去る。


「ちょっとあんたダメよ 出航前にそんな話 縁起が悪いわ」

 彼女が小走りでそう自分に言ってくる。

「そうなの? すごい興味があったけども」

 まったくもうとの表情を彼女は作っていた。


(仲良くしないと ・・・ だな)

 リンデルの言葉を無視してパインはエゾマの話をどこかで聞いてやると意気込んでいた。


「そうだよ君 もっとちゃんとした挨拶しないとだろ?」

 ふと眉のチャーギが自分ら2人の間に入るとパインにそう言ってくる。


「あ はい すいません」

 突然割り込まれたもんだからついパインは謝ってしまった。もっと早く壇上での挨拶があると知ればと思ったが、実際の自分は見るも無残だったなぁと彼に言われて再度パインは思った。


「リンデル「ちゃん」 すごい良かったよ 雰囲気もこの会場に合っててさ ・・・」

 チャーギがリンデルに馴れ馴れしく近づいてきていた。彼のビシッとしたスーツの着こなしにパインの心に少しの傷跡を残した。


(ん? 何かわからないがそわそわしてきた)


「とんでもないです チャーギさん色々大変ですね」

 リンデルがそう彼の機嫌を取る。

「そうなんだよ あの2人を常に見ていないとだから さ 因みにおれ Cランクだぜ」

 得意げにチャーギがそう言う。

「そうなんですね すごいですぅ アタシたちは「まだ」ランカーじゃないので ・・・」

「俺なんかが この場にいていいかちょっと不安です」

 自分がそう言うと彼の太い眉毛が動いたのが分かった。

「こいつ 大丈夫なんか?」


(こいつ呼ばわりされた なんなんだ ・・・)


「ええ たしかに抜けてますが 一応選ばれた人材です」

 そうリンデルが淡々と言うと彼は明らかにむっとした表情を作った。その場の空気が凍り付いてきた。


「オイ オマエラ サケノンデルカー」


 嫌な雰囲気がコーダンによって打ち破られる。


(助けられた ・・・)


「はい これ! コーダンさんも飲みましょう!」

 空元気にそう言い、その場を少し離れ、彼と自分用にお酒を持ってくる。戻ってくるとチャーギはその場から逃げるようにして別の方向に退散していた。


「アリガトー パイィィン! カンパイ! オマエイイヤツ」

 ぐびぐびと一瞬にしてジョッキを空にしていた。


(次からはピッチャーを持っていこう)

 よく見ると彼のシャツのボタンが弾け飛んだのか、首元から胸元にかけてボタンが無くなってタクマシイ体の一部が露わになっていた。


「オマエラ ヨル バトルスルンダナ?」


( ・・・ は?)


 いきなりそんな事を言われたもんだから2人して棒立ちになってしまう。


(ええっと ・・・・・・ どうすりゃいい どう返せばいいんだ)


 リンデルも思考が止まったようで何も口に出す気配がない。


「バトル タノシイゾー オ」

「「はいはい ごめんねぇー」」


 今度はミグーナがジャケットを羽織り自分ら2人の救助に駆けつけてくる。


「コーダン あっちに肉料理今出来上がってたわよ!」

 そう言われたコーダンはダンサーのターンよろしく、そちらに向け大股で歩いて行った。


…。


「ふぅ ごめんねぇ~~」

 ミグーナがパインとリンデルに謝る。彼女はそのまま2人をカウンターまで案内し3人で席に着いた。


 パインはその時、少し離れた位置に座っているエゾマと目が合った。彼の持つ未だに飲みきれてないお茶の杯をこっちに向け掲げていた。彼の酔いは落ち着いたようで、白い口髭でよくは見えないが口角が少し上がっていたのが分かった。


 それに3人で会釈した。


「あいつ 腕だけ そう腕だけは確かなのよ からかわれたみたいね ごめんね」

 コーダンの唐突なあの話を聞いていたようだ。そうミグーナが言う。


 それに対して「いえいえ」と2人して顔を振った。


「って2人本当に?」

 ミグーナの顔が妖艶なそれに変わる。再度顔が赤くなってしまう。


「違うって言ってますよ」

 リンデルがそう口にする。


「いや 言ってないけど」

 冷めた様子の彼女につい反応してしまう。


「ムフフ いい航海にしないとね で 全員と挨拶すませてきたの?」

「ええっとあと「サクラ」さんです」

 リンデルが淡々とそう言う。最初に会話したのがサクラだったため存在を忘れていた。


「ああ」

「ああって ・・・・ あなた本当に抜けてるのね 面白い」


(面白いのか?)

 軽くミグーナに会釈し、リンデルと共にカウンターを発つ。リンデルはこの時少し機嫌が悪そうだった。

 パインが去り際にカウンターを見るとミグーナはエゾマの隣まで席を移してした。


…。


 パインはリンデルの後ろ姿をぼーっとした頭で眺めていた。


 長い髪が揺れ、普段から嗅いでいたであろう彼女の香りがより一層濃くパインの鼻の中に入り込む。それを無意識に追っていることを彼は知らなかった。


 2人は目的の場所までたどり着いた。


 サクラはなぜか鍋から器にスープを入れ、それをみんなに配るよう給仕のお兄さん達に指示を出していた。


(何してるんだ?)


 そして待ってましたとばかりに仲間の漁夫たちがサクラの前に群がっていた。


「サクラさん 挨拶が遅れました すいません」

 2人してそう言うと、彼はキョトンとした表情になり。


「いや もう帰って寝てるもんだと思ったぞ」

「えええ?」

 そんな事するはずないじゃないかとパインは真面目に受けてしまう。


「だはは 冗談だよ もう君は俺には済ませただろ ああ そうか リンデルちゃんね よろしく!」

 持っていたレードルと器を机に置き、サクラがリンデルと握手を済ませる。

「これは俺特製のスープだ これ飲んだらもう 他のもん飲めないぞ」

 また冗談のようなことを言ってるとパインは思った。サクラに促されるままその薄い茶色がかったスープを口に流し込んだ。


(なんだこれ!?)


 海藻ベースの味なのは確かなのだが、他がよくわからない。それほどまでに繊細に色んなものを調合しているに違いない。目を見開き、それをパインは堪能してしまう。


「おいしいですー!!」

 リンデルがパインよりも前にサクラに言っていた。

「パインおまえ 俺の下で働け! 20年たったらこれのレシピおしえたるわ!」

「ええええ!?」

 サクラの冗談に周りの漁夫たちが「いいぞ いいぞ 20年!!」と声を掛け合っている。彼らの楽しげな様子とスープの味は2人の気持ちを和らげていった


 その後2人は漁夫のみんなと軽い挨拶を交わしていった。


 みんなの掛け声をかける様は場を盛り上げる元気な人たちという風にパインは思っていた。しかし1人1人と話しをしていくと案外とそうでもない様子に彼は徐々に気がつきだしていた。どちらかというとパインと同じ何か未知のものを追うことへの恐怖心が彼らの深い所に隠れている。それを彼らは今までの経験から恐れている。そんな具合だとパインは思った。


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『ガチャ』

 パーティーが終わり、パインは自分の部屋に帰ってきた。


(今日も色んなことがあった ・・・)


「ふぅ ・・・・・・」

 彼が電気をつけずにベッドに腰かけた時、何か大きな物が背中に当たっているのに気が付く。焦って飛び立ち、電気を付ける。


(あ ・・・なんで?)


 巨人がパインのベッドであるはずの白い布団を「山」にしていた。パインはそれを見て四肢を大の形にして驚いた。


 起こしたら、大変な事が起こりそうと思い、彼はサワサワと音を立てずに部屋を脱出した。


 しょうがないのでホテルのロビーにあったソファでパインは横になる。普段ならこの状況に対して腹を立てていたのかもしれない。だが今夜はその感情は湧いてこなかった。どちらかというと「希望と期待」それらが心を満たしていた。


…。


「あんた 今度一緒に服買いに行きましょうね」


 別れ際のリンデルのその言葉と彼女の笑顔がパインの脳内でゆらゆらと何度も泳いでいた。

やっと

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