【第47話】船出の前祝い その1
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「あんたなにその恰好 ・・・・ だっさ ・・・・」
しっかりお洒落をしたリンデルがパインに冷たい視線を浴びせる。
リンデルは白地のキャミソールに黒の所々に南国の赤い花がプリントされたジャケットを羽織り、膝丈のベージュのスカートを着ている。そして靴底が厚い黒のパンプスを履いていた。そのどれもが高級そうだった。
髪はいつもの2つ団子のヘアではなく、それらを降ろしロングヘアになっていた。普段のあどけなさが漂うピンク色のツイン団子ヘアーが一転、色っぽさが増していた。
ここはナンテコッタイの老舗の「ダンザ デル アラゴスタ」という洒落たバーである。((モチモア達が来たバーと一緒))この店は今回ここに呼ばれた冒険者や船仕事に従事する者達の半貸し切りとなっていた。壇上には決起のためマイクが用意されている。一応一般人も入る事は可能だが、設備等の利用はできなくなるようだ。主にステージの利用や従来の飲食店のような給仕システムなどが今回は無い。丸いテーブルが所狭しと店に並べられ、そのテーブルの上に豪華な料理が置かれていた。立食スタイルのパーティーだ。
時刻は夕方6時を回り、いよいよ空が暗くなってきた頃だ。
…。
4人の激しい試験が終わった後は女性陣と男性陣に別れてナンテコッタイを散策していた。
あれだけ激しい口喧嘩のようなものをした後でも、女性特有の切り替えの早さなのだろうか主にファッション面でリンデルとミグーナは意気投合していた。彼女達は南国の町でショッピングを堪能してきたようだ。
パインとコーダンは近くの波止場に座り海を眺め、「お話」をしていた……。
波止場から覗く海の景色は圧巻そのもの。曇天ながらもザァと押し寄せる波の音、天然の岩やテトラポッドに波がぶつかり白い水しぶきがいよいよと迫ってきていた。
「オマエ ヘビ クッタコトアルカ」
「いえ ないです」
「ヘビハウマイゾ」
「そう なんですね」
「オマエ ジャア ワニ クッタコトアルカ」
「いえ ・・・・・・」
「ワニハウマイゾ」
「そうなんですね ・・・・・」
『ザァァァァ』
「ウミノ クイモン ・・・・・・ マグロ ダナ」
「マグロ美味しいですよね」
「ソウダナ ダガ ホカ イマイチ」
どうやらコーダンは海の食べ物はあまり好きではないようだ。
「フネ タノシイゾ イッパイバトル アル」
「そうなんですね よろしくお願いします」
「オマエ タノシイカ? バトル」
「まだイマイチ ピンと来てないです」
「ソウダナ オマエ マダ マヨイ アル」
真っすぐ的を得た言葉をパインは受けていた。それをどう自分の頭の中で処理していいのか彼はわからなかった。そんな面持ちでこうして勇者と肩を並べ、座っていたのだ。この時から彼はなんとなく「この人は勇者」と思っていた。
「迷いをなくすには どうすればいいんですか?」
そう聞いたあと、コーダンはしばらくパインを見て考え込んでいた。
「イッパイ バトルスル カイブツ オトコ ソシテ ・・・・・・・ オンナ ガハハハハハハ」
破けたTシャツ姿のまま白い歯をむき出して大きく笑っていた。波の音が少しだけ彼の声をマイルドに仕立て上げた。
「あああ はい ・・・・・・」
パインはコーダンにそんな事を聞いてしまったことに後悔してしまっていた。
その後2人は海岸付近を散歩し、鳥居の付いた小さな祠にたどり着く。
白い砂浜をザザッと音を立てて歩いた。軽装なためか砂が少し足に入ってきてもどかしい。祠の小さな像に2人は静かに手を合わせた。
「ウミ イッパイイキモノ イル ヒト ト イキモノ イッパイ シヌ ・・・・・・」
「ミンナ オレラノコト ミテル ダカラ ・・・・・・」
その後はコーダンの国の言葉なのかよくわからない呪文のような言葉を唱えてしばらく目を瞑っていた。パインも彼に倣い、しばらく目を瞑った。手を合わせるコーダンの姿はどこかで見た神聖な場所の像そっくりであった。Tシャツにいるウサギを除いて。
その後、2人はホテルに戻った。
最初に彼に会った時の緊張は、すでにパインは忘れていた。そこで着替えをし、彼と一緒にここまで来た。そういう流れだ。
コーダンとミグーナも一緒のホテルに今晩泊まり、明日の朝出航をする予定とのことであった。((アッシュからはパインは何もその事を聞かされていない。))
(そもそもなんでこんな大掛かりな所に俺がいるんだ?)
パインはその声を誰にも出せずに居た。
…。
そして何がなんだかわからぬままパインはこのおしゃれなバーに普段着で来てしまっていたのだ。
(恥ずかしい ・・・)
バーを楽しそうに走り回るリンデルの姿を目で追う。
静かに『はぁ ・・・』とため息をつき、バーの中をパインは1人で歩き回っている。
コーダンはここに来たとたん怒ったような表情のミグーナにずかずかと拉致された。それもそのはずで、あのTシャツ姿で入ったんだから彼女らの体裁上大変だとパインは思った。
つい笑ってしまった。
しかしホテルで見たコーダンが短パンであったため彼も安心して短パンを履いてここまできたのだ。今周りを見渡すとこんなラフな格好の人は1人も居なかった。パインは少しコーダンせいにしてやりたかった。
そんなこんなでパインはラフな格好そのままに店を見渡している。これから旅をともにする仲間であろう数人が一緒になったり、または1人で食べ物、飲み物を口に運んでいた。彼らがこれから仲間になるという感覚はパインには全く無かった。
何をしていいのか分からないパインはとりあえず自分が腹が減っていることに気がついた。皆に倣い人目を気にしつつも皿を拾い料理をつまみ上げる。うまううまい。
すると後ろから給仕のお兄さんがパインに寄ってきた。
「お客様 ライブにもお越しでしたか?」
白シャツに蝶ネクタイを付けており、さらさらヘアーで鼻筋が通ったイケメンだった。一瞬パインは怒られると思いびくっとしたが「いいえ」と言うと彼は続けてこう言ってきた。
「あれ 「バーリスツ」 ついこのあいだまで来てましたよ? シークレットライブでしたが」
パインはなんのことかと思い頭をかしげるが、自分のTシャツがバンドTシャツなのを思い出し「ああ!」と返事をする。
あんまり熱心なファンではないが、自分もそのバンドの曲を何度も部屋で流したことがある。以前偶然古着屋で発見したTシャツを今、こうして着ているのだ。
「めっちゃよかったですよー まぁでも こんな事件になっちゃうとはなぁ ・・・・・・」
そこでパインは彼から話を聞くことになる。
お兄さんが言うには彼らのライブが終わり、ナンテコッタイを出航したすぐ後に冒険者3名の死亡の事件が発生したとのこと。またその冒険者達が事件に会う前にこの店にライブを見に来ていたとのこと。その事件についてパインは詳しく聞いていなかったので、食べるのを忘れてそれらの話に聞き入ってしまっていた。どうやらここ周辺ではその事件の噂が出回ってしまっているそうだ。おかげでこの店の商売は上がったりらしくて、今回の貸し切りパーティーくらいでしかお客の見込みはないそうだ。
「明日から先はぶらぶら陸地でも旅しますわぁ」
そこまで落ち込んだ様子もない表情をお兄さんが見せる。
「そうですか」とパインは気持ち半ばに伝え、彼の元を去る。
(3名死亡? バケモノ? Cランク?)
彼から聞いたその冒険者の格。Cランクと言えば、もう冒険者として立派になっている。それが近海で3名死亡って相当なのがいるんじゃないのか?
それの討伐に「俺」が!?パインは口に含んだ料理を吐き出しそうになっていた。
(フナオーとかそういう話うんぬんじゃ なくないか?)
急に襲ってきた焦りに、パインは喉が渇いてきた。
(つか リンデルはこのこと知ってるのか?)
もしかすると自分だけ何もわかってないのかもしれないとパインは思えてきた。
でも……。
車の中でキャッキャと騒ぐ彼女の様子を思い出す。
アッシュは一体何を考えて、何を俺にさせたいんだ?
(・・・)
(まぁいいや コーダンさんいるしな)
自分が考えても仕方がない、そして。彼を見ている時とアッシュを見ている時の安心感は似たようなものがあった。
飲み物ついでに、立派なエビの殻が飾られたお皿のそれの身であろう一口サイズのそれをパインは皿に拾い上げた。前から少し興味はあったものの、それを口にしたことは無かった。焦りの心を静めるべくそれを口に運んでみる。
(う ・・・ うまい)
エビの味は濃厚で、何種類もの具を混ぜて作り上げたような濃厚さを感じさせ、それにニンニクとレモンの酸味と香りが口の中から鼻にかけて突き上がってきた。
パインは想像以上の味に足を止めその料理をもう一度取ろうかと迷っていた。
「おめぇさん それ好きか?」
後ろからその姿を見ていたであろう中年のおじさんが話しかけてきた。
中肉中背で自分より少し背が低く、年齢のものによるのかお腹が少し出ていた。黒髪は短く切られており軽く天然のものであろうパーマがかかっていた。
「すんごく おいしいです」
そうパインが伝えると彼は目を少し見開き、変てこな横揺れをかます。
「じゃあ 明日から俺の下で働いてもらうからな 今の内に料理の味覚えといてな」
ニヤニヤし横揺れしながらそう、急な事を言い出してきた。
「え? どうゆうことですか?」
真面目にそう返すと横揺れが止まり、彼もまた真面目な顔になって。
「冗談だよ 明日からよろしくな おめぇさん冒険者だろ?」
そこでパインは軽い自己紹介を済ませる。
彼の名は「サクラ」、船での料理を任されているそうだ。彼の話を聞いて初めて知ったのだが、これから乗る船の名は「ピーナツ号」という名前らしい。初めて聞く名前であったが、彼が言うには界隈じゃ知らない人はいない有名な船らしい。
「ちょっとすいません 彼お借りします」
サクラとの会話の途中、ミグーナがパインに話しかけてくる。
「あ ミグーナさん 明日からよろしくお願いします」
コーダンと仲良くなったためか、自然にそのような言葉をパインは彼女に言うことができた。
「ああ こちらこそね パインあとでステージ上がってもらうから何か自己紹介のセリフ考えといてね」
「みんなに伝えるのよ ・・・・ その恰好のことは ・・・・ あいつ叱っとくわ ぁったく ・・・・」
既に気にしなくなってきた自身の服装の事を彼女の言葉でパインは思い出す。それにしても、ステージで挨拶とは、また大それた事をと、それに関しても彼は緊張していった。
「わ わかりました!」
「よろしく頼むわよ!」
パインはミグーナに肩をパンと強く叩かれた。彼女はヘンテコでステキな笑顔を投げかけられた。そのまま彼女は何も言わずに忙しそうに人を探しにそそくさとこの場を去っていった。
なぜ彼女に肩を叩かれたのかパインはわからないが、なんとなく彼女の顔を思い出しながらその場所を反対側の手で擦ってみた。
(大人の女性 だなぁ ・・・・・・)
彼女の恰好はチャイナドレスにヒールを履いており、さっき会った時より目線を上にしてパインは喋った。鍛えられた太ももがチャイナドレスからうっすら見え、胸元もこれでもかと強調されていた。今はジャケットを羽織っていたが、おそらくその内脱ぐであろうそれを思うとドキドキしてしまう。
…。
その後はまた料理人のサクラとエビの味付けなどを教わったりしながらパインは腹を満たしていった。
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「「えーみなさま ご歓談の中失礼致します 明日の出航の前祝いでお集まりありがとうございます」」
突然ステージからマイクが鳴った。
「「僭越ながら 自己紹介させていただきます 私はミグーナ 冒険者をしております」」
思っていた通り彼女のジャケットは脱がれ、その色っぽい大人の女性の姿が露わになっている。男性が多いこの会場のみんなも自然にそれに注目してしまう。
パインはぼけっとそれを見ているといつの間にやら現れたリンデルが自身を見て目を細めていた。
「「え~みなさん 「ピーナツ号」に乗る方々です 一般の方はご興味があればどうぞ」」
ミグーナのスピーチが続く。
「「まずは今日の今回の船出旅とはいっても「討伐」という任ですが 出資者である「ユーシル」船長と政府からの出資に関しまして感謝を申し上げます」」
「うぷっ !?」
(政府!? どうゆうことだ)
思わず、口の中のアルコールを吐き出しそうになる。それを見てリンデルとサクラが笑っている。
「「ですが! 今日はご都合が悪かったそうで船長は不在ですし さらに国のめんどくさい方々もおそらく居ないので ・・・・ 楽しく飲んじゃいましょう」」
『『ワーワーガヤガヤ』』
ミグーナのマイクパフォーマンスに次第に皆飲まれていく。
「「一応ですが言っておきます 私のランクは「B」となっております おかげ様でいただいた称号ですが 男性陣! 手荒な真似は避けたほうが身のためです」」
『『ガハハハ 手に負えないぞー』』
漁夫であろう誰かがそう反応している。
(Bランク ・・・・・・ その地域に数名しかいないはずである)
どおりであの身のこなしだったのかとパインは納得する。CランクとBランクの実力差はかけ離れており、小学生と高校生くらいの差がある。はずだ。
ミグーナが手をクイクイし、コーダンとチャーギを壇上に上げようとする。
「「そして私たち とはいっても3人しかいませんが リーダーの「コーダン」と 主に補佐の「チャーギ」です」」
どこからともなくコーダンがステージに登壇すると会場からは「どよめき」のような声が各所から上がっていた。
彼の恰好はミグーナが用意したであろうタキシードに着せ替えられており、ぴちぴちのそれも悲鳴を上げているのが分かった。
初めて彼を見る人々は畏怖の念を抱くであろう。実際自分らもそうであったように。しかし今となっては彼を知る自分はその姿に一種の「笑いのツボ」が押されていた。
『『サケノンデ ミンナ サワゲ ウオオオオオォォォ』』
彼のマイクなしの叫びに会場が揺れる。自分は笑いそうになったが、辺りは「シーン」と静まり返っていた。
「「えー チャーギです 何かあったらチャーギまで! よろしく!」」
同じくタキシードを着たチャーギが少し格好つけてそう言う。
「「オイ サケトッテコイ」」
コーダンがそうチャーギにそう言いつけ、やっとのことで会場に笑いが生まれた。
「「とまぁこんな具合のデコボコパーティーですが 政府から依頼を受ける程度には精錬されております」」
そう言ったミグーナが横を向き軽く咳払いをする。
「「えーすいません 本題です ご存じの方は多いと思いますが 今回は特殊な任務を我々承っています」」
「「様々な噂が流れておりますが それの調査ともし仮にそのような「異変」を見つけましたらそれの討伐となります」」
「「皆様におかれましてはかの有名な「ピーナツ号」の船員であることはかねがね承知しており 是非ともご尽力承りたく存じます」」
「「失礼を承知ですが 私たち3人と一般の方々にピーナツ号の御船員の自己紹介をお願いいたします」」
「「まずは船長様がご不在でしたので 副船長のエゾマ殿 無礼とは存じますがその場でよろしくお願いいたします」」
チャーギが駆け足でステージを降り、カウンターに座る背の低い体格の良い男にマイクを渡す。
「「えー ゴホン これでいいのか」」
「「副船長のエゾマだ 船長は私用で外しておる 船長に代わり申すが このような会を開いていただいたコーダン殿に感謝申し上げます」」
貫禄のある声色であり、また巷で有名であろうか会場の後ろの一般の観衆から「わぁ」と歓声が上がっていた。
その後もミグーナによって主な船員の紹介が続いた。若い船医の「サンベル」、船大工及び機械工の「ゼンダ」、自分の隣に立つ料理長の「サクラ」がマイクを取っていた。
そして……。
「「今回の旅の特別ゲストといたしまして若い2人が冒険者である私たちの「補佐」として搭乗しますので それの紹介をさせていただきます!」」
ミグーナがそう言うとパインは緊張が再度湧きだし脇汗がしたたり出した。
チャーギがここまで来て自分達を連れ出し、3人で登壇する。
『『ワーワーワー』』
会場からは野次なのか歓声なのかよくわからない叫びが耳につく。
「「えーとまずこの場違いな少年のような彼ですが パイン君です はい一言」」
ミグーナのパフォーマンスに救われ会場から笑いが起こる。
「「えー 何も聞かされないでここまで来ました」」
『『ブーブーブーブー』』
パインはかなり外したようだ。会場からはブーイングが飛び交う。脇汗が横っぱらまで伝うのが分かった。
「「ですが ・・・ 気合い入れ過ぎて スパイク履いたままここまで来るところでした」」
『『アハハハハ バカじゃねぇかーーー』』
なんとか空気感を取り戻し「がんばります」といいマイクをリンデルに渡す。
「「リンデルです 御3方の足を引っ張らないよう頑張ります!」」
「「そして歴史ある「ピーナツ号」に乗船できて光栄です 私たちも精一杯頑張らせていただきます」」
彼女に促され、2人して頭を下げる。
『『いいぞー ねぇちゃん!! がんばれーーーー!!』』
主に男性陣の歓声が上がるのが分かった。リンデルがマイクをミグーナに返し、この場は終焉を迎えた。
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『ふっ ・・・』
店の入口付近で乾いた声を漏らす長身の男がいた。彼は大衆に紛れてパインを見ていた。
それが終わると彼は何事も無かったかのように店のドアを外に開いていた。




