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【第46話】乗船試験 その2

「ちょっとなによこの子 聞いてないわよ ねぇ?」

 ミグーナがリンデルと遅れてやってきたコーダンにそう詰め寄る。


「アッシュノシゴト オモシロイ ソイツツヨイノスグワカッタ デモ ソイツタオレタカラ コンカイ ハ オレノカチ」

 巨人はひしゃげた鉄板を見てニヤニヤ笑っている。


 彼は鉄板を直そうと地面に伏すパインの持つハンマーを手に持ち「カンカン」と鉄板を叩きだす。


 パインが鉄板と思っていたそれは巨大な剣のような物だった。刃がついていないので鉄板にしか見えないが一応持ち手が上下に付いていた。

 また今回のパインのバカ力により鉄板の中央には巨大な拳の跡がベッコリできあがり、黒く焼け焦げ変色していた。


「あんたそれ特注よね? ねぇなんなのよこいつ」

 ミグーナが今度こそはとリンデルに詰め寄る。

「あたしもこれを見たのは前に1度だけ でも ・・・・」

 その後の言葉を言おうかどうか迷うリンデル。

「でもなによ?」

「女の勘? 私もその人と同じ ・・・・」

「あっはぁ はい ・・・・ わかったわ」

 ミグーナの薄い唇が吊り上がり、妖艶な笑みをリンデルに見せつける。


…。


「「んあっ!」」


(なんだなんだ俺を囲んで)

 パインは急に目を覚まし起き上がるも数秒事態が飲み込めなかった。しかし巨人、コーダンを見た瞬間体が引き締まり、完璧ではないが何が起きたのか思い出してきていた。


「パイン大丈夫?覚えてるの? あんたまた物凄い力使ったのよ」

 パインのすぐ眼の前にリンデルの心配する顔があった。


「えっ!? うん なんとなくは覚えてる あ すいません それ そんなんにしちゃって ・・・」

 パインはリンデルをほとんど無視し、コーダンに目を向けた。彼が鉄板を一生懸命直している事に対して申し訳なくなってしまう。


 巨人のびりびりに破けたTシャツがなんとも言えない空気を醸している。パインとリンデルは自分たちの事を忘れ、その光景を唖然として見つめてしまった。


「あはは こりゃあすごい旅になりそうね」

 ミグーナは割りと本当の笑顔で笑っていた。

「イイゾ カラダデハラエ パイィィィン? オマエオレヨリクロカッタゾ」

 コーダンのセリフに2人してドン引きしてしまった。


(黒いとは ・・・?)


「ああ コーダンは戦闘狂っていうのかしらね あなたとまた試合したいのよ 私も黒いの意味はわからないけど ・・・・」

「まぁ いいわ 正直パインに関して「は」私が舐めていたようね 謝らせてもらうわ ごめんなさい」

 ミグーナがリンデルを挑発するかのようにそう言う。

「え? いえいえ」

 パインはミグーナに謝られる意味がよくわからなかった。


「あたしのことはまだ舐めたままってことでいいんですね?」

 ミグーナの挑発に気がついたリンデルはきちんとそれに乗った。


「アア オンナハコワイ オイ パインアッチイクゾ コレ カエスゾ」

 パインは「あ」と返事をした。


…。


 少し離れた所にあるベンチにコーダンとパインの2人は座った。


 ベンチはパンパンになった。パインはピッタリとコーダンの腕に密着して座ることになってしまった。


 (しかし ・・・)

 こんな腕に何発もお見舞いされたのにも関わらず今は痛くも痒くもない。そんな自分の体をパインは不思議に思った。


 2人は公園の真ん中で身構える女性2人に視線を傾けた。


--------------------------------------


「やる気はあるようね あなたも試験させてもらうわ もちろん相手は私よ」

「あ あたりまえでしょ」


 リンデルは口では誰にも負ける気はなかった。だが、いざこうして目の上の女性と喧嘩のようなことをするとなるとは想像していなかった。挑発に乗った自分に後悔し、身を縮めていた。


「体術でもいいけど ・・・ あんた」

 リンデルを見下すようにそう言うミグーナ。

「アタシ 遠距離 または補佐よ」

 役割はきちんと伝えておかなくてはとリンデルは思った。そう言った事がどう思われても構わないとも。

「だと思ったわ 華奢すぎるものね」

「じゃあ これでいいわ」

 ミグーナが吐き捨てるように言う。


 彼女は小型の銃とマガジン3本を鞄から取り出しリンデルの足元に投げた。


「弾は実弾じゃなくてカラー玉よ それをあたしのどこかに当てられたら勝負ありってことでどう?」

「いいわ」

 最初から彼女が準備していたことをリンデルは悟り、少しいらついた。


(いちいちからかうなっての ・・・・)


 続けてルールをミグーナが説明する。


 銃弾(72発)が無くなってミグーナに当てることができなければ彼女の勝ち。銃を奪われて当たる見込みがなくなっても彼女の勝ち。彼女が装備するのはバックラー(直径30から40センチほどの盾)のみ。この公園から出たら反則負け。そんな所であった。


「あたし これつけていいかしら?」

 リンデルが鞄からベルト(ガンホルダー)を取り出しミグーナに見せる。それにマガジンを3つ入れる。

「いいわよ 他はなにかない?」

「ないわ」

「じゃあ やりましょうか あんたが撃つか動いたら開始ってことで」


 女同士の喧嘩が始まろうとしていた。

 その空気を悟ったパインは生唾を飲んでいる。コーダンは石のようにピタと止まり彼女達の動きを1つも見逃さない構えをこの狭いベンチで取っていた。


 しばらく彼女達は身動きせずにお互いの顔を見合っている。今の2人の距離は10メートルほどである。


(どうせ近づいてくるんでしょ 様子見にとりあえず頭と見せかけて ・・・・)

 手の動きを器用に調整して、頭を撃つと見せかけミグーナのももめがけてリンデルは引き金を引いた。

「パン」 「チャ」((銃の音とカラー玉が破裂してインクがかかる音))


(なっ!? 早い ・・・・)

 撃った弾はバックラーに吸い込まれて色を付けた。


「実弾じゃないから遅いのよ この距離なら撃った後でも反応できるわ それじゃ ・・」

 ミグーナは猛然と地面を蹴り、リンデルに駆け寄る。


(足も速い! ・・・・ でも)

 リンデルはバックステップしながら彼女に向けて数発撃ちこむ。


 しかし、どれもバックラーに吸い込まれる。


 向きを変え、2、3メートル詰められた距離を離すべく駆けだす。

(身軽さならアタシのほうが ・・・・ 勝ってるわね)


 後ろを振り向き、ミグーナに距離が縮められてないことを確認する。

(あんなものぶら下げて走るの大変そうだわ)


 ミグーナの引き締まった細い体のタンクトップから溢れそうな胸に哀れみの念を抱くリンデル。

 その思いと反して男性陣はその揺れる胸をボケーっと見ていた。


「ドキドキスルナア」

「しますね ・・・・」


 このかけっこに埒が明かないと思ったリンデルは公園の端めがけて足を進める。中距離ではミグーナの足の筋力の方が自分より速度を上げるのを彼女は分かっていた。敢えてジグザグに走り、ミグーナに自分が目標地点があるのを悟られないように足を進めた。


(方向転換ではあたしの方に分がある)

「いい速さね でもいつまでたっても埒が明かないわよ?」

 ミグーナがそう挑発する。

「う ・・・・」

 リンデルは挑発を真に受ける「フリ」をした。


 公園の端まで来たところで目標の木に90度方向を変えリンデルは飛び移る。その枝の上にリスの如く這いあがる。


(これで登ってきたら 狙い放題よ 誘いに乗らなければすぐ下りればいいだけ ・・・・)


 そう思いながら下を見ると案の定ミグーナは登ってきていた。


 上に這いあがる的に対して「パンパンパンパンパン」と連続して微妙に位置をずらして撃つ。


(うそでしょぉ~~~ ・・・・)

 ミグーナはバックラーでそれらをすべて弾き、器用に3本の手足でトカゲのような動きでよじ登ってくる。


「アハ アハハハハハ ハッ!!」

 その様子をコーダンが不気味に低い声で笑っている。確かに笑えなくもないとパインは思って呆然と見ていた。


(だめね でもこれならどう?)

 リンデルは枝から飛び降り、銃を上空に向ける。


(空中なら避けれっこない)

 私を追うトカゲは木を蹴り空中に浮かんだ。そしてグイと獲物の銃に向け目を動かすと空中で丸くなる。それはバックラーがそのまま宙を舞っていたようだった。それにリンデルが何発か撃つも虚しく赤く染まったバックラーに弾が吸い込まれていく。


(なんなのよこの人の運動神経はぁ ・・・・)

 リンデルは仕方なく体の向きを公園中央に向け、再度全力で駆け出した。


…。


 その後全力疾走10数分か。お互いに疲労が溜まり足を動かす力が弱まってきていた。


(このマガジン分で最後 ・・・・ 残り10発切ってるわね)

 リンデルはもうすでにマガジン3つを使い果たし、残りは銃に残っている弾のみだった。


(でも ・・・・ ここいらで勝負ね)


「あんた 年いくつよ なんでそんな体力あるのよ」

 リンデルが足を緩めそう口にする。

「は!?」

 一瞬だが、ミグーナの思考が世の女性の気にしている所に向けられた。

(いける ・・・・)

 そのスキを狙って無動作でリンデルはミグーナの腰に目掛けて弾を放つ。


 しかし……。


 弾が撃たれた事をミグーナは瞬時に悟るとともにバックラーを腰に当てそれを防御する。その浅ましいリンデルのやり口に彼女の脳の血管が「ブチ」と鳴った。


 ミグーナは捨て身覚悟の物凄いタックルをかましてくる。


(やばっ はやっ ・・・・)

 反応が遅れたリンデルは首根を掴まれ宙に浮く、そして。


「あんたそのやり口はちょっとモラルに反してるんじゃないの?」

 ミグーナはリンデルの銃を奪いそう口にする。

「へへへ どうです かね」

 リンデルは首を掴まれあんまり声が出ないがそう反応する。

「ちょっとまだ 余裕かましてるの?」


 ここでリンデルは隠し玉を披露する。左手に隠し持っていたカラー玉をミグーナのヘソ周辺に擦り付けた。


「なっ!?」

 ミグーナは不意を突かれたことを悟り動揺した。

「あたしの かち ょ ・・・・・ ゴホッゴッホ」

 ミグーナはリンデルを降ろし、負けを認めた。


--------------------------------------


「「ウオオオオオオオ」」


 公園のベンチでびりびりにやぶけたTシャツを着た巨人が叫んでいた。

(耳 耳がやられる ・・・・・)

 パインはリンデルの勝利したことにも気が付かずにただ耳を両手で抑えていた。

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