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【第45話】乗船試験 その1

「よぉ 久しぶりだな コーダン」

「アッシュー ゲンキダッタカー」


 大男が何とも言えない訛り口調でそう挨拶をする。「がし」とアッシュの肩を両手で掴み、彼をグネグネと揺らしている。


「ミグーナと申します 噂はかねがね聞いております」


 パインと同じくらいの身長。しかし小顔のため少し彼より高く感じさせる女性が大男に続いてアッシュに言っていた。


「ああ よろしく頼むわ ええっと パインとリンデルだ 大して使えないと思うが存分に楽しんでやってくれ」

 相変わらずのアッシュの口調とセリフで彼は2人と挨拶を交わしている。


 それに続いてリンデルとパインも軽く挨拶を交わした。


 この公園に人が居ないのはおそらくこの大男の醸す雰囲気のせいだろう。パインは彼が近づくにつれて嫌な汗を脇からしみ出してきていた。


 アッシュの身長よりも大分大きい、おそらく2mを超えている。そしてサイズが無かったのであろう彼のそのTシャツはパンパンに膨れ上がっており、今にもはち切れそうである。下の短パンも腿の太さでアスリートのそれのようにみっちりしている。競技用の服でないのにも関わらずパンパンであった。


 しかしよくTシャツの柄を見ると可愛らしいウサギが中央で果物をかじっていた。


 髪型はドレッドヘアーを一本に束ねており、彼の後ろでゆらゆらしていた。肌の色も黒よりの褐色だった。太い唇から覗かせる白い歯はランランと輝いている。彼がコーダン、アッシュの馴染みの知り合いだそうな。


 もう1人の女性はタンクトップにスリムのダメージジーンズをキレイに履きこなしていた。やや褐色の肌のセンター分けベリーショートの茶髪で、吊り上がった目が少し人を威圧するような雰囲気があった。


「あんた もういいよ 夜の準備してきなね」

 ベリーショート、センター分けの女性ミグーナがここまで案内してくれたチャーギにそう言う。


「は はい では失礼します また夜お会いしましょう」

 チャーギはそそくさとその場を去った。その時一瞬彼に睨まれたような気がパインはした。


(気のせい ・・・・・・ ?)


「おい もういいだろ コーダン放せ 俺も用事あるからよ あとは頼んだぞ」

 ぶんぶんとアッシュの体を振る両手を解き、「アア」といっていた。


「んじゃ またな なんかあったら連絡するわ」

「あ そうだパイン おまえこれ忘れてたぞ」

「あ はい ありがとうございます」

 あのハンマーをパインに手渡し平然とその場を去るアッシュ。


(おいおいおい ・・・・・・・・)

 あっさりしすぎだろう、とパインはまったく事態を飲み込めないでいる。渡されたそれを彼が見ると柄が長くなりアッシュにより少し改良を施されているようであった。


「バケモン ノ トウバツ オレノシゴト オマエラホントハイラナイ ダケド アッシュガイウカラ イッショコイ」


 空気が揺れるほどの重低音である。


「ええっとごめんね あんたらみたいな「クソガキ」は本当はいらないんだけどアッシュさんに頼まれたから仕方なく引き受けたってことよ」

 全然コーダンの言った事のフォローをしていないセリフを吐き出す彼女、ミグーナ。


「何よさっきから くそ雑魚扱いして ・・・・」

 自分の横で小さくなっていただけかと思ったリンデルが女性の言葉に反応してしまう。

「だってそうでしょ 2人とも貧弱そうよ?」

「な ・・・・ なによ」

「オオ オマエ イイ メ シテルナ」

 2人の女性の口喧嘩が始まりそうなのを大男が制す。


「は はぇ?」

 急に言われつい抜けた声がパインからでた。コーダンのその声で女性陣も少し落ち着いたようだった。


「オマエラタメス」


「はい まぁ予定はしていたんだけどね やる価値ないと思うけど まぁ あなた達2人の実力が知りたいからここで1回試験させてもらうわよ」

 ミグーナは通訳なのか、彼の言う事に余計な事をプラスして言ってくる。多分それが彼女達の会話のやり方なのだろう。


「ええっとじゃあ先に男2人で体術 なに? パイン君だっけ君は武器使っていいそうよ」


(ちょ ちょっと待ってくれ 心の準備が ・・・・・・ というかもう無理だろこれ)

 そう思っていたらリンデルにぐいと腰を押された。


「男見せなさい」

 不貞腐れたリンデルは下からパインを覗き込んでいた。

「うぐっ ・・・・・・」


 人と殴り合った事すらないのに初めてがこんな規格外の人なんてひどすぎないか?パインは巨人をチラッと見た。


「ダイジョウブ テカゲンスル オレ バカジャナイ」

「全力でこいってさ」

 ミグーナの通訳も、もはや上の空、パインの頭はパニックになりそうである。

(イボアと一緒だ やるっきゃない やる やるしかない)


--------------------------------------


 アッシュに渡されたあのハンマーを右手に握り、巨人と面と向かう。

 巨人が頭に人差し指を当てここを狙えとジェスチャーしてくる。


(ほんとイボアかよ でもまぁ やるっきゃない)

 パインはダッシュで巨人に向かい、動く様子がない彼の頭めがけてジャンプしハンマーを振るう。


『『ガッ』』


 避けないのかよと思い一瞬目をつぶってしまった。目を開いた時彼の腕がハンマーを手で受けたのが分かった。


『『ぶうん』』


ハンマーごと物凄い力で投げ飛ばされ白い砂地の地面にパインは転がる。が、すぐに態勢を立て直す。ハンマーはまだ彼の右手にある。


(くそっ やってやる)


「ヨワスギ」

 だが巨人のスピードは想像以上であった。転がった場所まで地面1蹴りで詰められパインは頭を掴また。その体勢のまま大きな拳を腹に受け大きく吹き飛ぶ。


「「ちょっと!!」」

 リンデルの叫びが少し聞こえたが、なんだかいつもと違う高揚感がパインを包んでいた。


 いつのまにかやってきた巨人に掴まれ、致命傷にならないところを数発殴られる。地面に叩きつけられ、砂埃が舞う。


 再度のヘッドロックで地面から宙に引き上げられ渾身のパンチがパインの顔面に打たれる。


「「キャーーーーーーー」」 リンデルの叫びと、

「「ちょっと コーダン やりすぎ」」 ミグーナの声。


 パインは無意識に両腕でそれをガードしていた。観客2人はそれを見えていなかったようである。


 パインは空中を巨人の打撃の衝撃で横向きに数回転し、地面に打たれた。


(あームカツク ムカツク なんなんだよ あのやろう)

 ここまでパインが打ちのめされた経験はあっただろうか。おそらくあのカラス以来ではないのだろうか。今までにない感情が彼を埋め尽くしていた。それは彼自身もわかっていた。


 かなり痛めつけられていたのにも関わらずパインの全身から力がみなぎってきていた。


 むくっと立ち上がり、巨人を睨みつける。


 2人の観客は声も出せずそれを見守る。


 するとコーダンは「アハアハ」と変な笑いをし、彼の後ろに置いてある大きな鉄板のような剣を拾い上げる。


「な なによあれ ・・・・・」

 ミグーナがパインに向かって言っている。


(俺そんなにオカシイのか?)

(まぁいい どうなっても 知らないからなっ)


 ハンマーを握り、巨人にダッシュをする。地面が揺れ、空気が振動する。巨人の動きがかなりゆっくりになっているとパインは思った。


 パインは巨人に飛びかかった。左手の拳と右手のハンマーを巨人に何度も浴びせる。


『『ガガガガガガガガッ』』


「「ちょ ちょっとなに!?」」 「 ・・・・ 」


 片方の女性は声を荒げ、もう片方の小さいのは静かな表情をしていた。

 しかしパインは巨人の持つ鉄板が邪魔で上手く致命打を与えられないでいた。どれもうまく巨人は防いでいる。だが今度はコーダンが後ろに引きはじめていた。


(ざまぁねぇよ)

 砂埃が舞う中、パインは。いや、彼が覆う黒い影はコーダンと呼ばれる者とほぼ同じ大きさにまで膨れ上がり、物凄い早さでコーダンに打撃を打っている。


「「な なにも見えないじゃない パイン大丈夫!!!?」」

 あまりの光景についにリンデルもついには反応。パインを心配しだした。

「「ちょっと どうゆうことよ なんなのあいつ」」

 ミグーナが声を荒げると衝撃波が彼女達を襲い、2人とも顔を手で覆っている。


(あまい ふっとべ でかぶつがっ)

 パインは研ぎ澄まされた集中力の中、コーダンの鉄板の真ん中にハンマーの柄ごと握った拳を思いっきり叩きつけてやることにした。


 コーダンはその動きを目で捉え、避けようと身を動かした。だが。


『『ズガーーーーーーン』』


 雷鳴のような音とそして衝撃波が2人から発せられた。


 その音で女性たちの悲鳴はかき消される。


 砂埃が上がった場所から数十メートル先までひしゃげた鉄板を持った態勢で地面を滑り、巨人が飛び出た。


(あれっ くらくらする ・・・)


「「オオオオオオーーーーー」」

「スゲエ チカラダ」


 コーダンは寸での所でパインの拳を避けるのを諦め鉄板を餌食にして防御姿勢を取っていた。彼の叫びの後、砂埃からパタッと倒れる音がした。


--------------------------------------


 砂埃が止んだ場所に倒れたパインがいた。その奥にいるコーダンの服装は見ていられないほどびりびりに破けていた。


 そんなコーダンを無視し、女性陣は地に伏すパインの元まで駆け寄っていった。



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