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【第40話】海の都 ナンテコッタイ とある冒険者の慰安旅行 その5

『バサバサッ』 『クァークァー』


 カモメが、赤黒く染まった甲板の上で食事をしていた。それを男が追い払う。


「なんだこれぇ おお こりゃひっでえ」

 シャツとスラックス姿の腹が出たこの男が、自身らの捜査船から報告のあったクルージングに飛び移っていた。


「うっ ぐっ ・・・・」

 そこに先ほどの男の補佐をしている肩まで髪を降ろした女性も彼の後を付けるように飛び移る。


(なによ これ ひどすぎるじゃない)

 その日の天気は曇り、いつ雨が降ってもおかしくないほどに薄暗い。昨日まで連日いい天気だったのにと彼女をさらに暗い気分にさせる。久々に現場に足を運ぶタイミングでこうなるのはやはり自分が雨女であることをきちんと認識せずにはいられない。だがこの現場はそんな自分の運が悪いとかそういうものを全部忘れさせるほど奇妙でいて、そしてひどい有様であった。


「仕事 仕事だぞ 割り切れ とりかかるぞ」

 近くから上司の声がする。自分に言っているのかそれとも私に言っているのか、とりあえず私も気持ちを切り替えてそれにとりかかる。


 捜査船から、鑑識員達が数名無表情でこちらに渡ってきていた。


「はーい」

 上司に向け、力なく返事をする。


 おそらく彼らはパーティーをしていたであろう、机に酒ビンや料理を乗せていたであろう皿がある。そして、今は転がって隅っこに落ちているステレオ。舳先にある特徴的な柱、その柱は胸の高さからキレイに折られている。その辺り一面が血の海、そして若い女性の手首が1本。その手首の薬指にはめられた指輪。はっとしてあたりを探すと、それが入れられていたであろう箱も確認できた。


 鑑識にそれらを渡す。


 どの部位か断定ができない肉や骨。頭髪。血で染まった服がなぜか棒のようになり所々に落ちている。最初は本当になにか赤い棒だと思ったが、これは服であった。


 内側から無理やり引っ張って吐きだしたためにそのような形になるのかなと想像した。


 海の足の多くある気持ちわるい虫達が所々でそれらに集まり、異様な光景をさらにグロテスクにしている。そして、一番留意すべき所はこの、吹き飛ばされたであろう、この部屋だ。どのような力が加わればこのように吹き飛ぶのか、高さ制限のあるトンネルにその高さよりかなり高めの車が突っ込んだことで起こるそれを想像したが、果たしてそれがここで起きるとは考えられない。やはり、通報した彼女を信じるのが妥当であろう。


「Cランクだとよ やろうと思えば色々やれるんじゃないのか? あの女クレーンと船の免許も持っているぞ」

 上司が彼女のことを疑っているが、絶対にありえないと私は考えた。

「無理ですよ それになんの目的で ・・・・・」

「まぁ 疑えるものは疑っとけ」


 「はぁ」と軽く返し、部屋のあった所を散策していると、その部屋の外側の舳先側に手のひらほどのサイズで描かれた黒い丸のようなものを発見する。それを軽く触ってみるもどうやら焼かれたように黒くくぼんでいた。丸い円が3重になり、それらをひし形の模様が沿うようだったり、円の線に入ったりして描かれていた。なにかの資料で見たことあるなと感じ、写真に収める。そして暗い海を見る。部屋の上部であろうか、それらが海にぽつぽつ浮かび、岸まで打ち寄せられているのが分かる。とんでもない山に当たってしまったと唇を軽く噛む。


 再度甲板を歩いていると。


「あっ!」


 白い刃のような物が甲板に落ちていた。ちょうど長剣が刺さっている部分に落ちていた。これがもし鮫の歯であれば彼女の言っていることが真実に一歩近づく。早朝に電話で起こされ署に行った時、狼狽した彼女の姿を見た。あれは演技ではない。


 あれは絶望とそして、内からドクドクと溢れる怒りだ。


(私と同じ ・・・)

「おし こんなもんだろ 昼までに報告書作るぞ あと船の持ち主に連絡な」


…。


 ぽつぽつと冷たい雨が彼女の肩に降り注ぐ。彼女はこの歯だけを根拠にあの女性の冒険者の証言を正しいと確信していた。その歯を上司には報告せず自身のポケットにしまっていた。

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