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【第39話】海の都 ナンテコッタイ とある冒険者の慰安旅行 その4

「ん? なんだ っておい」


 モチモアはふと目が覚める。

 マユミが自分のベッドに入り込んでいた。というか自分の腕が彼女の頭と肩に回っている。まさかと思い自分の服を確認するも何も着ていない。


 そして彼は彼女のほうを確認するが。。


「ちょっと なによ あたしは まだ落ち込んでるのよ」

 マユミがそう言ったかと思うと今度はモチモアの上に裸のまま乗り始めた。どうやら彼女も相当酔っぱらっているようだ。しかし、


「ねぇ もう1回いいでしょ」

 そのまま彼女が倒れ込みモチモアの耳元でそう呟いた。


(もう1回?)

 「ねぇ」と恥ずかしそうに彼女は目を半分瞑って再度モチモアに呟いてきていた。

 ああ嘘だろ、なんでこんないい所を俺は覚えてないんだ。それができた自分が羨ましい、今は緊張してて何をしていいのかすらわからない。

(どうゆうことなんだー!)

 しかし、ここは男踏ん張れるときは踏ん張らないといけないってどこかの雑誌に書いてあった。

(よし、やるぞ!)

 モチモアとマユミがベッドで踊ろうとした。


…。


『『ドーーーーーン』』


「なになに?」

 突然の轟音が舳先から聞こえてくる。なんだなんだ、とにかく様子を見に行かないと。モチモアはそう思い、電気を消したまま服を着た。彼が横目でマユミを見ると彼女も同じだった。


「「なんだおまえ!?」」

「「ドサッ」」

「「なに!? イヤァァァアア!!」」 『『ガッ!』』


 モチモアが急いで着替えていると、外からブラナンとシオナの嫌な声が響いてくる。緊急事態である。

 服を着替え終わり、そちらに向け、扉を開けようとする。


 この時、瞬時に2人は冒険時の緊張感を取り戻すことに成功していた。


「まって 武器 あんたの これ ・・・・」

 マユミから長剣を受け取る。マユミも銃を持ちいつもの態勢をとる。男組が前衛、女組が後衛というお決まりのパターンだ。いつの間にか2人とも狩りの時の「それ」になっていた。さっきまでの酔いなど彼らは微塵も感じていなかった。


 モチモアはドアを外側に手だけで押し、音を出さないように開いた。そして舳先のほうをゆっくりと確認していく。


--------------------------------------


( はぁ? ・・・ なんだ あれ ・・・)

 鮫か?月に照らされ青白く発光した2,3メートルはあるかと思う鮫に、巨大なヒレが4本ついていた。そのヒレを器用に使い、このクルージングに背中を反るような形で立ち。。。


(・・・・ ううう ・・・・)

 そのサメのような怪物の口元にはシオナとブラナンと思われる赤黒い姿が月の逆光を受けてかろうじて見えた。

 怪物の足元には彼らの武器はない。おそらく不意を突かれたのであろう。その代わりに彼らの四肢の残骸が散らばっていた。


『くそぅ くそぅ ・・・・』

 こんなに順調だったのに、安全な場所をいつだって心がけてやってきたのに、あんな化物見たことも知ってすらいない。なんで、またこのタイミングなんだよ。モチモアはドアの前で歯を食いしばった。


 あいつらとずっと頑張ってやっとのことでそれらが成就する所だったんだ。それにシオナはもう足を洗うとまで言ってたのに。


(なんでだ なんでだ)

「うぅぅ ・・・」

 剣を強く握り、あの化物をどうにかして倒してやろうと頭を回転させる。

『あんた だめよ 逃げるわよ』

 取り乱しているモチモアを見て大体の様子を悟ったマユミがそう言う。

「「ああ!? まだ居やがんのか」」

 化物がこちらに向きを変え、なぜか人の言語を低く大きな声で喋っている。

「まずいっ マユミしゃがんでっ」


 そいつはクレーンを掴むとまるでお菓子のようにポッキりとそれを折り、クルージングの2人のいる部屋めがけて横なぎに払ってきた。


『『バガバガアアアッ』』


 モチモアの頭上を轟音が通過し、2部屋ごと全部吹っ飛ぶ。なんとか2人はその攻撃をかわすことに成功するも、木端やゴミで前が良く見えないでいる。


『『ザッバーーーン』』


 怪物はクレーンを海に手放し、化物が2人の元にまで大股でやってくる。


「「あはは サケクサイのまだいた サケとニクうまい おまえらもそう思うだろ?」」

『『バシュンッ』』

 マユミの弾が化物の顔に当たる。


「「ウハハハハ イテェ じゃんかよ どう ちゃんとしぇびれてるかな?」」

 マユミの銃弾は化物の皮膚を軽く抉る程度にしか意味をなしていないようであった。


「あんた 許さないよ」

 マユミがそう化物と会話しているのをモチモアは聞いた。


 いやだめだって、自分から逃げるっていってたじゃないか。モチモアがそう思った瞬間、怪物のヒレがマユミに襲い掛かる。


『『バッシューーン!!』』

「マユミッ!」


 巨大なヒレが物凄いスピードでマユミを打つ。直撃は避けられたようだが、大分離れた所、船の後ろの部分まで彼女は吹っ飛んでいった。


「おら 化物 女いじめるのは恰好悪いって知らなかったか?」

「「なにを抜かしとる人間」」

 モチモアが叫ぶと、マユミのほうを見ていた怪物は彼の方にくるりと首の向きを変えた。


 青白い巨大なサメが尾びれを足にしてこの船の上に体躯を曲線にして立っている。何本もある歯からブラナン達の血が滴り、落ち、キレイに白く塗装された甲板を赤く染めている。


 怪物は器用に口を動かし、巨大で分厚く丸い胴体から空気を送り込んでモチモアと喋っていた。


「だから おまえ ださいってことよ」

 モチモアは怪物のいるマユミとは反対の方向の舳先までダッシュを開始する。この時彼は恐怖を微塵も感じていなかった。彼自身よくわかっていない。義務感かあるいは使命を帯びた彼の目には月の光がいっぱいに広がっていた。


「「ださい? なんだ 命乞いか?」」

「それは おまえ 助けてく「ださい」じゃないか?」


 モチモアは走りながら後ろを見た。その目が遠くでマユミが立っている姿を捉えた。マユミと目が合うと彼は首を数回横に振った。


(こいつはダメだ ・・・)

 モチモアは覚悟を決めた。それと同時に怪物のヒレが伸び空を切った。


「ダサいってのは ・・・」

 一瞬冷たい風が左に吹いたのかとモチモアは思った。気が付くと自分の左側が。視界も狭い。

 あまりにも早いこの怪物が放った斬撃にモチモアは気づくことすらできていなかった。


「ダサいってのは 恰好悪いってこと ・・・」


 モチモアはいつの間にか力が抜けてしまっていた。彼の走った反動でそのまま怪物の体重を支えているヒレに倒れ掛かるように落ちた。


(俺様はダサくない)

 モチモアは持っていた剣をやつのヒレに突き刺す。モチモアは下半身だけになった自分の体が目に入るもそれを無視し、ありったけの力を怪物にぶつけていた。


(少しでも ・・・・)

「「俺は 恰好悪い ダサいのか!! そうかそか! あははははは!」」


 足をモチモアの剣に刺されてもこの怪物は物ともしなかった。平然と背びれを動かし、歩行を開始すると足元に転がった2つになったモチモアをサメの怪物は覗き込んだ。


「ださいのか?おれは?」

 むしろモチモアの言葉がこの怪物の気を反らすのに成功していた。


( ・・・ )

 モチモアの口が動くことはなかった。


--------------------------------------


 マユミはクルージングから飛び、岩場への着地に成功していた。このまま逃げるのが今は正解だと彼女は理解した。唇を噛んだ彼女の口から鮮血が滴っている。


(っく ・・・・ 絶対許さない ・・・・)

 モチモアが首を横に振った時点でマユミはそれに従うしかなかった。今まで彼女達がやっていた冒険業は危険が付き物。瞬間的な判断が生死を分ける。今までは全て順調だった。それは偶然だったのかもしれない。でもまさか見たこともない怪物に、こうして練りに練った計画が破壊されるとは彼女が思うはずもない。


 一番危ないときに一番いい行動をする。マユミはモチモアの事を思い起こした。


(いつだってあいつは ・・・・)

(本人は気が付いていないのかもしれないけど)

 彼が私に好意を持っているのはずっと前から知っていた。でも全然タイプじゃない私がそれに応えるのは彼にも悪いと思っていた。多分あいつもそれに気が付いて何も私に対して言ってこなかったのだと思う。


(変な気の利き方はできるやつだから)

 今回の旅を発案したのは私、でも実際一番働いていたのはモチモアだったと思う。そんな彼の事を考えて見ているとなんだか私のタイプである男の姿は勝手な幻想なんじゃないかって。

(いやそんな事どうだっていい)


 マユミは首を振る。


 実際こうして私にやさしく声をかけるあいつが、私にも必要だったんじゃないかって。

(はぁ ・・・・ はぁ ・・・・)

(モチモア ・・・・)


…。


 マユミがクルージングを振り返ると、あの化け物が私の事を探して船を歩いている。モチモアの血だらけのアロハシャツがやつの口から垂れさがっているのが遠目で見えた。


 マユミは歯を食いしばった。


 そして彼女は岩場を抜け、まだ深夜の月あかりだけを頼りに人がいる場所まで全力で走っていった。


「「あんれぇ あと1匹いたよなぁ」」

 探すのを諦めた怪物は海へと帰っていく。

 月の灯りが青白いサメの肌と海の波を不気味に照らしていた。

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