【第37話】海の都 ナンテコッタイ とある冒険者の慰安旅行 その2
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「ここらへんだな」
ブラナンがレーダーを見るマユミに場所があっているか確認する。彼はクレーンを操作しアンカーを海面に垂らした。※アンカーは船の動きを半固定する。
純白なこのクルージングは近海まで4人の冒険者を運んでいた。
捕鯨船とは普通大型の海洋生物を引き上げるためのかなり大型の船である。それ以外の設備は必要最低限のはずである。しかし、今彼らが乗っている船は白を基調とする部屋が2つしか付いておらず捕鯨船と比べるとかなり小さい。しかしホテルのスイートルームのようにいやらしいほどに装飾をされていた。誰が何の目的で作ったのかは分からないが、彼らのようにそういった危険な遊びをする者にとってはこれ以上にいい船はないように思える。
天気も良好だ。穏やかな海風が4人の冒険者を包み込んでいる。
「おっけーおっけー撒きますよっと」
モチモアがバケツに入った撒き餌を海にばらまく。純白な船の縁から赤い鮮血が垂れる。
(うっげぇ これの匂いはいつやっても慣れないわ)
昨日の酔いがモチモアにはまだ残っていた。彼はとっととこれを終わらせてベッドに横にでもなってこの船を満喫したいとその作業をしている時は思っていた。
普段彼らは内地で冒険者業をしている。本気で海でそれをするとなると厳つい船や道具などを揃える必要がある。この海の方が稼ぎは良いのかもしれないが、毎日こうして生臭い思いをしたりすると、また陸地と比べると危険度も増してしまう。それに女性メンバーがいるパーティーにとって相性がいい仕事とは言えないだろう。海で穫れた獣を捌く時だって陸地のそれより荒くなってしまう。
こうして気分転換にやるくらいが丁度いいんだ。とまぁそういう俺が一番生臭いのが苦手なんだが。モチモアは空になった赤い液体の滴るバケツを覗いていた。
「あんたいつまで酔ってるつもり?」
両手にバケツを持つマユミが俺の後ろに立ってそう言ってきた。
「いや え?」
モチモアはふらふらしながら後ろを振り返る。
「フフ」とシオナもモチモアを見て笑っている。
2人とも気合を入れたつなぎを着こなしているモチモアだけ海に慣れていないとでも言っているような顔だ。
そんなことはない。たまにブラナンとこうした遊びでここに来ているんだから。口呼吸でマユミの持つバケツを受け取り2つのバケツの中身を海にモチモアは放った。
バケツの中身の血肉につられて空から「くーくー」と声を上げカモメが集まってくる。
こんなの直で食うとか、すげえ奴らだとモチモアは本心からそう思った。
…。
そうこうしてると、ブラナンが装備を1式持って自分達のいる舳先まできた。
「モチモア本当に今日はお前が銛打ちでいいのか?」
不安そうな顔のブラナンがそう口にする。
「大丈夫だよ 今日はお前はゆっくりしてなって」
(大丈夫 イメトレは何度も行ったから)
「そうか じゃあ任せた ほれ」
モチモアはブラナンから銛と靴を渡される。ふと彼が3人の顔を見ると滅茶苦茶不安そうな視線を自分に送っている。
なんだよ、本当に信用ないんだな。大丈夫だって。
…。
「きた」
シオナの高い声が響く。
しばらく4人で話していると目的のやつが暗い海の中から海面まで上がってきた。そいつは口をパクパクさせながら撒いた餌を波しぶきと共に飲み込む。
「でっかぁー」
マユミがそれを見て悲鳴のような声を上げる。
「こんな近海にもホントいるのね でも小さい」
シオナが珍しい動物でも見るような目線をそいつに投げかけている。
「ああ 大分小ぶりだが一応獲れるんだ この場所を探せたのはモチモアのおかげだったな」
ブラナンはモチモアの肩を持っていた。いつだってブラナンはなんやかんやモチモアのフォローはかかせない。
単純なモチモアは喜ぶ。
「そうよ 俺様の勘がここを探し当てたのよ 場所覚えてくれたのはブラナンだけどな」
「なによ それって「たまたま」ってことじゃない」
「運も実力のうちだろー」
マユミがなんか言ってやがるが関係ない。本当にここを発見したのは俺なんだからとモチモアは思った。
シオナはそんなやり取りを聞き流して黙々とバケツからフナオーの餌を1個1個投げて与えている。餌がないと分かればまた潜ると知って、その作業を彼女は淡々とこなしていた。
「ボート用意するぞ モチモア マユミ手伝ってくれ」
ブラナンの声でモチモアは作業を開始する。スパイクに履き替え、銛をボートの近くまで持っていく。ボートまで梯子で降り、固定していたロープを外していく。ボートはこの船の中腹にぶら下がるような形で横づけされている。大人2人用の小型の物だ。
マユミから銛3本と長めのロープ、ブラナンから浮きに使う樽3個を手渡しで受け取りそこに用意していく。
それが終わるとブラナンもボートに乗り込んでくる。
一緒になって手渡された長めのロープを1本の銛に結び、さらにその数メートル後ろ側に樽を連結させていく。フナオーが潜らないための浮きである。
「おし いくぞ 降ろしてくれ」
ブラナンがマユミにボートを下げるよう指示を送る。
「あいあいさー モチモア ブラナンの足引っ張るなよー」
「あ あたりまえだろー!」
ブラナンの苦笑いが見えた。
マユミが機械を操作し、ボートが海面に降りる。
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ブラナンが手際よくモーターを起動させ、さきほど現れたフナオーの近くまでボートをゆっくりと進めさせる。
海の表情は和やかで、まるでこの日を待ってくれてたかのようだ。
『この辺りでいいな』
ブラナンがしばらく辺りを探し、他のフナオーが来ていない事や鮫がいないことを確認した後にそう小声で伝えてくる。
『やるぞ』
小声でモチモアは彼自身とブラナンに対して合図を送った。銛を握り、肩の位置まで上げ、投げのポーズを取る。
(イメトレ通りだ ・・・・ 大丈夫 揺れも少ない 当てられる)
「「シュン」」 「「ドチャ」」 「「おおおおおーーーーーーー」」
黄色い歓声で自分の投げた銛があいつのどてっぱらに命中したのがモチモアはわかった。
(よっしゃー!やっぱ俺できるやん!)
『バシャバシャバシャ』 「「キャーーーーーーー!!」」
フナオーが2人の乗るボートに回り込むように動きを変え水しぶきを上げる。それと同時に女性たちの楽しそうな悲鳴もモチモアの耳に入ってくる。冷静なブラナンはロープから手を離し、ボートのアクセルを操作しフナオーの進む方向に舵を切った。
「うわっちょっちょっ」 「「モッチあぶない!」」
(危ない危ない 調子にのってボートから落ちるところだったぜ)
「「しっかりしろー モチモアー」」
「あいよ」
モチモアはマユミ達に手を振った。
シュルシュルとフナオーが引くロープが海に吸い込まれていく。ロープに繋がれた樽が1個、2個と海に引き込まれていく。
ブラナンが3個めの樽を海に投げ入れ、残り少ないロープをボートの先端に固定した。
「いい位置に刺さったな このままお散歩で奴は疲れるはずだ」
上空からみたらこの光景は確かに元気すぎる犬を連れまわしている散歩みたいだなとモチモアはブラナンの発言に納得した。
船から50mほど離れた位置でモチモアとブラナンの捕獲劇がなされていた。
「あいつ大丈夫かねぇ」
「モッチーなら大丈夫だよ」
マユミの不安をシオナが受け止める、これもこの4人パーティーのいつもの光景である。2人とも海原の水平線に漂う2人を乗せたボートと飼いならされようとしている魚を双眼鏡で覗いていた。
「このボートが安定してた 助かったよ」
モチモアはそうブラナンに声をかけ次にやらないといけない事を思い出しながら行動に移す。
フナオーの速度がゆっくりになってきた。2人はゆらゆらと背びれをくねらせ進む巨大な魚に少しずつ近づき3個目の樽をボートに引き上げる。
最後の樽をボートに引き上げた時すでにフナオーは腹をこちらに見せ、明らかにこと切れる寸前の様子を見せていた。モチモアが最初に打った銛は確実に彼にダメージを与えていた。
モチモアはボートの先にトドメを刺すための銛を持って仁王立ちしていた。
「いやぁ 余裕余裕」
「まて 落ち着け」
そうブラナンに言われ、震える足をどうにかモチモアは抑える。
「な あっ!!」
フナオーが一気に暴れ出し回転を始めた。
それとともにボートがフナオーに吸い寄せられ、ボートもそれに従いグワングワンと揺れる。しかし、2人ともボートのへりを強く握っていたので、海に投げ出されずに済んだ。
(あぶない ・・・ あぶない ・・・)
ブラナンが暴れる魚に合わせてボートをうまく操作していく。
そして飼いならしたはずの海面を漂う魚と再度ボートに立ったモチモアは面と向かった。
(これも うん 想定の範囲内だ!)
「いまだ モチモア!」
モチモアは目でブラナンと合図し、2本目の銛を持ったままフナオーの頭に飛びついた。
フナオーの安定した頭にモチモアの履くスパイクが突き刺さった。彼は着地に成功する。そして飛びついた反動を利用して一気にフナオーの脳天を銛で突き刺した。
(・・・ よし!)
「ズブ」と銛を持つ手にやつの深い所まで銛が突き刺さったのがモチモアの手を通して彼の頭に伝わっていった。彼は体を反転させ、自分を見ているであろう3人の観客にガッツポーズを披露する。
「「うおぉぉーーーーー!!!」」
「「キャーーーー! やったやった!」」
船で再度黄色い歓声が鳴り響いている。
「お疲れ もう大丈夫だ こっちに来れるか」
ブラナンの声がやっと耳に入りボートに入ろうとする。
(あれっ)
モチモアはスパイクの刃をフナオーから抜くことができなかった。彼はバランスを崩しそのまま海にダイブしてしまう。
その時にフナオーの天を見た大きな眼球とモチモアは目が合った。彼は度肝を抜かれた。
「「うおぉ おえぇっ」」
「おい 落ち着けって もう死んでるから」
モチモアは危うく溺れかけたが、ブラナンの差し出す手に捕まりボートに引き上げられる。
「ふぅぅーーーー」
「大丈夫か?」
モチモアの震える肩に手を当てそうブラナンが聞いてくる。
「ああ ありがとう」
モチモアの震えは次第に治まっていった。
沈みかけるフナオーに銛と樽を再度取り付け、ブラナンはボートを2人の女性の待つ船へと向きを変え進ませた。
「上手くいったな」
「ああ おかげ様で」
モチモアはボートの後ろで濁った目のフナオーを見つめ、再度ため息をついた。
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ボートが船の下まで来る。マユミはクレーンを操作し、2人はフナオーの口にクレーンから垂れさがる巨大なフックを差し込む。銛と樽をボートに収め、巻き上げを開始してもらう。
…。
「「おおおおおーすげぇーーーー」」
マユミは今回海での狩りが最初だったこともあり、吊るされたフナオーに感動している。
4人一緒になってこうした狩りをしたのは初めてだったとモチモアは思い返した。我ながら成功してよかったと彼は胸を撫で下ろした。
「モッチーやるぅー」
「ちょっとあたし まじ感動してんだけど」
はしゃぐシオナと棒立ちのマユミの姿をモチモアは呆然と眺めていた。
4人で記念撮影が始まり、その日の前半が終わろうとしていた。
…。
「んじゃあ お次は皆さまお待ちかねの解体です」
ブラナンも珍しくはしゃいでいた。
3人は平然とその作業を進めようとしていたが、モチモアは二の足を踏んでいた。
(うぇっぷ ・・・)




