【第36話】海の都 ナンテコッタイ とある冒険者の慰安旅行 その1
ここからパイン達とは別の冒険者が出てきます。
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『『アァ~チ~ グラァーバ~~ァティ~~ィ ♪』』
((ロマンチックな曲を奏でるバンドが暗く良い雰囲気のバーの壇上で熱唱する))
ここはパインの町「アビファーマ」から遠く離れた南西に位置する海の町、「ナンテコッタイ」。この島国の南西側は常に夏の天候になっており、年中無休で海での商売や生活に勤しんでいる。しかし、今夜はわざわざ別の地方からここに来ている者が多かった。これから紹介する4人もここ南国の町出身ではない。彼らは「ナンテコッタイ」の知る人ぞ知るおしゃれなバーに来ていた。
そのお店に来る人々はこの町に住む人々や海での仕事を生業とする者達だ。店内は薄暗く、点在するオレンジ色のスポットライトのみがそこを照らし出している。比較的若い男女が店に入り乱れ、田舎の町であってもここは今日も華やかに賑わっていた。
「どうだ いいだろ ここ」
そう喋る者の名は「モチモア」、褐色の肌にドレッドヘアーをあしらえ目がくりくりした青年、身長は平均より少し高い。今回は彼がこの物語の主人公となる。
「ああ わざわざありがとう」
その向かい側に立っている色白で長身の鼻が高い青年、名は「ブラナン」4人組のリーダーで少し繊細な性格だ。髪は長くパーマを当てている。
「こうゆう所あんまり来たことなくって このドレス大丈夫かな?」
男2人と少し離れたところで喋る2人の女性の内の1人。名は「シオナ」ブラナンと幼馴染で4人が冒険者になる前から彼と交際をしている。色白で黒髪を長く伸ばしている。性格はしっかり者だが、決断するのが苦手といったところか。
「あんたねぇ 妬いちゃうくらいよ やめてくれる?」
そう返すのはシオナの向かいで足を組んで座っている「マユミ」。タンクトップとショートパンツを着こなす活発な女性である。髪型はベリーショートだ。
ブラナンとモチモアは両者とも最初は1人で冒険者業をしていた。そんなある日ブラナンがモチモアを助けた事をきっかけとして組むことになった。
女性2人は最初から幼馴染という事でパーティーを組んでいた。
ブラナンは彼女であるシオナに対して冒険者業は辞めてほしいと常々言っていた。それに対して彼女は自分の意見を譲ることはなかった。なぜ彼女が冒険業に身を投じているのかブラナンはわかりかねていた。次第に彼女達の生活が厳しくなるのを見ていたブラナンはそれを見かねていた。ついに彼女をパーティーに誘った。
そこから5年間、4人は苦楽を共にしていた。
「やっぱそれなりに時間かかったよなぁ やっとCランクまで上がれたんだ 今日と明日は楽しもうぜ?」
そう陽気にアロハシャツを着こなすモチモアがブラナンに話す。
因みにCランクという冒険者の肩書を得るのは大変だ。あのイボアですらDランクという位置づけだ。彼の頭突きで犠牲になった冒険者は過去に多数存在する。
Dランクの獲物を月に2体以上役所に納品し、それが1年以上欠くことなく続けることができれば昇格となる。とは言っても肩書とはその名ばかりで、せいぜい怪我や引退時の補償がでるくらいだ。
皆がその肩書を求めるのは生活よりも「見栄」の方を大事にしているように思われる。
「ああ 楽しませていただくよ 皆がいてくれたからここまでこれた ・・・」
少し強めのカクテルに酔ったブラナンはシャツの袖をまくりながらそう答える。
『『アアァ~~イィ~イ~~フッゥゥ~~~♪』』
壇上のボーカルの大きく開けた口から爽やかな、しかし悲しげな調子も同時に伝わる声がモチモア達のいる空間に響き渡る。
曲が終わり、その間を爽やかなBGMが流れる。
「ちょっかいだしてくるわ」
モチモアが辛気臭くなってるブラナンのそばを離れる。
「明日も一応仕事だからな あんまり羽目外さないでくれよ?」
真面目なブラナンはモチモアの行動を心配した。
(もっと楽しめばいいのになぁ~あいつ 真面目なんだよなほんと)
「あいよっ」とモチモアはブラナンに返した。彼は自分に視線を送る女性がいないか辺りを探すことにした。
モチモアがぶらぶら歩いても彼が期待していた視線の持ち主はいないようであった。彼はしかたないので自分のメンバーの女性2人に話しかけにいくことにした。
「俺以上にいい男いたかー? マユミ」
2人で楽しそうに喋る彼女らにそう水を注いでみた。
「はぁ? それここにいる男全員じゃないの?」
マユミもマユミで中々面白いこと言ってくれるので助かるとモチモアは笑った。
「シオナ あたしちょっとお酒とってくるわ あブラナン空いたみたいだよ」
「あ ごめん モッチあたしも行ってくる」
なぜかモチモアはシオナからモッチと呼ばれている。
もうちょっとカッコいい呼び名で呼んでくれてもいいのだがしょうがない。そんなことより、また俺1人になっちまった。なんでこんないい男を1人にするのかねぇ。誰も魅力を分かっていない。そうモチモアは思った。
モチモアはバーカウンターに行き、濃いめのジンをロックでいただく。彼は「珍しく」喋り相手がいないと思っていた。そしてカウンターの席に座る。内心では自分は女性に縁がないとボヤキつつ濃いめのアルコールを胃に流し込みながら我に返ったりしていた。
「ねぇお兄さん一緒に飲みましょうよ」
おお、ついに俺の魅力に気が付く女性が現れたとモチモアは思いその声の主を見た。
同じドレッドヘアーで如何にも優しそうなふくよかな女性。しかし彼のタイプではないようだ。
「ああ ごめんよ いまそんな気分じゃないんだ」
それを聞くと彼女はむっとした様子でモチモアの後を去る。
(俺様はもっといい女じゃないとダメなんだ)
自分の力量がわからない男ほど悲しいものはない。モチモアはチビチビと格好つけてジンを啜っていた。
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長身の男ブラナンがその彼女シオナと明日の事で会話している。
「船はいけそうか?」
そう手短に彼女に言う。
「大丈夫 小さい頃よく乗ってたから でもさ貸し切りだなんて ・・ あの2人に無理させてない?」
今回の旅の企画はモチモアとマユミの案で、主に経理面を担当するシオナとリーダーであるブラナンに慰労をこめた旅でもあるようだ。
「ああ詳しくは見ていないがおそらく大分無理してると思う 今後の配分少し変えていかないとかもしれないな」
「そっかぁ じゃあ楽しまないとね」
「そうだな ちょっと前まで行こうか」
ブラナンが彼女の手を引いてバンドの前まで連れていく。
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「ああ ごめんアタシちょっと用事思い出した まったねえぇ」
マユミがさっき出会ったばかりの港の男との会話を打ち切った。
「いつも通り」うなだれた様子のモチモアの隣の席まで彼女は足を運んでいた。
「ねぇ おいあんた うわ大分しけってるわねぇ 明日は大丈夫なの? ちゃんと計画してるんでしょうね?」
「なんだマユミか 大丈夫だよ ちゃんと下調べはしたから それにブラナンだってもう準備はできてるよ」
しけっているとは失礼だ。たまたま目当ての女性がいなかっただけだ。モチモアは憂鬱な気持ちをまだ拭いきれていなかった。
そう、明日はブラナンがシオナにプロポーズをする。
こうしてモチモアとマユミが大金叩いて捕鯨用のクルージングを手配し、ここ「ナンテコッタイ」に来たのだ。マユミの情報網がシオナの好きな「バーリスト」っていう洒落たバンドのシークレットライブを捉えた。今この店のステージで演奏しているのが彼ら。シオナとブラナンはかなり喜んでいた。
あとは安全に「フナオー」を獲るのがモチモアの仕事だ。
「フナオー」を狩る事は冒険者界隈で危険との情報が出回っている。だがそれは沖から数キロ離れた地点に生息する大きい奴や群れに遭遇した場合だ。実際沖合の近い所でやる分には大して危険ではない。一般人でもそれを目的としたレジャーがあるくらいだ。実際ブラナンと一緒に何度もそれを経験しているので、悪天候で大海まで流されない限り平気だ。それに、あのクルージングの性能は生半可な嵐くらいじゃビクともしないとお墨付きだ。それくらい大金を叩いてやったんだ。モチモアはボンヤリした頭でそう思ってはグラスに目を落としていた。
(実際ブラナンには相当世話になったからな ・・・・・・)
「いや 喋れよ 考え込むなって」
マユミが自分のとろんとしたカッコいい目に突っ込みを入れている。そりゃ突っ込みたくなるくらいいいツラ携えてるんだからよぉ。モチモアはまだグラス片手にそこを見ていた。
「ああ 大丈夫だよ」
「まったくもう ・・・・ アタシも持ってるんだからね?」
「むにゃ ・・・・」
マユミは傷心した俺様の心を気にかけてくれる。やっぱ生き様がいい男にゃいい女が必要だ。
「おい 寝るなって」
barカウンターにマユミのツッコミがさく裂していた。
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「ほんと素敵 バーリストあなたが最初教えてくれたのよね」
「そうだったな ライブはこれで3回目か?」
「そうよ あ 今目が合った!」
海のすぐ近くにポツンと建てられたバーに美しい男の歌声が響いていた。




