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【第34話】巨獣の白い残渣の運搬

 山を下り、パインの住む町「アビファーマ」を抜け、そして何個もの町をアッシュの運転する車が横切った。彼らがいた山は「ローカス山」と今は呼ばれている。


 運転席から流れる陽気なBGMが鉄の車体を通してパインの耳に入ってきていた。聞き覚えのある曲がパインに冒険を忘れさせた。彼はここは是非ドナドナを流してほしいとアッシュに願った。疲れ切ったパインの頭の中は誰ぞ知る、おかしなものになっていた。


 車のBGMとそれを無視したパインの頭の中で流れるドナドナ。荷台の上では重い道具箱や布に包まれロープが巻かれた物、建築で使いそうな資材や大き目の道具が彼と共に揺られている。


 景色は田舎の街並みから徐々に徐々に変わり、背の高い灰色の建物や交通機関がパインの目に映し出されていく。


 舗装された道はいよいよ綺麗な平になり、街中を走らせた時の揺れはもうなくなってきた。しかし、それに伴い人々も増え、こうして荷台に乗るパインに向けられる行き交う人々の視線が彼は耐えがたくなってきている。


 一体いつまでこの車の荷台に乗っていればいいのか。


 パインは脳内で再生されているドナドナを流すのをやめた。


(はぁ ・・・ 疲れた)

 ふとガラス越しにリンデルとパインは目が合った。

 彼女はパインのその様子を悟ったのか、意地の悪い笑顔を彼に向けて作っていた。


(むかつくな ・・・)

 お尻と背中も硬い荷台の床に傷めつけられ、限界を迎えようとしている。その事を車の運転手に伝えようか、またはもう少し粘ろうかパインは迷っている。


 すると、パインが騒ぎ出すのを分かっていたかのように車は大きな背の高いビルの駐車場に吸い込まれるように入っていった。


『『ガダンッ!』』


 アッシュの運転する車は建物に入った時の段差で激しく揺れた。


 パインは今まで以上に背中を車に打ち付けてしまい痛がった。彼はため息をもらす。少しは気を使ってほしいものだと。


 アッシュが駐車場のシャッター前で守衛の男と話をしている。厳重に立ち入り検査をしているようだった。


 ちらとその男とパインは目が合った。彼は何か怒られる雰囲気を感じたが、彼はシャッターを上げこの車の案内に興じていた。


 パインはやっとこの荷台から解放されるも、硬くなった腰を上げるのが一苦労であった。


「その角だけもってこい」


 パインのそんな様子も知ってか知らぬかアッシュはそう一言添えてこのビルの中に行こうとする。


 台車を使っていいか尋ねると「だめだ」と厳しく言う。しょうがないので角を一生懸命に荷台から引きずり、大きな角を腕で抱えた。


(スパルタだよな ・・・ いつでも)


 リンデルはこの建物の事を知っているのか、長く天空に伸びたビルをその小さな身を反らして眺めている。


 パインは持ってよと彼女にアピールするものの、彼女はあのずる賢い意地汚い笑みを作っては彼の周りをくるくると何周かする。そして、そそくさとアッシュについてビルに入っていった。


「はぁ ・・・」

 パインは自分だけ嫌な思いをしている気がして、つい自然に体の中から溜まっていたガスが抜けた。


--------------------------------------


 ビルには特に何も看板等もかかっておらず外から見ただけだと何をしている場所なのか全くわからない。

 実際こうして中に入ってみてもよくわからなかったが、薬品の匂いが微かにしていた。そして床も壁も白いシンプルな作りなので「実験室」または「病院」のような場所である可能性が高いとパインは思った。


 廊下から部屋の中を覗き込むと白衣を着た人がなにやら作業をしているのが見えた。やはりそういう場所であることは間違いなさそうである。


 前方の2人はまだ会話を楽しんでいるようだ。この空間が楽しい場所とはパインには思えなかった。

 そんなことを思いつつ、パインは前にいるアッシュとリンデルの背を追う。そしてエレベーターに乗り、ほぼ一番上に上がっていった。


 エレベーターを起動する際にアッシュが彼自身のIDをかざしているのが見て取れた。田舎の大工から急に都会人に化けたような、そんな違和感を覚えた。


 エレベーターを降り、灰色で薄暗い廊下に出る。下の階にはなかった厳重なロックを持つドアが何個も並んでいる。そしてバイオハザードマークがそれに描かれている。


 その中の1つのドアに3人で入る。


「お久しぶりですアッシュ様」


 黒髪をセンターで分けメガネをかけた男が出迎えてくれた。

 ところどころそばかすを付けた色白な人であった。彼は少し緊張しているのか、少し声が震えているようだった。


「あ! それですね こちらに置いてください」

 メガネの彼が自分に気を使って机に角を置かせてくれる。ここ数時間誰もそれをされていなかったからか、彼に対して物凄い感謝の念が湧いてきた。

 つい「ありがとうございます」と満面の笑みをこぼしてパインは言った。


 それに反応して小さいのと大きいのが軽く舌打ちをしていた。


(2人に俺 なにかしたか?)


 角を置いた机以外にも何個か机があり、それらを囲むように見たこともない実験道具がずらりとこの広い部屋に置かれている。


「まぁ 調べてくれや」

 アッシュがそう言うと、男はメガネをくいと動かして角をなめまわすように見ている。


「はい 色々調べさせてもらいます」

「えっとごめん これお金にはしないの?」

 唐突に小さいピンクがそうアッシュに詰め寄る。

「しねぇよ バカかよおまえ」

「うっ ・・・・」

 リンデルはアッシュの言葉に少しダメージを負ったようだ。パインはそれを見てつい笑ってしまう。


「Bクラスだ おそらくあれも出てくる このチビにでも持てるような得物に仕上げてくれると助かるんだが」

 アッシュがそうメガネの男に言う。


「そうですね 文献で見たことあります しばらく時間いただきますが そうさせていただきますよ」

 男がリンデルの方を見てそう口にする。


「えーアタシに作ってくれるの!?」

 リンデルが目の中に星を作ってそう口にする。


「やるとはいってねぇ」


 しかし……。


 一番の功労者であったはずのパインが何故か話の輪に入れてもらえない。「どうしてか」と彼は自問自答するも答えは出てこなかった。別に角が欲しいとかそういうのではない、ただやるせない気持ちが出てきたのは事実である。


 パイン以外の人間は話が済み、空調が完備されたこの部屋を出た。彼はずかずか進むアッシュの背を追った。


(なんだかな ・・・)

 少し嫌な雰囲気がするこのビルを這い出した。


…。


「次は「フナオー」だ リンデル そいつと一緒に道具用意しろ あと」


 アッシュが車の前で2人にそう伝えると彼はポケットから四角い黒い端末をリンデルに手渡す。


「こいつ持ってろ 3日前後に出航できるよう手配しといてやるから それまで待機な」


 (何を手配? 全く意味がわからない)

 「フナオー」はおそらく次に狩る予定のあの金魚だろう。パインは疲れた頭で色々考えてみるがほとんど何も思い浮かばない。そのためかアッシュの伝令に彼は反応できずにいた。


「あとパインおまえ お前のにも連絡いれっからちゃんと持っとけよ 自分の部屋に置いてるだろ」

「あ はい わかりました」

 パインは重くなった頭でなんとか返事をした。そういえばここ数日ずっと携帯を持っていなかった。充電しっぱなしの携帯の姿を彼は今やっと思い起こした。


「あの お金 ・・・・」

 リンデルがそう口に出す。


「おまえ あのイボ骨換金してたよな? 知ってるからな」

 そうアッシュに言われるとギクと体をさらに小さくさせ「はい」と小さく答えていた。

「そいつにスパイク靴と銛買ってやれよな」

 リンデルは「ううう」と小さく呻いていた。


 アッシュは車に乗り込み自分ら2人を都会の真っただ中に置いて車を出していった。去り際に、逃げたり準備できてなかったらどうなるかわかってんだろうな、とドスを利かせてリンデルに言い放っていた。


 アッシュの性格を考えるとそれが普通の行動のようにパインは思ってしまっていた。


「行くわよ」

 リンデルがそう口にし、ごく自然にパインは「はい」とだけ返す。


 彼女と共にこのビルの駐車場を後にした。

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