【第33話】川辺を発つ
「あんた 起きなさいよ いつまでそこに居るつもりなの? 邪魔なんだけど!」
パインはリンデルの黄色い声で目が覚めた。
彼女とは昨日知り合ったばかり。その彼女はアッシュに昨日の片づけをやらされているようだった。まだパインは頭がぼーっとしていて、目に映る光景が夢か否か確認できていなかった。
アッシュがリンデルに冷たい視線を送っている。彼女はそんなことお構いなしにパインを引っ張り上げ、一緒になって片付けをさせようとしていた。
今パインは気が付いた。全身が非常に怠い。
それをアッシュはもしかしたら気がついているのかもしれない。物凄い力を使った事をやっと思い出していた。
…。
最終的にパインはみんなの荷物を束ね全員分の荷物を背負っている。
「ちょっと なんで俺だけこんなに荷物 ・・・・・・」
大きく膨らんだリュックを背負い、かつ大きな角をパインは両腕に抱いていた。
「当たり前でしょ あたしの方が年上だし」
彼女のどや顔が朝日の逆光を受けている。
「そうなんですか?」
パインはついリンデルにぽろっと本音を言った。すると明らかに彼女の表情が苛立ちの感情へと変わっていった。
「なによどんな風にあたしのこと見てたのよ!」
どんな風にと言われてもパインはよくわからなかった。「よくわからない」そう答えようとすると彼女は自分から逃げるように座っているアッシュの方に駆けだしていった。パインはその姿を目で追ったのみ。
アッシュがやれやれと重い腰を上げた。
また1つ、この川辺はパインに思い出を作った。
3人は川辺を去り、別の目的地に向け足を揃えた。
…。
「ねぇ あの台みたいなやつあれ2人で作ったのよね? なんなのあれ? 放置してていいの?」
身軽な2人がパインを置いて数m先で何やら話している。
「ああ そうだな またお前らに働いてもらうわ」
アッシュがまだ眠たそうな目をこすりながら呟いていた。また準備ができ次第3人でログハウス作りを進めるようだ。
「えぇ!? あたしも?」
その声と共に少し歩くペースが遅くなっている。
(すごい元気だな)
昨日の疲れ切った彼女の横顔と今のそれを比べてパインは少し笑ってしまった。しかし、今アッシュが足を進める先は町の方向ではない。なぜかこの山を登りも下りもせずただ、山の外円沿いを時計回りに歩いている。
「すいません アッシュさん どこに行くんですか?」
パインは荷物が重いこともあり、後ろから正直にそう聞いた。
「ああ? だまってついてくりゃいいんだよ」
そう言うアッシュに「そうよ そうよ」とリンデルが続けて口を開いていた。
パインにはそれに反応するほどの元気がない。ただ、彼女が本当に自分よりも年上なのかという疑問だけが頭に残っていた。
こうして前の2人が楽しそうに喋りながら歩き、パインはそれにどうにかついていくように舗装された山道を歩くといった形だ。
荷物の重みはパインを苦しめた。だが、彼が見るこの山から見える町の景色は歩くにつれ、木に隠れたりひょっこり出たりと彼を楽しませてくれていた。次第に町よりも海の景色が彼の視界全体を占めるようになってくる。
この山から見下ろすようにして見る海は美しい。その海にはいくつもの船が浮きその周りを数匹の鳥たちが囲んでいる。朝日が海に反射し輝き、そしてその上に広がる澄み切った青い空が美しいシーンを演出していた。
(まぁ ・・・ いっか)
3時間ほどか、おそらくそれくらいパインは歩かされただろう。
「そろそろ着くぞ おまえ相当疲れてね?」
アッシュが足を止めパインにそう声をかけた。そしてパインの角を彼が持った。
「あ ありがとうございます」
涼しい空気の中、ただ1人だけ汗びっしょりで歩いている様は何かの「嫌がらせ」のようにも見えてしまう。
「私のことバカにした罰よ」
パインは彼女を全くバカにした覚えがない。彼女にそう言われつい頭に来てしまう。
「いや バカにしてないから ただそう見えたってだけですよ」
その言葉がさらに彼女を苛立たせてしまったのは言うまでもない。
「おまえら ・・・・ ほら着いたぞ」
年長のアッシュがやれやれといった表情で2人を見た。
そこにあったのは倉庫と家がくっついたような建物であった。その正面に広い駐車場があり、そこに数台の車が止まっていた。
「なにこれ倉庫じゃない ・・・・」
「で でかい ・・・・」
ここはなんですかとパインは彼に問いかける。持っている家の内の1つとアッシュは答える。
いったいアッシュは何者なんだろうと、再びパインの頭の中でその疑問が湧いてきていた。
…。
パインはアッシュの命令でその倉庫のような家に止まっていた1台の車の荷台に全員分の荷物を載せる。
この車は2座席しかなかった。助手席に乗ったリンデル、パインはそのまま荷物と一緒に荷台に乗り込んだ。
そして彼らはアッシュの倉庫の中を見ることなく足早にそこを去っていく。アッシュは車を出しながら誰かと連絡を取り「今から行く」とだけ伝えていた。
整然とならんだ彼の荷物と自分達の荷物、そしてあの白い角を抱えたパインを乗せ、車は山を下りていった。




