【第27話】捕獲成功
「「着いたー!!」」
何時間走ったのかすら思い出せない。とにかく物凄い時間走った。
「やってやったぞ!」
パインはほんのり明るい夜空に向けて叫んだ。
最後の方は記憶すら曖昧だ。愛車を置いてきたのが心残りだが、それでもここまで走ってこれた自分に満足した。しかし、この川辺を離れて少しの間しか時間が経っていないはずなのに、随分長いこと離れてしまった。
(なんでかな ・・・)
いつの間にか朝日が街の方角から顔を覗かせていた。空気が澄み渡り、辺り一面に響く鳥の清らかな声。それらを運ぶ風がパインに優しく触れる。
誰もいない。川辺を歩き回りパインは体の熱を冷ました。何も無い、あるのは自然とその声。それらが彼の体に染み込んでいく。
…。
(ふぅぅ ・・・)
パインはいつの間にか汗が引いた額と腕を朝日で照らされた輝く川の水で洗い流した。
「眠い ・・・」
彼はテントになだれ込んだ。
「zzz ・・・」
あっという間に彼は眠りについた。
パインはそこにアッシュがいないというのに何の違和感を感じることもなく、そのまま深い眠りについた。
//////////////////////////////////////
(さてさて 物色しましょうかね 他に誰かいる形跡はない ・・・ と)
(なんでこんな鈍くさいガキがイボ骨を獲れるのかねぇ)
1人用のテントに入り、豪快に寝息を立てる青年の様子を外から覗くピンク髪の女性。
青年の謎の正体を探るべく少女のような見た目のこの女性が川辺を物色していた。
(なんだこの足場と丸太? あいつ1人でこんなもの作って ・・・・ いや違うな)
(でも 他に誰かいる痕跡はここらにはないし ・・・・)
そして、それを確かめるためパインの寝息のするテントの前に立つ。
(まぁいいわ めぼしい物があればそれでいいし)
音を立てないようにテントのジッパーを開け、中に入る。
(うわぁ 男臭い ・・・)
無事テント内に入り込み、パインの寝息の中そそくさと金目の物を探す。
(やっぱもう1人居たようね この鞄はこいつのじゃなさそうだし え~と ・・・)
女性はアッシュの荷物に手を伸ばす。そしてその本や書類に目を通していく。
(あれ 思っていたのと ・・・ なんか違う ・・・)
1つの書類が女性の思考を乱した。
「特定指定生物調査」明らかに一般人では見ることのできないようなものものしい書類。政府やら国家とやら書かれたその書類を見たことで普段慣れているはずのこの行為に二の足を踏んでしまう。
(ちょっとアタシ ・・・・ まずいとこ来たかな)
女性は背中から冷たい汗が滲んでくるのを感じている。そしてここからすぐにでも離れようと直感で決めた。
「 ! 」
(あれ ・・・・ ?)
自分の体が宙に浮いていることに気が付いた。
(えっ!? ちょっ!)
背中を荷物ごとわしづかみにされていることに気が付き、それに抵抗しようと体を捻ろうとするも上手くいかない。そしてそのままの態勢でテントを何者かによって引っ張り出される。
「いやぁあああああああ!」」
足が川特有の丸石に着いたかと思うと、両手を背に紐のようなもので結ばれた。そして座らされた。
体が宙に浮いてからここまでほんの数秒である。抵抗する暇さえ与えてくれなかった。
「やぁ お嬢ちゃん なんでこんなとこ居るのかな?」
長身の男性と女性は初めて目が合う。
明らかに身のこなしが、さっきまで前を走っていた男とは違う。短いあごひげ、長い手足。息を1つもあげずに無表情、年期の入ったかなりの手練れ。この男は明らかに私が今まで相手にしてきた冒険者とは格が違う。女性はそう悟った。
「まぁいいや 訳は後で聞かせてや ・・・ クソねみぃ 」
男は「ふぁぁ」と口に大きな手を当て、のろのろとテントに入っていった。
(まったく気が付かなかった ・・・・)
人よりも気配の察知なんかはできる方だ。こうして今までやってこれたんだから、そこに対する自信はあった。あの鈍くさいのを追って6時間ほどか、いくらでも気配を察するタイミングはあっただろうに。
(それが できなかった)
(それに ・・・)
縛られたのはこの両手と背中の丸太。少しの遊びもなく縛られ脱出は不可能。
(なんなのあの男ら ・・・・・)
(なんでこんな所に丸太が多量にあるのよ 意味がわかんない ・・・)
(あ~もう嫌 ・・・・)
走っている途中で体力剤を2本使ったので目はギンギン、体はポカポカ。
そんな無駄に元気があるせいで、こうして何もしていない時間がひたすら長く感じてしまう。
(バチが当たったのかな ・・・・)
朝日の光を受けるテントと森を女性は遠目で見つめていた。
(はぁあ ・・・・)
…。
女性は過去を思い起こしていた。
前は冒険者の大きな組織に所属していた。現場で数名と組んだ。イボアだって何体も獲ってきた。補佐ではあるけどもっと上位のものだって狩っていた。
その他の業務、組織の運営だとか人の管理だって別に卒なくこなしてきた。冒険者なら誰もが憧れるような立ち位置に私は居た。
(ただ ・・・・)
月にもらえる額はほぼ固定、そんなのつまらない。
物足りなくなるわ。
(だから抜け出したのよ ・・・・)
(だけどね ・・・・)
1人で頑張った所で経費もかさむし、なにより体力と気力がどんどん減っていく。そんな日々が私に今の「仕事」を思いつかせることになってしまった。
(まぁ それも飽きてきた所だしなぁ ・・・)
半ば躍起になってピークックをひたすらショットガンで潰しまくっていた所だ。色々バチが当たって当然なのか。
( ・・・・ )
(むしろ止めてほしかったのかな ・・・・)
その時ふとあの金髪の青年の真っすぐに自分をみつめる瞳を思い出す。
( ・・・・ )
川の流れる音が女性の意識を様々な方向に流していった。
…。
(来たわね ・・・・)
3~4時間か、いやもっと短いかもしれない。女性は身を引き締めた。
彼がこれから行う事を彼女はなんとなく想像していた。
(はいはい 動けませんよ)
「で 目的は?」
男が身を屈めそう言ってくる。ストレートな質問だった。
(うぅ~~ん ・・・・)
彼女は無表情な男性のその顔にウソはつけないと悟った。
(良いわよ 別に ・・・・ もう)
…。
「ふぅ~ん カモにしようとしたのか まぁ あいつ鈍くさいしなぁ」
彼女には何がおかしいのかわからなかったが、男は笑っていた。
「1個骨ありゃしばらく生活できるだろうに わざわざついてくるなんざおまえ あいつのことバカにできねぇぞ?」
(そうよね ・・・・ なんででしょ ・・・・)
たしかにそう。今思うとなんでわざわざ、こんな所こんな山奥にまで、体力剤使ってまできたのかと。彼女はそう思いため息を漏らす。
するとアッシュは彼女の鞄をまさぐり彼女のIDカードを探し出した。彼はそれを手に取り、それを機械でスキャンをはじめた。
「あ~ どおりで見たことあると思ったんだわ」
「えっ ちょっと 何してんのっ!?」
(IDから個人を特定できるのは政府公認組織くらいよ ・・・・)
「ああ自己紹介だが 俺はな ・・・」
……。
その男の告白は予想通りか、いやもっととんでもないかもと彼女は思いをめぐらせることになってしまった。
「まぁそんな感じだ あとは想像にまかせる」
「 ・・・・ 」
(どうしろっていうのよ ・・・・)
「まぁ あいつの世話と比べればお前なんかなんでもねぇからさ とりあえず手伝えや」
彼女は急なアッシュの暴言に少しイラっとした。今それを表に出すほど馬鹿じゃない。
「はい ・・・・」
そう答えるしか彼女に選択肢はなかった。




