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【第21話】森の夢

 暗くなった森に囲まれた川辺にポツンと焚火が光り、その周りに4つの歪な形の切り株とそれに腰を下ろす2人の男の影が浮かび上がる。


 森からはいつも彼らが聴く虫や動物の声はなく、ただ焚火の音とそれを囲む2人の楽しそうな話声だけがあたりに響いていた。


 仕事を終えた彼らの宴会の軽い食事が切り株の上に乗せられている。


 すでにそれを半分ほど平らげた2人。

 彼らだけの特別な夜会は不思議な山の鼓動かの如くますます盛り上がりを見せようとしている。


…。


 2人の箸が止まり、急に真面目な雰囲気が焚き火の回りに漂い始めた。


--------------------------------------


「アッシュさんちなみに何者なんですか?」

 パインがそう聞く。


 相手は大きく肩だけで笑った。彼の肩がぷるぷると震えているのが影からわかる。


 焚火で照らされたアッシュの影がパインの目には大きく歪んで映り込んだ。次第にその影は大小様々な鋭い刃物の形へと変化していった。その影は焚き火で照らされた白くて丸い石が輝く地面を踊る。


『『グルン グルン ・・・ グルン』』


 その光景を見て思わず「うわぁ」とパインは声を上げてしまった。


 パインの声に合いの手を打つように、影でできた刃物が不自然にくるくると不穏なリズムの中を動く。それらはスピードを早めたり、または緩めたりしている。


 目をすぼめるだけでその不思議な光景に何ら行動は起こさなかった。しばらく彼がその不気味な光景を見ている内に彼の目はトロンとしてきてしまう。


 そんなパインの様子をあざ笑うかのように、影でできた刃が彼を目掛けて飛んでいった。


「「 ! うっわぁ ・・・」

 パインは身をよじり避けようとする。


「いや お前こそ 何者なんですか?」

 影でできた刃物の先が形を変え色を添える。それはアッシュの頭髪となり、そこから目、鼻、口と彼の顔に変形していった。


『ドク ドクドク ドク』

「お前 オマエ オマエ」


 アッシュの口の動きがパインの心臓が打つ音と同調する。


『何者なんですか?』

(うい うぃぃ ・・・・・・)

「俺は 俺はただの鳩ですよ」

 パインがポツリそう呟く。

「くるっポー クるっぽー」


 目に映った焚き火の姿はどんどん小さくなっていく。まるで彼が垂直に空に浮かんでいくよう。

 焚き火は1つの光の点として彼の目に映り、その光を中心にして長い何本にも伸びた影が回転している。


…。


(あれ ここは ・・・)


 なぜか今、パインは暗い森の中に1人でいた。


 彼の目には暗い森の中でチラチラと木々の影に潜んだ光る点が映り込んでいた。それを彼がよく見ると人の目の形をしていた。それに身震いをし背を向けようとした。だが、後ろを振り返っても同じ光景が彼の前に広がる。


「ん ・・・」

 彼がよくよくそれを見ると、その光る目の正体は人ではなくこの暗い森の中に住む動物達の物であることが彼には分かった。


『何者ですか?』

 胸を撫で下ろしたパインだったが、今度はその動物たちが彼にそう問いかけてきた。

『何者ですか 何者ですか』

 何度も何度もキーキーとこだまして彼に問いかける。


(うるさい うるさい ・・・)

 その光る1つが突然大きくなる。何色にも光り輝く異様な存在がパインの視界いっぱいに広がり、大きくなっていった。

(ん~ まぶしっ)


「「ていっ ・・・ !」」


 その光り輝く物体をパインは右手で掴んだ。


「れ」


 右手にはアッシュの短刀が握られていた。


『ホワァ』


 森の緑で照らされたあの美しい短刀、アッシュがどこからか出した、あのどことなく男心をくすぐる刃が今回はパイン自身の顔面を映しだしている。

 たれ目でだんごっぱな、これといって特徴も無い口。パインは抵抗できずに彼の顔をあの刃光沢のある面によって見せられていた。そして彼が見ていた顔の口元がゆらっと上に持ち上がりひきつった笑顔を作った。それが縦に伸び、湾曲していく。


「アハハハハハハ!」」

 それを見せられたパインの口から笑い声が飛び出す。


…。

 

 笑うのに疲れた。彼が目線を前にやると曲がりくねった木が彼の目に映る。その木には螺旋の階段があった。木を中心にしてぐるっと何段もの足場が飛び出ていた。

 のそっとパインは立ち上がる。彼の足が勝手に動き、木の階段を登っていく。


 パインの1歩1歩に合わせるようにして、木の階段が様々な色の照明を足元に付ける。その階段を彼は不気味な森の動物たちの声をBGMにして登っていく。足を踏み出し、木の階段に触れるたびに鳴り響く音はゲームの効果音のように彼の耳に伝わる。暗い夜の澄んだ空、彼の視界にはただその空気だけが映り込む。


…。


 彼は下を見る。ずいぶんこの木に登ったのが彼にはわかった。彼の目には小さなあのアッシュと囲んでいた焚き火が見えた。


(くるっポー クるっぽー)


…。


 パインはついに木の頂上に辿り着く。頂上は彼が走れるほど広く平らになっていた。


 その地面には幾重にも重なったこの木の年輪が模様として存在し、ググッと動いているようだ。その動きはまるで彼の足の踏み込みに合わせるかのよう。


(さてさて ・・・ さて)

 年輪の中央に丸いピンク色の大きなボールがパインを待っているかのように置かれていた。


「なんだこれは ・・・」

 それをパインは手に取ろうとする。


 だがそれはフワッと生きているように動いた。彼にそのボールを拾うことができない。だが彼は躍起になってピンク色のボールを追いかけまわす。


 ボールは彼を笑うようにしてその身で彼の手を躱していった。


「あとっ ちょっと! ・・・ 取れたぞ ・・・ えへへ」

 それをやっとこのとで手にし、彼は笑みを浮かべ眺めた。


 すると突然パインの手に持つボールの真下、木の面から白い角が下から現れ、物凄い勢いでボール目掛けて角の先を伸ばしてきた。彼はそれに反応することができない。


 その角は勢いそのままにボールまで迫る。ピンク色のボールはパインの手の中で浮きもせず、その角を迎えうち楕円球状に姿を変え、


「「うわぁああああああああ」」


 パインの手の中で、そのボールは赤い液体を撒き散らした。


…。


 夜の森の魔力。その静かな魔の手が彼を襲っていた。

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