枯れた町
家と家の間にはロープが渡され、たくさんの紙片が吊るされている。道路をまたいでもそれは家々をつなぐように渡されており、さながらクモの巣のようだ。
「ねぇ、オサ。これって何かな?」
小声でワサビが言う。
「信仰じゃよ。何でもサツマイモのつるを表しとるらしい」
同じく声をひそめてオサが言う。
「へぇ~。変ってるね~」
それから宿に向かった。
宿は、一軒だけだった。周りの建物よりやや大きいが、見た目は土造りの白壁のもので、別段変った印象はない。看板がなければ、宿と気付かないかもしれない。
「こんにちは~」
中に入ると、カウンターでは痩せた婦人がキセルをふかしていた。どうやら女将のようだ。
女将はワサビに気づき、いらっしゃい、といま一つ愛想に欠ける声で言った。それから、じろじろとワサビを見た。どこか蛇のような視線でだった。
「あんた鷹匠かい?」
「まぁ、そんな感じです。ところで、一晩いいですか?」
「構わないけど、料理は出せないよ」
「えーっ!?」
「このところ干ばつでね。大した食材も手に入らないのさ。何か食べたけりゃ自分で買ってくるといい。高い上にロクなもんもないがね」
「そんなぁ……」
意気消沈するワサビ。
とりあえず、部屋に向かうことにした。
部屋の中はがらんとしていた。ベッドとクローゼット、それからゴミ箱くらいだ。
しばらくは何をするでもなくのんびりしていたのだが、ワサビは飽きて騒ぎ出した。
「ねぇ、荷物は預けたんだから出かけようよ~」
「うむ。わかっとると思うが、お前は人の倍は寝てしまう体質じゃ。起きとる内にたくさんのことを経験せねば、体の成長に心が追い付かん。だからと言って、遊び呆けては意味が……」
「もう、いつも話が長いんだから。行くよー。晩ごはんも買わないといけないしね」
外に出て町を歩いてみる。
やはり目につくのは張り巡らされたロープだが、それ以外はというと、特筆すべきものがない。
干ばつのせいか、町には緑がなく、壁の白と、砂の黄色ばかりだ。以前は緑も多かったのだろうが、今は切り株が残るだけである。
何より気になるものがあるとしたら、活気がないことであろう。
おそらくはメインストートだと思われる通りも、人はほとんどいない。たまにすれ違う人も、ワサビをじろじろと見て、その視線に気づいたワサビがそちらを向くと、そさくさと消えてしまう。
町人に共通しているのはそれだけでなく、全員が全員ひどく痩せていた。栄養状況は極めて芳しくないようだった。
商店の類も開店休業といった様子だ。
肉屋にしろ八百屋にしろたいしたものは置いていない。わけのわからない干物や、へちまの繊維のようなものくらいしかない。それに冗談のような高値がついていたりする。
「……想像以上じゃな……」
オサがぽつりと呟いた。
「え?」
「荒廃ぶりがな。ここまでの状態で、よくまだこの町に住んでいるものだ。他の町に逃げてもよさそうなものを……。とすると、信仰がそれだけ厚いということか……む?」
「どうしたの?」
「向こうを見よ」
オサは首を左に曲げて方向を示した。
目の前は十字路になっており、オサが示した左の方は奥に行くにつれ建物が少なくなっていき、最終的には開けた場所になっていた。
ワサビは少しそちらの方に歩いてみたところ、その開けた場所にはおびただしい木の棒が突き立っているのがわかった。
「え? あれなぁに?」
「墓標じゃろう……しかし、どれも新しい。相当に死人が出ておるな……」
オサの言葉通り、墓標として立てられている棒の多くは、真新しかった。古いものは風化しているのだが、それに比べて新しいものは非常に多かった。町中の切り株は、墓標に使われた枯れ木かもしれない。
「……ごしゅーしょうさまです……」
「儂に言っても仕様がないがな」




