一人と一羽
砂交じりの乾いた風を切り、大きな影が宙を舞う。
その影は鳥だった。おそらくは鷹。
それも、かなりの大きさだ。馬ほどもあるだろうし、翼を入れればもっと大きい。
その背に少女を乗せていながらも、まるで苦にもしていない。
そう、その背には少女が乗っているのだ。
獲物として捕らえられたのではない。少女は幸せそうに、それもよだれを垂らしながら寝ている。
年の頃は十五歳ほどだろうか。それにしては随分幼い印象を与える。服装もさして飾り気がなく、せいぜいポーチがあるくらいだ。
鷹は少女を乗せたまま、荒野の上を飛んでいく。
その前方に、小さな町が見えてきた。土造りの白壁の家が立ち並んでいて、町の外れにはいくつもの畑がある。
「起きろワサビ」
鷹が言った。
そして体を左右に揺らす。
それで少女――ワサビも目を覚まし、目をこする。
「……ん~? なに?」
寝ぼけ眼でワサビが言う。
「町に着くぞ」
「えっ? あっ、ホントだ。やったー!」
幼児のようにはしゃぐワサビ。
「落ちるぞ。落ちつかんか」
「ねぇ、オサ~、今度はどんな町?」
忠告も右から左。それから、この鷹はオサというようだ。
「ウム。今度の町は、サツマイモの町だ。儂も話は聞いたことがあるが、来るのは初めてじゃがな」
「え? サツマイモ? それじゃあ焼き芋とか食べれるかな?」
にこにこと笑うワサビ。
しかしオサは眉間にしわを寄せ、
「それはできんじゃろうな……」
と呟いた。
「へ?」
「世の中には様々な価値観があるということじゃ。そもそも、お前は人より多くのことを学ばねばならん。そうしてやっと一人前なのだからな。だからこそこの旅を始め、儂はお前を導くために……」
「オサ、それ何度も聞いてるよ~」
オサの言葉を遮り、言う。
「聞いていてもわかっとらんから何度も言うのだ。……まぁよい。これから降下するが、注意せいよ。お前はすぐ騙されるのだからな」
「わかってるってば。オサこそ喋れるのがバレないようにね」
「ふん。お前に心配されては終わりじゃわい。伊達に五百年生きておらん」
オサは空を切り、降下した。着地点は町に近い岩場だった。オサが舞い降りた風圧で砂埃が舞う。
その砂埃が消えると、そこに居たのはワサビと、その肩にとまった普通のサイズの鷹だった。
「いつも思うけど、オサってどうやって縮んでるの?」
「鷹とて長く生きれば人語も解すし、様々な術も使えるようになるのだ。お前の故郷と違い、大抵の人間は妖怪だの何だの言って追い回すから秘密にしておるがな」
言って、オサは遠くを見た。
「何でかな~? オサってばこんなにいい人なのにね~。あ、鳥か」
「……さてな。人間の考えることはわからんよ」
「オサでもわからないことってあるんだねぇ~」
ワサビは笑った。
「……まったく、こいつには敵わんわ……」
「どうしたの?」
「何でもないわい。ほれ、早く行くぞ」
オサに急かされ、ワサビは町に向かった。




