↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶命審判  作者: saidesu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/3

第二章 偽情報

澪は椅子を数センチ後ろへずらした。

その動きはごく自然だった。最初から彼女を注意して見ていなければ、座り心地が悪かったのだと思っただろう。

しかし、新しい位置からは、椅子の背に記された番号――【11】が、05番の視界へ完全にさらされている。

秋人は指摘しなかった。

澪はすでに、05番を試す準備を整えている。

ここで彼女へ情報交換を持ちかければ、かえって二人の行動に関連性を残してしまう。

それぞれ別々に仕掛け、最後に得た答えが一致するかを確かめるほうがいい。

そのとき、電子スクリーンが再び点灯した。

【最初の役職審判まで:残り6時間37分】

【役職審判のルールを公開します】

続いて、審判の詳細が表示された。

【各プレイヤーは21時00分に、他のプレイヤー一名に対して、一度だけ役職指名を行うことができる】

【指名には、具体的な役職名を含めなければならない】

【生存プレイヤーの過半数が、同一のプレイヤーに同一の役職を指名した場合、対象の役職は強制的に公開される】

【誤った指名を行っても、直ちにペナルティーは発生しない】

【一部の役職は、公開後に特殊効果を発動する】

最後に、もう一文が添えられた。

【役職の全種類は公開しない】

広間にすぐ、ざわめきが起きた。

御影が最初に口を開く。

「つまり、どんな役職があるのかすら分からないということですか?」

「それで、どうやって指名するんだ?」

04番の小早川が眉をひそめた。

「まさか、当てずっぽうか?」

「本人に名乗らせればいい! 何度でも言うが、早く公開したほうが安全だ!」

真壁が答えた。

秋人はすぐに反論せず、待った。

予想どおり、13番の御影が話を引き継ぐ。

「少なくとも、勝利条件は先に公開すべきでしょう」

「役職は隠したままでも、条件が透明になればなるほど、危険な人物を見抜きやすくなる」

二度目だ。

秋人は御影を見た。

ゲーム開始から今までに、彼は二度も自分から議題を【より多くの情報を公開する】方向へ動かしている。

問題があるとは限らない。だが、記録する価値はある。

「なら、俺から話す」

真壁が突然言った。全員の視線が集まる。

彼は役職カードを取り出したが、他人には見せなかった。

「俺の役職は――【生還者】だ」

初めて役職名が公開された。

秋人の姿勢は変わらない。だが意識は一瞬で研ぎ澄まされた。

真壁が続ける。

「勝利条件は、このゲームが終わるまで生存し、かつプレイヤー資格を失わないことだ」

04番の小早川が尋ねた。

「特殊能力は?」

「ない」

「それだけなのか?」

「それだけだ」

真壁は間を置かずに答えた。

秋人は真偽を評価せず、一見すると無関係な言葉を口にした。

「羨ましいですね」

真壁が眉を寄せる。

「どういう意味だ?」

「生き残るだけでいい」

秋人は椅子にもたれたまま言う。

「僕があなたなら、できるだけ誰とも揉めないようにします」

真壁の表情が、ごくわずかに変わった。

ほんの一瞬だったが、秋人は見逃さない。

面白い。

役職が本当なら、ゲーム開始後の真壁の振る舞いは、あまりにも積極的すぎる。

リングを力ずくで外そうとし、全員に役職公開を求め、07番へ真っ先に矛先を向けた。

ただ【生き残る】ことを望むプレイヤーの行動には見えない。

もちろん、元来の性格だと説明することもできる。

だが秋人は、【そういう性格だから】という一言で推理を終わらせるのが嫌いだった。

あまりにも都合のいい説明だからだ。

「信じていないのか?」

真壁が聞いた。

「検証する方法がありません」

秋人は真壁を見る。

「ですから、今の段階で信じるか信じないかを決めても意味はない」

そう言って、話を打ち切った。

実際には、【生還者】という役職名をすでに深く記憶している。

【観測者】として、ようやく最初の提出候補を得た。

だが、まだ使うときではない。一日に機会は一度しかない。

今すぐ真壁を検証しても、彼が嘘をついたかどうかしか分からない。秋人は、この一枚のカードがほかに何を引き出すのかを見たかった。

その頃、澪も動き出した。

彼女は05番の宮原へ向かわず、02番の藤堂からペンを借り、自分の手の甲に小さく【11】と書いた。

それから、わざとペンを11番の椅子の下へ落とす。

「澪さん」

05番の宮原が突然、彼女を呼び止めた。

秋人の目がわずかに動く。

予想より早い。

「ペン、落としましたよ」

澪は足元を見た。

「ありがとう」

しかし腰をかがめず、宮原を見つめて尋ねる。

「悪いけれど、拾っていただける?」

宮原は明らかにためらった。

わずか二秒。

それから立ち上がった。

「……分かりました」

彼は11番の席へ歩み寄り、腰をかがめてペンを拾う。

何も起こらなかった。

だが、澪は答えを得た。

宮原はただ11番を見ていたのではない。【11番の席へ近づく】という行為そのものに迷いがある。

秋人は、まだ足りないと判断した。

その迷いは第一の公開情報を聞いたあとの緊張かもしれない。あるいは、自分が何度も見られていると気づいて警戒しただけかもしれない。

もう一歩、押す必要がある。

秋人は立ち上がり、体をほぐすふりをして給水機へ向かった。

宮原が05番の椅子へ戻ろうとしたとき、ちょうど二人がすれ違う。

「宮原さん」

05番は足を止めた。

「何ですか?」

「少し、話しませんか?」

宮原は明らかに乗り気ではなかった。

秋人は断る間を与えずに続ける。

「澪さんについてです」

宮原の目つきが即座に変わった。

半秒だけ。

それで十分だった。

秋人は二人にしか聞こえない声量まで落とした。

「さっき、彼女のリングが光りました」

宮原は黙った。

「それが?」

「表示を見ました」

嘘は、ここから始まる。

秋人が実際に見たのは、【目標】の二文字だけだ。

それでも、彼は言った。

「表示されていたのは、【護衛目標】です」

宮原の瞳孔が、ごくわずかに縮んだ。

秋人は観察を続ける。問い詰めもせず、説明もせず、捏造した四文字だけを二人の間へ置いた。

やがて宮原が耐えきれずに尋ねる。

「なぜ、僕に教えるんです?」

「あなたが彼女を三度見たからです」

秋人は率直に言った。

05番の顔色が変わる。

「見ていない」

「数え間違いだったかもしれませんね」

秋人は何でもないように一歩退いた。

宮原に逃げ道を与えるためではない。

秋人が本当に三度見たのか、それとも鎌をかけただけなのか、相手に判断させないためだ。

「安心してください」

秋人は背を向けた。

「この話を知っているのは、今のところあなただけです」

それだけ言って立ち去る。脅しも要求もしなかった。

価値のある嘘は、相手に今すぐ信じさせるものではない。

相手の頭へ入り込んだあと、勝手に育っていく嘘だ。

…………。

三十分が過ぎても、秋人は宮原へ近づかなかった。

それどころか、真壁と御影の議論に自ら加わる。

「考え直しました」

秋人の一言に、御影が話を止めた。

「何をです?」

「勝利条件の公開について。議論してもいいと思います」

真壁が冷笑する。

「最初に止めたのは、お前じゃなかったか?」

「僕が止めたのは、役職の強制公開です」

秋人は数人を見渡した。

「今は公開情報も、一つの公開された役職もある。状況が変わりました」

もちろん、本当の理由ではない。

秋人は、皆の意識を引きつける大きな議題を一つ作りたかっただけだ。

全員が勝利条件を公開すべきか議論していれば、誰かが人目を避けて動く機会を得る。

宮原も同じだ。

そして秋人には、宮原に動いてもらう必要があった。

議論はすぐに白熱した。

藤堂は条件の一部だけを公開する案を出した。御影は【ほかのプレイヤーの死亡を必要とするか】だけでも明かすべきだと主張し、真壁は全面公開を支持した。

数人の言葉が加速する一方で、秋人は徐々に議論から身を引いた。

議題はもう動き出している。これ以上、自分が押す必要はない。

彼は05番の席を見た。

空いている。

宮原は給水機の横に立ち、うつむいて二口ほど水を飲んでいた。

右手が癖のようにポケットへ伸び――途中で止まる。

何列かの椅子を挟んだ先で、秋人は見た。

宮原が右ポケットから、細く折り畳まれた白い紙を取り出した。

彼は紙を広げ、数秒見ただけで顔色を明らかに変えた。

すぐにまた細く折り、ポケットへ戻す。

秋人は近づかなかった。

誰かが動き始めた。

何より重要なのは、その紙が最初から宮原の手元にあったわけではないことだ。少なくとも、先ほど二人で話した時点では、右ポケットにあの紙はなかった。

05番は二列目の椅子を回り込み、ゆっくりと11番の澪へ近づいていく。

秋人の目から、すべての温度が消えた。

来た。

偽の【護衛目標】が、効果を生み始めた。

ところが、そのとき――澪が突然、秋人の隣へ来た。

「彼に何を言ったの?」

「誰に?」

「とぼけないで」

彼女は秋人を見ず、同じく宮原へ視線を向けている。

秋人は二秒黙った。

「偽情報を一つ」

ようやく澪が振り向く。

「私について?」

「うん」

「どんな内容?」

「今は言えない」

澪の眼差しが少し冷たくなった。

「私を餌にしたのね」

「君だって、さっき椅子を餌にしたでしょう?」

二人は短く見つめ合った。どちらも引かない。

やがて、澪が先に目を逸らした。

「いいわ。あなたはあなたのやり方で。私は私のやり方で動く」

そう言って、彼女は立ち去った。

秋人はかえって眉をひそめる。

澪は情報共有を求めなかった。それはつまり、自分なりの第二手をすでに用意しているということだ。

そのとき、05番の宮原が腰をかがめた。

手を11番の椅子の下へ伸ばし、すぐに引き戻す。

秋人には、彼が何かを手に入れたのがはっきり見えた。

折り畳まれた白い紙。

ペンではない。澪が落としたペンなら、もう回収されている。

では、あの紙はいつ置かれた?

秋人が澪を見る。

彼女はまったく驚いていない。

置いたのは澪だ。

なるほど。

彼女は宮原が11番へ近づけるか試しただけではない。今度は本物の餌を置いたのだ。

宮原は白い紙を右ポケットへ入れた。

また右側。

最初に緊張したとき触れたのと同じ場所だ。宮原には、何かを隠すとき右ポケットを使う強い癖がある。

だが秋人は、すぐに違和感を覚えた。

澪が見ているのは宮原のポケットではない。

床だ。

彼女の平静な表情に、初めてかすかな亀裂が走っている。

秋人がその視線を追うと、11番の椅子の下に、小さな黒い物がまだ落ちていた。

05番の宮原も気づいた。

一瞬止まり、もう一度手を伸ばす。

秋人の目つきが変わった。

あれは澪の餌ではない。

彼は即座に踏み出した。

「宮原――」

遅かった。

05番は、すでに黒い破片を拾い上げていた。

ピーッ――!

耳をつんざく警報が、広間の空気を切り裂いた。

宮原の体が瞬時に強張る。

リングが激しく点滅した。

【違反! 違反! 違反!】

すべての議論が止まる。

真壁が勢いよく振り返った。

「何が起きた!?」

宮原の顔は蒼白だった。

「分からない! 僕はただ……」

手には、黒いカードの破片が握られていた。

表側に残っているのは、一つの番号だけ。

【11】

秋人は宮原を見なかった。

最初に見たのは澪だ。

彼女はすでに自分の役職カードを取り出している。

カードは完全な形で、どこにも欠けていなかった。

数メートルを挟んで視線が交わり、秋人はすぐに理解した。

第三者がいる。

誰かが澪の餌のあと、同じ場所へもう一つ別の物を置いた。

しかもその人物は、宮原がそこへ行くと知っていた可能性が高い。

電子スクリーンが点灯する。

【初のルール違反を検知】

【追加ルールを公開します】

【所有者本人の自発的な許可なく、他人の役職カードの内容を閲覧することを禁ずる】

【違反者:役職剥奪】

「待ってくれ!」

宮原が叫んだ。

「僕は役職なんて見ていない!」

しかし、彼の役職カードは自動的に飛び出した。

記されていた文字が急速に消え、完全な白紙になる。

【プレイヤー05の役職を剥奪しました】

宮原は呆然とした。

数秒後、何かにすがるように言う。

「役職が消えた? なら、僕の勝利条件も消えたんじゃないか?」

スクリーンは即座に答えた。

【役職を失ったプレイヤーに、生還資格はありません】

【強制脱落まで:05:00】

赤い数字が現れる。

【04:59】

宮原の顔から血の気が完全に引いた。

広間は一瞬で混乱に陥る。

藤堂が最初に駆け寄った。真壁はスクリーンへ怒鳴り、御影は黒い破片には誰も触れるなと叫ぶ。

秋人だけは動かなかった。

頭の中で、今起きたことを最初から並べ直している。

秋人は意図的に宮原へ、11番が【護衛目標】に関する情報を持っている可能性があると伝えた。

それは嘘だ。

澪は11番の椅子の下へ白紙の餌を置き、宮原は予想どおり食いついた。

そこまでは、まだ二人の制御下にあった。

だが、誰かが彼らより一歩早く動いていた。

その人物は澪の餌に気づき、宮原が引っかかると知ったうえで、実際に違反を発生させる黒い役職カードの破片を置いた。

最も厄介なのは――相手が秋人の偽情報を知っていたかどうかだ。

知っていたのなら、二人の密談が漏れている。

知らなかったのなら、宮原と澪の行動だけから試しの全体像を予測したことになる。

どちらであっても、いい知らせではない。

「秋人」

澪がすでに隣へ来ていた。声は極端に抑えられている。

「あの破片は私の物ではないわ」

「分かっている」

「私が置いたのは、白紙一枚だけ」

「それも分かっている」

澪が秋人を見た。

「いつ気づいたの?」

「破片を見たとき、君の表情が変わった」

「……そんなに分かりやすかった?」

「僕には少し」

今度は冗談ではない。澪も言い返さなかった。

彼女はカウントダウンを見る。

【04:31】

「あなたが05番へ流した偽情報は、結局何だったの?」

秋人は一秒黙った。

今なら言ってもいい。

「君のリングに表示されたのは【護衛目標】だと伝えた」

澪の眼差しが一気に冷える。

「あなたが見たのは【目標】だけ」

「そうだ」

「なら、【護衛】はあなたが作ったのね」

「そうだ」

澪は秋人を責めなかった。

代わりに、すぐ宮原へ視線を向ける。数秒後、突然尋ねた。

「もし、このあと05番が【護衛目標】という四文字を口にしたら……」

秋人が続きを引き取る。

「偽情報が、彼から外へ流れたということになる」

「黒い破片の情報まで【目標】を軸にしていたら?」

「誰かが僕の偽情報を手に入れ、別の形に包み直した可能性がある」

二人は同時に黙った。

初めて、二人が別々に仕掛けた罠が本当の意味でつながった。

そして、そこへ第三者が介入してきた。

澪が不意に言う。

「あまり早く助けないで」

秋人は彼女を見た。

澪の表情は冷たい。

「05番には、まだ四分ある。あの紙がどこから来たのか知っているのは、彼だけよ」

秋人は理解した。

彼女は宮原を見捨てたいのではない。

先に情報を引き出すつもりだ。

「尋問は君が?」

「場の制御はあなたが」

短い言葉だけで、初めて明確な役割分担が成立した。

秋人は人々の中央へ歩み出た。

「全員、止まってください」

誰も聞かない。

真壁はまだ叫び、藤堂はリングを調べ続けている。

秋人は声を張った。

「混乱を続ければ、05番は確実に死ぬ!」

今度は、全員が止まった。

秋人は議論する余地を与えない。

「藤堂さんはリングの確認を続けてください。ほかの人は05番にも、黒い破片にも触れないこと」

「真壁さんは、誰が近づくか見張ってください」

真壁が眉を寄せた。

「なぜ俺が――」

「さっき最初に触ろうとしたのが、あなただからです」

秋人は言葉を遮った。

「だから、人を見張る役に一番向いている」

真壁は一瞬言葉を失い、結局それ以上反対しなかった。

秋人はほかの者も散らした。

突然、指導者になりたかったわけではない。

混乱の中にいる人間は、明確な行動を一つ必要としている。

最初にもっともらしい案を提示した者が、一時的な指揮権を得る。

それが、局面を制御するということだ。

「澪」

秋人が最後に呼ぶ。

「質問するわ」

澪はすでに宮原の前へしゃがんでいた。

【03:56】

彼女は慰めなかった。

最初の質問は、たった一言だった。

「右ポケットの紙を出して」

宮原が勢いよく顔を上げる。

秋人の目も鋭くなった。

澪は当てた。

さっきの白い紙は、まだ05番のポケットにある。

つまり――本当の審判は、ここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。