第二話 米軍連絡将校
海は静かだった。
あれほど燃えていたとは、
思えないほどに。
浮遊ドック外周通路。
米軍連絡将校は、
立ち止まり、
海を見ていた。
潮風。
修理音。
遠くで響く金属音。
戦場とは違う。
だが。
空気の奥に、
まだ戦争が残っていた。
視線の先。
斬光。
巨大だった。
改めて見ても、
常識の外にいる。
停止した回転循環甲板。
外装補修区画。
海上へ突き出した巨大支持アーム。
空母。
そんな言葉では足りない。
米軍士官が小さく呟く。
「本当に帰ってきたのか……。」
ハワイ戦線。
あの時。
彼は見ていた。
押し潰されかけた防衛線。
止まらない黒い群れ。
その中を。
海を切り裂くように、
斬光が来た。
そして。
空が変わった。
発艦。
着艦。
補給。
再発艦。
止まらない。
あの光景だけは、
今も脳裏から離れない。
その時。
背後から声。
「まだ見慣れませんか。」
振り返る。
副長だった。
米軍士官は苦笑する。
「無理だ。」
「何度見ても、
理解した気になれん。」
副長は静かに斬光を見る。
「乗ってる側も、
全部理解してるわけじゃありません。」
それが冗談に聞こえなかった。
二人は並んで歩き出す。
浮遊ドック通路。
下では、
整備班が怒鳴り合っている。
クレーン。
工具音。
補修。
作業員たちは、
まだまともに寝ていない顔をしていた。
それでも動いている。
米軍士官が低く言う。
「ハワイで思った。」
「お前たちは、
なぜそこまで飛ばせた?」
副長は少し考える。
「飛ばさないと、
止まるからです。」
「止まれば押し潰される。」
「だから飛ばし続けた。」
あまりにも単純だった。
だが。
戦場では、
それが一番難しい。
米軍士官は苦笑する。
「合理的なのか、
狂ってるのかわからんな。」
副長。
「両方です。」
その時。
上空。
修理中の蒼刃機が、
低速試験飛行へ上がる。
爆音。
風。
米軍士官は目を細めた。
「……本当に空を止めない。」
その言葉へ。
副長は答えなかった。
代わりに。
遠くを見る。
海。
その向こう。
まだ見えない外洋。
ドラゴンズシー。
未知海域。
次の戦場。
米軍士官が静かに言う。
「本国じゃ、
お前たちの話で持ちきりだ。」
「第三世代。」
「回転甲板。」
「空を止めない艦隊。」
短い沈黙。
「技術部は発狂してる。」
副長が少し笑う。
「でしょうね。」
米軍士官は続ける。
「当然、
情報は持ち帰る。」
「分析もされる。」
「再現しようともする。」
そのあと。
小さく息を吐く。
「だが無理だろうな。」
副長が視線を向ける。
米軍士官は斬光を見上げたまま言った。
「艦だけじゃない。」
「人間ごと狂ってる。」
その瞬間。
遠くで怒鳴り声。
整備班長だった。
「おい馬鹿!
そこ固定してから動かせ!」
巨大装甲板が揺れる。
作業員たちが怒鳴り返す。
さらに。
風間が通路反対側から現れる。
眠そうな顔。
だが。
飛行服のままだった。
米軍士官が呆れる。
「まだ寝てないのか。」
風間。
「寝た。」
「三十分。」
副長が呆れたように息を吐く。
米軍士官は笑った。
「やっぱり狂ってる。」
その時だった。
浮遊ドック外海側。
大型艦影。
第一機動艦隊。
大狼型。
重厚な艦影が、
静かに停泊している。
米軍士官がそちらを見る。
「……あっちも相当だな。」
副長が静かに答える。
「海の男ですから。」
その意味が、
少しだけ分かる気がした。
最新艦。
異形艦。
狂気の第三世代。
それでも最後に残るのは。
意地だった。
海で退かない人間たち。
米軍士官は静かに海を見る。
ハワイで救われた。
本土を守り切った。
だが。
英雄ではない。
ただ。
沈まなかっただけだ。
その空気が、
この艦隊にはあった。
その時。
通信。
外洋警戒海域。
小規模異常波形確認。
副長が振り返る。
空気が変わる。
止まっていたはずの艦隊が、
また動き出そうとしていた。




