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斬光 ―空を止めない艦隊―  作者: 縁側×野良猫
第四章 日本防衛戦

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第二十五話 防衛線終了

夜明けだった。


赤く燃えていた海へ、

ようやく朝日が差し始めている。


だが。


誰もそれを綺麗だとは思わなかった。


燃えている。


沈んでいる。


漂っている。


海そのものが、

戦場の残骸になっていた。


第七機動艦隊。


第88機動艦隊。


第一機動艦隊。


米太平洋艦隊。


中国航空隊。


台湾支援艦隊。


全てが限界だった。


それでも。


戦線はまだ維持されている。


その時だった。


第88艦橋。


通信士。


「敵群後退確認!」


副長が顔を上げる。


「……後退?」


さらに入電。


「敵群、本土方向から離脱しています!」


誰も、

すぐには理解できなかった。


ついさっきまで。


押し潰されそうだった。


終わらない黒だった。


だが今。


黒い群れが、

ゆっくりと海の向こうへ引いていく。


うごめきながら。


なお不気味なまま。


だが確かに。


後退していた。


第七艦隊通信士が呟く。


「……押し返した。」


その瞬間。


艦橋の空気が切れた。


座り込む者。


壁にもたれる者。


その場で眠る者。


もう立っていられない。


それほど限界だった。


だが。


まだ終わってはいない。


海にはまだ、

沈みきっていない艦がある。


漂流者がいる。


火災もある。


通信も飛び交っていた。


森風。


回収継続。


孤狼。


中破。


なお航行可能。


月影。


艦橋損傷。


戦闘継続可能。


島風。


主砲半壊。


雪風。


浸水あり。


それでも。


全艦、生きていた。


それだけで奇跡だった。


特務戦艦群。


重巡群。


巡洋艦群。


全てが傷だらけだった。


砲身は焼け。


装甲は割れ。


煙を吹いている。


それでも。


沈んでいない。


ただそれだけで、

壁として役目を果たしていた。


第七機動艦隊。


岳陵。


飛行甲板大破。


各所炎上。


だが。


最後まで発艦を止めなかった。


岳陵艦長は、

燃える海を静かに見ていた。


何も言わない。


もう、

言葉を出す力も残っていなかった。


その後方。


第一機動艦隊。


大狼型。


巨大な艦影が、

なお本土前に立っている。


最後まで、

壁として沈まなかった。


通信。


低い声。


『……全艦。』


短い沈黙。


続けて。


『よく持たせた。』


それだけだった。


怒鳴りもしない。


叫びもしない。


だが。


その声には、

確かに安堵が混じっていた。


その時。


後方海域。


斬光。


航空甲板。


初めて、

発艦が止まっていた。


静かだった。


ついさっきまで、

空を埋めていた蒼刃航空隊。


今は帰投した機体が、

並んでいる。


整備員たちは、

その場へ座り込んでいた。


工具を持ったまま。


眠っている者もいる。


防御班も同じだった。


壁にもたれ、

誰も喋らない。


美鈴は航空甲板へ出る。


朝日。


焼けた空。


そして。


黒い海。


その向こう。


黒い群れは、

ゆっくりと離れていく。


完全殲滅ではない。


勝利でもない。


ただ。


押し返した。


それだけだった。


風間が隣へ来る。


疲れ切った顔で笑った。


「……止めたな。」


美鈴は静かに答える。


「持たせました。」


それが正しかった。


英雄はいない。


ここにいるのは。


壊れかけた艦と。


傷だらけの人間たちだけだった。


だが。


それでも。


本土は守られた。


その時。


米軍側回線。


『こちら米太平洋艦隊。』


『日本防衛線維持を確認。』


続けて。


『……斬光艦隊へ。』


短い沈黙。


『貴艦隊の戦闘継続能力は、

常識を超えている。』


中国側回線。


『第三世代艦……。』


『あれが蒼空計画の到達点か。』


台湾側通信士は、

ただ呆然と呟いた。


「空を止めなかった……。」


誰も否定できなかった。


その時だった。


通信士。


「国際統合会議より緊急入電。」


副長が振り返る。


通信士が続ける。


「第88機動艦隊を、

特殊外洋機動艦隊として再編提案。」


艦橋が静まる。


世界が、

ついに第88を見始めていた。


その頃。


遥か遠く。


黒い海域。


深い霧の向こう。


うごめく影が、

なお海の奥へ消えていく。


誰もまだ知らない。


その先にある海を。


《ドラゴンズシー》。


その名を、

まだ誰も口にしていなかった。

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