第二十二話 壁
夜。
海は燃えていた。
だが。
第七機動艦隊は、まだ崩れていない。
その理由は明白だった。
壁がいた。
黒海前面。
特務戦艦二隻。
重厚な艦影が、
完全に敵正面へ出ている。
敵砲火。
直撃。
爆炎。
それでも。
退かない。
巨大砲塔旋回。
斉射。
轟音。
海そのものが震える。
その後方。
重巡群。
防衛線を裂かせないよう、
横へ広がりながら砲雷撃を継続していた。
さらに。
第七機動艦隊残存艦。
損傷艦。
炎上艦。
それらもなお戦列を離れない。
穴だらけだった。
煙を吹いている。
傾いている艦もある。
それでも。
砲だけは止まらない。
岳陵艦橋。
副官。
「第三防衛線、維持しています!」
「ですが押されています!」
岳陵艦長が低く答える。
「押されるだけならまだいい。」
「崩れるな。」
短い。
だが。
その言葉だけで、
誰も下を向かなかった。
その時だった。
後方。
巨大な艦影。
第一機動艦隊。
大狼型。
本土直衛艦隊。
その存在だけで、
防衛線後方空気が違った。
古い。
重い。
巨大。
だが。
誰もが知っている。
あれが沈めば、
本当に終わる。
第一機動艦隊旗艦。
重い通信が入る。
『第七、そのまま耐えろ。』
『前は第88が開ける。』
『後ろは俺たちが支える。』
親父の声だった。
長くない。
怒鳴りもしない。
だが。
それだけで十分だった。
第七艦隊通信士が小さく笑う。
「……まだ後ろにいる。」
その瞬間。
空気が少し変わる。
崩れかけていた心が、
踏み止まる。
その時。
左翼側。
森風。
損傷艦護衛継続中。
第六機動艦隊残存艦。
炎上。
航行不能寸前。
だが。
森風は離れない。
若い艦長が低く言う。
「見捨てるな。」
「まだ生きてる。」
後方。
椿。
補給。
修理。
医療。
傷ついた艦を次々飲み込みながら、
なお機能し続けている。
その周囲を。
紡。
水源。
護衛駆逐群が防衛。
完全に艦隊の命綱だった。
そして。
さらに前方。
第88重巡群。
敵中央突破を続ける駆逐群が開けた裂け目へ、
さらに食い込んでいく。
砲撃。
雷撃。
近接砲戦。
海面そのものが爆発していた。
特務戦艦艦橋。
重い声。
「受け止めろ。」
それだけだった。
城壁だった。
敵群が押し寄せる。
ならば。
押し返すのではない。
止める。
通さない。
そのための艦だった。
その時。
通信士。
「中国航空隊より入電!」
『右翼側敵群減速確認!』
さらに。
「台湾支援艦隊、戦域合流開始!」
世界側戦力が、
ようやく繋がり始めていた。
だが。
まだ足りない。
まだ押されている。
副長が静かに言う。
「米軍到達まで、あと十二時間。」
長かった。
果てしなく長い。
だが。
持たせるしかない。
その時だった。
後方海域。
巨大な航跡。
黒海を切り裂きながら、
斬光がさらに前へ出る。
第88艦隊。
前進。
その異形艦を中心に、
防衛線そのものが押し返し始めていた。
まだ勝ってはいない。
だが。
まだ終わってもいなかった。




