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斬光 ―空を止めない艦隊―  作者: 縁側×野良猫
第一章 異形空母
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第一話 出会い

昭和十七年。


世界各国は、未だ終わりの見えないG災害への対応を続けていた。


第一世代航空母艦。


第二世代高速運用空母。


各国は三十年近い年月をかけ、模倣体への対抗戦力を増強し続けてきた。


だが。


均衡は崩れない。


押し返すことはできても、止めることができない。


世界は、疲弊していた。


日本海軍工廠内部でも、その空気は重かった。


巨大な設計図が壁一面に貼られている。


通常の空母とは明らかに異なる構造。


異様に幅広い艦体。


二股に分かれたような艦首。


そして。


円形構造を含んだ、理解不能な飛行甲板機構。


工廠技師の一人が頭を抱えていた。


「だから、こんな構造で動くはずがないと言ってるんです!」


怒鳴るような声が工廠内へ響く。


その中心に立っている男は、興奮した様子で設計図を叩いていた。


髪は乱れ、軍服も皺だらけ。


目だけが異様に光っている。


「違う違う違う! そこが駄目なんだ!」


男は叫ぶ。


「止めるから駄目なんだよ!」


周囲の技師たちが顔をしかめる。


「艦載機運用には整備工程が必要です!」


「分かってる!」


「ならば――」


「分かってる上で言ってるんだ!」


男は設計図へ拳を叩きつけた。


「回せ!」


工廠内が静まる。


「回して、流して、循環させろ!」


男は狂気じみた熱量で叫び続ける。


「着艦、整備、補給、再武装、発艦!」


「止めるな!」


「空を止めるな!」


技師たちは困惑していた。


何を言っているのか分からない。


理論として理解できない。


成立するとも思えない。


視察へ来ていた司令部士官たちも同じだった。


「第二世代艦の改良では駄目なのか……」


「飛行甲板を強化する方が現実的だろう」


「回転など、正気ではない」


誰もがそう思っていた。


ただ一人を除いて。


工廠奥。


視察団の後方に立っていた女性士官。


霧野美鈴は、設計図を見上げたまま動かなかった。


男はなおも叫んでいる。


「発艦準備を止めるから回転率が落ちる!」


「だったら艦そのものを循環させればいい!」


「空を流せ!」


誰も理解できない。


だが。


美鈴だけは違った。


彼女の脳裏には、一つの光景が浮かんでいた。


着艦。


整備。


補給。


再武装。


次の発艦。


その全てが、一つの流れとして循環する巨大空母。


止まらない航空戦力。


空を止めない艦。


美鈴は小さく呟いた。


「……回転させるんですね。」


工廠内が静まり返る。


男の動きが止まった。


ゆっくりと振り返る。


「……何だって?」


美鈴は設計図を見つめたまま続ける。


「飛行甲板そのものを循環構造にして、発艦待機列を止めない。」


「整備を後方へ流し続ける。」


「だから……航空機運用を止めずに済む。」


男の目が見開かれる。


技師たちは呆然としていた。


美鈴はさらに言った。


「空を止めないための構造。」


沈黙。


そして。


男は笑った。


乾いた笑いだった。


「……おお。」


次第に笑い声は大きくなる。


「そうか。」


「分かるのか。」


男は設計図を掴み、美鈴へ詰め寄った。


「君。」


「君はこれが見えるのか?」


美鈴は少しだけ困ったように笑う。


「はい。なんとなくですが。」


「なんとなく!」


男は大声で笑った。


「それでいい!」


「十分だ!」


周囲は完全に置いていかれていた。


男は興奮したまま美鈴の肩を掴む。


「来い!」


「もう少し話そう!」


「やっと話が通じる奴が来た!」


工廠技師たちは顔を見合わせる。


司令部士官たちも沈黙していた。


理解できない。


だが。


目の前で、一つだけ確かなことがあった。


この狂人の設計思想を。


霧野美鈴だけが理解していた。


後に。


この設計思想は。


第三世代航空循環艦構想。


通称――『斬光計画』として記録されることになる。

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