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斬光 ―空を止めない艦隊―  作者: 縁側×野良猫
第三章 ハワイ救援へ
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第十七話 噂

ハワイ。


戦闘終結から二日後。


港は、ようやく静けさを取り戻し始めていた。


まだ黒煙は残る。


損傷艦も多い。


だが。


人々の顔には、生き残った安堵があった。


第88機動艦隊も、一時停泊。


補給。


修理。


休養。


久しぶりに、艦隊へ“休み”が来ていた。


夜。


港湾区画。


簡易的な祝宴が開かれていた。


日米混合。


酒。


缶詰。


乾パン。


保存食。


それでも、皆笑っていた。


「生きてるだけで上等だ!」


米軍水兵が笑う。


整備班長も大笑いしていた。


「はっはっは!」


「お前らよくあの空で飛べるな!」


米軍航空兵も笑い返す。


『そっちこそだ!』


『あの空母どうなってる!』


『発艦止まらなかったぞ!』


風間は酒瓶片手に笑っていた。


「止めたら負けだからな。」


周囲が笑う。


若手エース候補も、その輪に混ざっていた。


最初は緊張していた。


だが今は違う。


米軍若手パイロットと地図を広げながら話している。


言葉は完全には通じない。


それでも。


空を飛んだ者同士だった。


その少し離れた場所。


美鈴は静かに酒を飲んでいた。


副長も隣にいる。


騒ぎには加わらない。


ただ。


艦隊の様子を見ていた。


さらに奥。


椿艦長は負傷兵たちを見回っていた。


「無理して飲みすぎないでくださいね。」


柔らかい声。


それだけで、兵たちが少し笑う。


その時だった。


酔った米軍海兵隊員が、美鈴たちの方へやってくる。


『おお!』


『日本艦隊の美女組だ!』


周囲爆笑。


整備班長が吹き出した。


「おいおい始まったぞ!」


海兵隊員は、美鈴へ陽気に敬礼した。


『提督殿!』


『ぜひ一杯!』


美鈴は小さく笑う。


「今は休暇中ですので。」


軽くかわす。


海兵隊員。


「おおー!」


「慣れてる!」


さらに別の海兵隊員。


今度は副長へ。


『あなたも!』


副長。


「酔っていますね。」


終了。


周囲爆笑。


「つえぇ!」


「冷たっ!」


さらに別方向。


椿艦長へも声が飛ぶ。


『あなたもぜひ!』


『一緒に飲みましょう!』


椿艦長は困ったように笑った。


「今日は皆さんを休ませる側ですから。」


優しい断り方だった。


すると。


風間が横から笑う。


「やめとけ。」


「椿艦長怒らせると補給止まるぞ。」


一瞬静止。


海兵隊員たちが青ざめる。


『それは困る!!』


大爆笑。


その空気を。


医務長が遠くから冷めた目で見ていた。


「騒ぐのは構わん。」


「だが倒れたら寝かせる。」


全員少し静かになる。


だが。


すぐまた笑い声が戻った。


その頃。


港の端。


少し離れた場所。


観測索敵士が、静かな海を見ていた。


その隣へ。


年老いた米軍水兵がやってくる。


皺だらけの顔。


疲れ切った目。


男は小さく言った。


『……お前さんたち。』


『南東へ行くのか。』


観測索敵士が振り返る。


「……どうしてですか。」


老人は海を見る。


黒い夜の海。


その先。


南東。


『あの海は、昔からおかしい。』


『船が消える。』


『飛行機も戻らん。』


『羅針盤も狂う。』


『黒い霧が出る。』


観測索敵士の表情が変わる。


老人は続けた。


『俺たちは昔、あそこをこう呼んでた。』


短い沈黙。


『ドラゴンシー。』


風が吹く。


遠く。


暗い海。


そこだけ。


夜の色が違って見えた。


その時だった。


風間の大声。


「おーい!」


「何暗い顔してんだ!」


「今日は生き残った日だぞ!」


港の空気が戻る。


笑い声。


酒。


騒ぎ声。


だが。


観測索敵士だけは、南東の海から目を離せなかった。

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