第十四話 救援
ハワイ海域。
第88機動艦隊先行群は、ようやくその空へ到達しようとしていた。
だが。
最初に見えたのは、島ではなかった。
黒煙だった。
水平線の向こう。
巨大な煙柱が幾つも空へ伸びている。
空母艦橋。
観測員が息を呑む。
「……酷い。」
誰も否定しなかった。
通信。
断続的。
ノイズ。
英語。
悲鳴。
爆音。
まだ戦闘は続いていた。
美鈴が静かに命じる。
「全艦戦闘配置。」
「ハワイ防衛圏へ突入します。」
その声と同時。
斬光甲板。
発艦準備完了。
風間が空を見上げる。
遠く。
黒煙の下。
無数の機影。
「まだやってやがる。」
若手エース候補が小さく呟く。
「間に合って……。」
次の瞬間。
発艦開始。
爆音。
回転甲板が唸る。
航空機群が止まらない。
発艦。
整備。
再武装。
発艦。
それを繰り返す。
米軍側通信士が、その光景を見て息を止めた。
『……What the hell……』
『What is that carrier……』
異形。
まさにそれだった。
海上。
ハワイ防衛艦隊。
すでに半壊。
港湾炎上。
転覆艦多数。
滑走路損傷。
旧世代空母も損傷していた。
それでも。
まだ沈まない艦がある。
まだ撃ち続けている艦がある。
艦橋。
副長が報告する。
「防衛艦隊損耗率、高。」
「ですが戦線維持中。」
艦長が低く言う。
「……よく耐えてる。」
その時だった。
通信回線接続。
英語。
荒れた声。
『こちら真珠湾防衛司令部!』
『所属を名乗れ!』
通信士が美鈴を見る。
美鈴は即座に答えた。
「日本海軍。」
「第88機動艦隊。」
「これより救援に入ります。」
一瞬沈黙。
その後。
通信先から疲れ切った声。
『……神に感謝する。』
だが。
美鈴は続けた。
「防衛線を引き継ぎます。」
「各艦、我が艦隊指揮系統へ一時編入を要請。」
艦橋が静まる。
それはつまり。
壊滅寸前の防衛線指揮を、彼女が引き受けるということだった。
通信先。
短い沈黙。
そして。
『……了解した。』
『指揮権を一時委譲する。』
副長が即座に海図展開。
「防衛線再構築開始。」
「残存艦位置確認。」
「損傷艦後退誘導。」
艦長も吠える。
「前衛押し上げるぞ!」
海が動き始める。
第88機動艦隊。
救援戦開始。
その頃。
上空。
風間隊が先行接触していた。
敵航空型多数。
数が違う。
だが。
風間は笑った。
「空が混みすぎだ。」
機体旋回。
回避。
射撃。
敵機消失。
その横。
若手エース候補も食らいつく。
「右下!」
「三機来ます!」
混成航空隊。
日本機。
米軍機。
入り乱れる。
だが。
互いに余裕はない。
その瞬間。
港湾上空。
G航空型群突破。
直下には損傷艦。
美鈴が叫ぶ。
「斬光航空隊!」
「防衛線優先!」
風間が即座に返す。
「了解!」
次の瞬間。
斬光航空隊が突っ込んだ。
高速。
急降下。
旋回。
迎撃。
空が裂ける。
その光景を。
疲弊した米軍水兵たちが見上げていた。
『Japanese……』
『No……』
『What the hell are they……』
彼らの視線の先。
黒煙の海。
その中央。
異形空母・斬光。
回転甲板が止まらない。
航空機が止まらない。
まるで。
海そのものが牙を剥いているようだった。
そして。
美鈴は静かに前を見ていた。
「……まだ終わらせない。」
その視線の先。
さらに沖。
黒い艦影群が、まだ海を埋めていた。




