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斬光 ―空を止めない艦隊―  作者: 縁側×野良猫
第二章 模倣体
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第十三話 SOS

南東海域。


第88機動艦隊は、なおも外洋を進んでいた。


三十隻。


巨大艦隊。


その航跡が、静かな海を裂いていく。


だが。


その静けさは、突然破られた。


通信室。


激しいノイズ。


雑音。


断続的な英語。


通信士が顔を上げた。


「提督!」


「救難信号です!」


艦橋の空気が変わる。


通信士は続けた。


「発信源、ハワイ方面!」


「断続的ですが、現在も受信中!」


美鈴が振り向く。


「内容は。」


通信士がノイズ混じりの紙面を見る。


「真珠湾駐留艦隊……。」


「G群接触。」


「被害拡大。」


「救援要請です。」


艦橋が静まる。


副長が低く言った。


「ハワイ駐留艦隊は旧世代艦中心です。」


「第二世代空母の配備報告もありません。」


艦長が舌打ちした。


「持たねぇぞ。」


観測索敵士も遠くを見る。


「距離は……。」


副長が即座に計算を出す。


「現位置より最大戦速。」


「通常艦隊速度では二日以上。」


艦長。


「遅ぇ。」


その瞬間。


美鈴が言った。


「高速先行群を編成します。」


艦橋全員が彼女を見る。


「斬光。」


「天城。」


「巡洋艦群。」


「高速駆逐艦群。」


「航空隊主力。」


「先行。」


副長が頷いた。


「後続は。」


「椿。」


「特務戦艦。」


「残存護衛艦群。」


「後続防衛へ。」


艦長が笑った。


「なるほどな。」


「鈍足組はお留守番か。」


その頃。


後続編成側通信回線。


特務戦艦艦長が不満げに唸っていた。


「前に出れんとはな。」


もう一隻の艦長も苦笑する。


「速度差はどうにもならん。」


そこへ。


柔らかな通信が入る。


椿艦長だった。


「では皆さん。」


「私と椿を、ちゃんと守ってくださいね?」


一瞬沈黙。


そして。


重厚な声が返る。


「……任せろ。」


「椿は通す。」


別艦長も続けた。


「誰にも近づけさせん。」


通信が切れる。


そのやり取りを聞いていた整備班長が吹き出した。


「ははっ!」


「戦艦連中が素直だぞおい!」


艦長も笑う。


「椿には逆らえねぇからな。」


一方。


高速先行群。


森風艦橋。


若い艦長が静かに前を見ていた。


「最大戦速維持。」


「機関負荷監視。」


部下が頷く。


「了解。」


その横では。


斬光航空甲板。


発艦準備が始まっていた。


風間が機体へ乗り込む。


若手エース候補も続く。


少女が尋ねた。


「今回は索敵機出さないんですか。」


風間は笑った。


「時間がねぇ。」


「俺たちが見つける。」


「俺たちが先に着く。」


その言葉と同時。


発艦開始。


爆音。


振動。


風。


航空機群が次々と空へ飛び立つ。


今までとは違う。


今回は調査ではない。


救援だった。


艦橋。


副長が言う。


「索敵機を出さないのですか。」


美鈴は海を見たまま答える。


「省くのではありません。」


「戦闘機隊に、索敵と救援を兼ねさせます。」


艦長が笑った。


「相変わらず無茶を考える。」


だが。


その目は笑っていた。


斬光艦隊。


進路変更。


南東。


ハワイ海域。


全艦最大戦速。


海が白く裂ける。


巨大艦隊が走る。


その時だった。


通信士。


「追加受信!」


「真珠湾方面!」


ノイズ。


爆音。


悲鳴。


銃声。


そして。


かすれた英語。


『—— Harbor ——』


『—— Please ——』


『—— incoming ——』


『—— God ——』


通信が途切れる。


艦橋が静まり返る。


観測索敵士が小さく呟いた。


「……間に合って。」


誰も答えなかった。


ただ。


艦隊だけが前へ進む。


南東。


さらに南東。


空の向こう。


薄黒い雲が、ゆっくり広がり始めていた。

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