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斬光 ―空を止めない艦隊―  作者: 縁側×野良猫
第二章 模倣体
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第十二話 艦隊

南東海域。


第88機動艦隊は、さらに外洋へ進出していた。


もう日本本土の気配は薄い。


空の色。


海の色。


風の匂い。


全てが少しずつ変わり始めていた。


だが。


艦隊規模は、逆に増している。


斬光。


一航戦空母群。


特務戦艦二隻。


重巡群。


巡洋艦群。


駆逐艦隊。


補給整備ドック艦・椿。


総勢三十隻。


第88機動艦隊。


その全容が、ようやく海へ現れていた。


巨大艦隊。


だが。


美鈴はまだ安心していなかった。


艦隊は数だけでは動かない。


連携。


呼吸。


判断。


それらが噛み合って、初めて生きる。


だからこそ。


今回の南東進出は、実戦を兼ねた習熟航海でもあった。


艦橋。


観測索敵士が海図へ視線を落とす。


「海域異常、現時点なし。」


副長も続けた。


「各艦通信正常。」


「艦隊速度維持。」


美鈴は静かに頷いた。


そして。


艦長席では、豪放な艦長が腕を組んで笑っていた。


「三十隻か。」


「ようやく艦隊らしくなってきたな。」


その言葉に、副長が冷静に返す。


「艦数増加に伴い、混乱発生率も上昇します。」


艦長は笑った。


「違ぇねぇ。」


その時だった。


通信員。


「前方索敵機より入電!」


艦橋の空気が変わる。


「小規模G群確認!」


「艦艇型八!」


「航空型多数!」


美鈴は即座に言う。


「各艦戦闘準備。」


だが。


そこで彼女は、一度言葉を止めた。


そして視線を横へ向ける。


特務戦艦。


艦隊前衛。


その指揮権を預けられた男。


重厚な声が通信へ乗る。


「了解した。」


「今回は俺たちでやる。」


「斬光は後方維持。」


艦長が笑う。


「任せますぜ。」


美鈴も頷いた。


「各艦、前衛艦隊指揮へ追従。」


「戦闘開始。」


その瞬間。


艦隊が動いた。


特務戦艦二隻前進。


重巡群展開。


巡洋艦群左右分離。


駆逐艦隊が前方散開する。


巨大艦隊が一つの生物のように海を滑っていく。


観測索敵士が呟く。


「……綺麗。」


副長も僅かに頷いた。


「陣形移行速度、良好。」


特務戦艦艦橋。


前衛指揮官が前を睨む。


「中央維持。」


「重巡前へ。」


「駆逐は左右へ開け。」


通信が飛ぶ。


即座に各艦が応じる。


新規合流艦群。


だが動きは悪くない。


そして。


一航戦空母群。


空母艦長が静かに命じた。


「第一航空隊発艦。」


「直掩を先行。」


空母群甲板。


航空機群が次々と空へ上がる。


爆音。


振動。


風。


空が埋まっていく。


新エース候補の少女も、その中へいた。


「行きます!」


若い声。


だが迷いはない。


風間は別機から笑う。


「突っ込みすぎんなよ。」


「死ぬぞ。」


少女は笑い返す。


「落ちませんよ!」


次の瞬間。


編隊が空へ散開した。


その頃。


海上では敵艦隊接近。


G艦隊。


黒い艦影群。


波を殺しながら滑ってくる。


重巡艦長が低く呟いた。


「相変わらず気味悪ぃ。」


だが。


誰も怯まない。


前衛艦隊が砲撃開始。


主砲斉射。


海面が爆ぜる。


敵側も応戦。


砲撃戦開始。


その瞬間。


特務戦艦一隻が前へ出た。


巨大艦影。


重装甲。


まるで壁そのもの。


敵砲撃が集中する。


だが。


止まらない。


前衛指揮官が笑う。


「効かんな。」


「もっと持ってこい。」


その後方。


森風。


若い艦長が冷静に通信を飛ばす。


「椿前方へ敵接近。」


「迎撃に出ます。」


椿艦長。


柔らかな声。


「無理はしないでくださいね。」


森風艦長は短く返す。


「了解。」


そして。


森風が前へ出る。


駆逐艦群。


雷撃線形成。


G艦隊側面へ突撃。


海が荒れる。


その上空。


航空戦も始まっていた。


敵航空型出現。


だが。


今度は違う。


一航戦航空隊。


斬光航空隊。


複数空母群による制空戦。


空が埋まる。


風間が叫ぶ。


「左上!」


「二機来る!」


新エース候補が即座に反応。


機体を捻る。


回避。


反転。


射撃。


命中。


G機体が歪み――


消える。


少女は目を見開く。


「また消えた……!」


風間は低く言った。


「見失うな。」


「数を数えろ。」


空でも。


海でも。


戦いは続く。


そして。


数十分後。


小規模G群は沈黙した。


艦橋。


被害報告。


軽微。


損傷艦数隻。


沈没なし。


死者なし。


美鈴は静かに海を見つめる。


その横で、副長が言った。


「艦隊連携、概ね成功。」


艦長も笑う。


「悪くねぇ。」


だが。


観測索敵士だけは、遠くを見ていた。


南東。


さらに先。


まだ海が続いている。


そして。


その海域だけ。


空の色が僅かに暗かった。


まるで。


海そのものが、何かを待っているように。

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