表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
斬光 ―空を止めない艦隊―  作者: 縁側×野良猫
第二章 模倣体
12/20

第十一話 気づき

南東外縁海域遭遇戦終了より数時間後。


第88機動艦隊は、警戒態勢を維持したまま海域を離脱していた。


静かな海だった。


数時間前まで戦場だったとは思えないほどに。


だが。


艦内に残った焦げ跡と硝煙だけが、戦闘の現実を物語っていた。


医務室。


負傷者搬入終了。


死亡者なし。


重傷者数名。


だが戦列復帰可能。


その報告を受け、美鈴は小さく息を吐いた。


艦長が笑う。


「初陣としては上等でしょう。」


「相手がアレだった割には、よく残りましたぜ。」


美鈴は頷いた。


だが。


頭の中では別のことを考えていた。


敵。


模倣体。


あれは何だったのか。


艦橋。


戦闘記録解析が始まっていた。


副長。


観測索敵士。


風間。


そして各航空隊搭乗員たちが報告を続けている。


「敵機ですが、個体差があります。」


航空隊員の一人が報告する。


「同型に見えましたが、細部形状が違いました。」


「翼端形状。」


「機首。」


「旋回時の挙動。」


「微妙に異なっています。」


副長が記録へ視線を落とす。


「完全同一ではない、と。」


「はい。」


だが。


そこで別の搭乗員が口を開いた。


「……ただ。」


艦橋が静まる。


「同じ形の奴もいました。」


「完全に同じとは言えませんが……」


「最初に交戦した機体と酷似した個体が、後半にもいました。」


観測索敵士が顔を上げる。


「艦艇側もです。」


「敵戦艦型の一隻。」


「最初の接触時と、後半戦闘時で同一艦影と思われるものを確認しています。」


艦長が腕を組む。


「つまり。」


「消えて終わりじゃねぇ。」


副長も静かに言う。


「再出現している可能性があります。」


沈黙。


誰もすぐには言葉を返せなかった。


美鈴は静かに海を見つめる。


戦闘中。


敵は確かに撃墜した。


撃沈もした。


だが。


残骸がなかった。


何も残っていない。


まるで最初から存在していなかったかのように。


風間が低く言った。


「……気味悪ぃな。」


「あれ、本当に艦か?」


誰も答えられない。


その時だった。


整備班長が艦橋へ上がってきた。


「提督。」


「航空機整備終わったぞ。」


「次も飛ばせる。」


そして彼は、面倒そうに続けた。


「ったく。」


「またG相手に飛ばすのかよ。」


艦橋が静まる。


美鈴が振り返る。


「……G?」


整備班長は少し不思議そうな顔をした。


「あれ?」


「知らなかったのか?」


「現場じゃ昔からそう呼んでるぞ。」


艦長も苦笑する。


「ああ。」


「古い哨戒隊連中も使ってましたな。」


副長が尋ねる。


「意味は?」


整備班長は肩をすくめた。


「さあな。」


「GodだのGhostだの。」


「色々言う奴はいたが。」


「結局みんな面倒くさくなって、Gって呼ぶようになった。」


風間が鼻で笑う。


「ピッタリだな。」


「あんな訳分からん連中。」


「正式名称で呼ぶ気にもならねぇ。」


艦橋に小さな笑いが漏れる。


だが。


その空気は長く続かなかった。


通信員が声を上げる。


「増援艦隊接近。」


空気が変わる。


観測索敵士が双眼鏡を上げた。


遠方海域。


新たな艦影群。


だが。


今度は違う。


見慣れた形。


人類側艦隊だった。


「識別確認!」


「日本海軍所属!」


「第88機動艦隊増援群です!」


艦橋の空気が少しだけ緩む。


美鈴は前へ出た。


遠方。


新たな艦隊群が海を進んでくる。


戦艦。


一航戦級空母。


重巡。


巡洋艦。


駆逐艦群。


そして。


補給整備ドック艦。


計二十三隻。


第88機動艦隊。


本来の姿。


その増援群だった。


艦長が笑う。


「やっと来ましたな。」


風間も外海を見ながら呟く。


「これで少しは艦隊らしくなる。」


だが。


美鈴の視線は、そのさらに先を見ていた。


南東海域。


まだ静かな海。


だが。


その先には、確実にGがいる。


そして。


人類はまだ。


あれが何なのかを、完全には理解していなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ