侵入した暗殺部隊
ヒマリを狙う11人の暗殺者。
彼らはまったく別のものを相手することになります。
城壁が、悲鳴を上げた。
夜の王都に、巨大な破砕音が響き渡る。
ガゴォォォォン――。
魔王城の砲塔から放たれた重複射撃が、
王都西区画の結界を正面から打ち砕いた。
白い防壁が大きく揺らぎ、その直後。
積み上げられていた石造りの城壁が、耐えきれずに崩れ落ちた。
粉塵が夜空へ舞い上がる。
砕けた石が雨のように降り注ぎ、
城壁上にいた兵士たちが叫び声を上げる。
「城壁が――!」
「崩れるぞ! 退け! 退けぇ!!」
長い年月をかけて築かれた王都の防壁が、
わずか一撃で穴を開けられる。
ヒマリは、とっさに身を伏せた。
爆風が吹き抜ける。
耳鳴りが響き、粉塵で視界が白く染まった。
それでも、彼女はすぐに立ち上がった。
「クルス……もっと射角をずらして。城壁への被害が大きすぎる」
『無茶を言うな!
砲門がいくつあると思っている!?』
クルスの声にも焦りが混じっていた。
『こちらの干渉を防ぐために、魔王城は一斉射撃へ切り替えている。
攻撃予測そのものを再演算する必要がある』
「つまり……一度射角をずらしただけで
魔王城が対応しているってこと?」
ヒマリの表情が険しくなる。
ただ暴走しているだけではない。
こちらの行動に合わせて、変化している。
「フェルマー!」
「ああ、無事だ」
すぐに返事が返ってきた。
「王都全体に広げたとはいえ、私の結界が一撃で破られるとは――」
ヒマリは周囲を確認する。
崩れた城壁からは煙が立ち上り、
その向こうには、ぽっかりと夜の闇が広がっていた。
(城壁が……抜けた)
胸の奥が冷たくなる。
それは単なる防壁の破壊ではない。
王都へ続く道が、開いたということだった。
◆
その穴を、影が抜けた。
十一人。
全員が黒い外套に身を包み、気配を極限まで消している。
城壁崩壊による混乱と、舞い上がる粉塵。
逃げ惑う兵士たち。
暗殺者たちにとって、侵入するにはこれ以上ない好機だった。
「今だ」
先頭の男が、低く呟く。
「ヒマリは城壁上にいる。混乱に乗じて接近する」
影たちは一斉に動いた。
無駄のない足運び。
互いの距離を完璧に保った連携。
彼らは訓練された暗殺者だった。
ジギスムントが最後に残した切り札。
北部都市群での失敗し、最後機会を狙っていた。
全員が理解していた。
もう後はない。
ここで失敗すれば、帰る場所も、待つ未来も存在しない。
だからこそ、止まれなかった。
影たちは崩れた城壁を越え、王都内部へ進んでいく。
その時だった。
夜の空気が、変わった。
音が消える。
まるで王都そのものが、一瞬だけ息を止めたようだった。
そして、どこからともなく、声が響いた。
『――最適化開始』
十一人の足が止まった。
警告ではない。
命令でもない。
ただの宣言だった。
『人間の救済を再現します』
先頭の男は息を呑んだ。
(……何だ?)
声は魔王城から聞こえた。
だが、方向が分からない。
まるで空気そのものが、言葉を発しているようだった。
暗殺者たちは互いに視線を交わした。
動け。
頭では理解している。
敵地の中央で立ち止まれば死ぬ。
それでも、足が動かなかった。
熟練の暗部。
その中でも選抜された精鋭たちだ。
彼らが、何らかの干渉を受けている。
だが、その正体が分からない。
魔法であればわかる。
恐怖で動けなくなることもない。
だが、何かが存在そのものを縫い止めていた。
その時、足元から小さな音がした。
カサ。
カサカサ。
カサカサカサカサ――。
先頭の男が、ゆっくりと視線を落とす。
地面が、動いていた。
黒い砂が盛り上がっている。
「……っ」
声を出す暇もなかった。
砂が弾ける。
無数の脚。
異様な数の複眼。
大きく開いた顎。
それは蟻だった。
しかし、生物として知っている蟻とは違う。
目が多すぎる。
脚は不自然なほど長く、身体全体が小刻みに震えている。
黒い蟻の群れが、一人の足元から這い上がった。
「――ッ!!」
暗殺者の叫びが夜へ響く。
とっさに払う。
斬る。
踏み潰す。
だが、意味がない。
一匹を消しても、その隙間から十匹が現れる。
切り裂いた場所から、また黒い砂が蟻へ変わる。
止まらない。
増え続ける。
先頭の男は必死に抵抗した。
だが、身体を覆う黒い波は、ゆっくりと彼を飲み込んでいく。
最後まで、彼は任務を忘れなかった。
「陛下……」
声が震える。
「王令……果たせず……」
次の瞬間。
その声は、蟻の群れの中へ消えた。
十一の影は、誰にも知られることなく。
夜の王都へ沈んでいった。
ヒマリに存在を気付かれることもなく
哀れな犠牲者がのみ込まれていきます。




