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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
最終章 魔神ベル・ブリュード編

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ジギスムント廃嫡

王都封鎖の少し前のお話になります。


王都で異変が起きる一方、

その裏ではサンドランド王宮でも大きな決断が下されようとしていました。

 サンドランド王宮の空気は、張り詰めていた。


 誰一人として声を荒げない。

 それなのに――沈黙そのものが怒鳴っているようだった。


 長机の上に広げられた地図。


 北部都市群。

 王都ブリュード。


 そして、赤く引かれた海路図。


 老いたサンドランド王サムールは、机に置かれた報告書を見下ろしていた。

 その目はまだ砂漠の王のものだった。


「……失敗したか」


 低い声。


 側近たちが息を呑む。


 北部都市群との独占契約交渉。

 ロンデル公子擁立工作。


 すべて――失敗。


 都市群はヒマリ女王を支持。


 油田の権益を明け渡し、海路は確保とあるが、

 本来の成果とは程遠い。


 さらに、ロンデル公子アレクシスがそのまま王都へ合流。


 すべてがジギスムントの報告と異なる。


「ジギスムントは?」


 側近が言い淀む。


「……戦争継続の構えです。

 すでに第一軍を従え、王都に進軍中」


 空気が重くなる。


 老王は静かに目を閉じた。


「止まれぬか」


 誰に向けた言葉でもなかった。


 王だからこそ分かる。


 一度、前に進むしかない王になった者は。


 止まれない。


 壊れるまで。


 その時だった、扉が乱暴に開く。


 伝令が飛び込んできた。


「陛下!!」


 顔色が悪い。


 息も荒い。


「申し上げます!!」


 伝令は、震える声で告げた。


「北部都市でのヒマリ女王暗殺――失敗!!」


「……何だと?」


老王の声が初めて揺れた。


「そんな命は出しておらん」


 場が凍った。


 誰も言葉を発しなかった。


 老王だけが、静かに立ち上がる。


「……呼び戻せ」


「陛下?」


「進軍中のジギスムントを呼び戻すのだ!」


 声は低い。


 だが、怒りが滲んでいた。


「今すぐ行け」


「は、はい!」


 側近たちが慌ただしく動き出す。


 だが。


 その時。


 別の伝令が飛び込んできた。


「陛下!! 北部都市群ネリィ副主席より抗議通達が!!」


 巻物を差し出す。


 老王が目を通す。


 一行。


 二行。


 その顔から、感情が消えた。


 静かに巻物を閉じる。


「女王暗殺未遂の証拠を握られ、

 飛行魔物による船団焼き討ちまで匂わせてきている……

 白々しく、開かれた貿易などと」


 誰かが、ごくりと息を呑む。


「陛下……?」


 老王はゆっくりと言った。


「サンドランドは、本日をもって政治中立を宣言する」


 ざわめき。


「へ、陛下!?」


「しかし、それでは旧ブリュードの残党兵は――!」


「切り捨てる」


 一言だった。


 冷たいほど静かだった。


「ジギスムントは、サンドランドの意思に反して進軍した」


 側近たちの顔色が変わる。


「王命違反だ」


 一拍。


 老王の目が閉じる。


「あれはもう息子とは呼べん……廃嫡する」


 誰も動かなかった。


 ジギスムント。


 ブリュードの正統王。


 ヒマリさえいなければ、誰より強く

 誰より勝ち続けた王となったはずだった。


 その王が――亡命したサンドランドでも捨てられる。


「伝令は中止だ。呼び戻す必要はない」


 老王は言った。


「奴は、もはやブリュードの王ではない」


 その時だった。


「……お待ちください」


 静かな声。


 全員が振り向く。


 扉の前。


 アリシアだった。


 薄い青の外套。


 眠れていない目。


 それでも、足だけは震えていなかった。


「アリシア」


 父王が眉を寄せる。


「聞いていたのか」


「はい」


 アリシアは前に進む。


 一歩。


 また一歩。


 昔なら出来なかった。

 父の前で言葉を挟むことなど。


 ジギスムントとの婚姻も素直に従った。


 でも、今は違う。


「父上」


 声が震える。

 それでも止まらない。


「彼に申し開きの機会を……」


 老王の目が細くなる。


「もう決めたことだ」


「決まってません!」


 一瞬。


 空気が固まる。


「私は……」


 喉が震える。


「陛下の真意を、知っています」


 側近たちがざわめく。


 老王は黙っている。


「北部都市群との交渉が失敗した今」


 アリシアは続けた。


「陛下は……変わってしまいました」


「でも、私は知っています」


「誰より国を見ていた王だったことを」


 言葉が詰まる、周囲の目が苦しい。


「貴方たちだって、

 私にそう言って褒め称えていたじゃありませんか!」


 アリシアが集まった貴族達を見渡す。


 視線を合わせる者はいなかった。


「……本当は」


 小さな声。


「誰より、不器用なだけなのです」


 父王が低く問う。


「だから許せと?」


「違います」


 アリシアはゆっくり息を吸い込んだ。


「私が行きます」


 静寂。


「……何?」


「王都へ」


 息を吸う。


「私が赴きます」


 ざわめき。


「危険です!」


「ヒマリ女王は暗殺未遂でお怒りに違いない――!」


「これから戦場になるぞ!」


 それでも、アリシアは動かなかった。


 ジギスムントに見つめられただけで、動かなかった足。


 でも今は違う。


「私は」


 胸に手を当てる。


「話をしなければいけません」


 誰に?


 ヒマリに。


 ジギスムントに。


 そして――自分自身に。


「父上」


 震える声。


 でも、目だけは逸らさない。


「お願いです」


 老王は長く沈黙した。


 やがて、深く息を吐く。


「……似たな」


「え?」


「お前の母親に――頑固なところが」


 少しだけ、困ったように笑った。


「分かった。行くがいい」


 アリシアの目が見開かれる。


「ただし」


 王の声になる。


「もう、誰かに選ばれるな」


 胸が震えた。


 父の言葉。

 初めての、真正面からの言葉。


「お前が選べ」


 アリシアの目に涙が滲む。


「……はい」


 深く頭を下げた。


 その夜、小さな馬車が王都へ向かった。


 窓の外には、砂漠。


 冷たい風。


 アリシアは、自分の足を見る。

 まだ少し震えている。


 怖かった。

 それでも、初めてだった。


 誰かの命令ではなく。


 誰かの期待でもなく。


 自分で決めた道。


 馬車が進む。


 王都へ。


 ヒマリのいる場所へ。


 そして――


 自分の足が向く場所へ。

ジギスムントはついに王位継承権を失い、

国家からも切り離されることとなりました。


それぞれが選んだ道は、やがて王都で交わることになります。

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