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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第四章 北部都市群編

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フェルマーとの再会 ~ ヒマリの新たな問い

北部都市群での一件を終え、一行は王都ブリュードへ帰還します。


再会、そして新たな決意。

それぞれが抱えた想いが、少しずつ未来へと動き始めます。

 王都ブリュード


 黄昏時。


 王都ブリュードの上空へ、ドラムの影がゆっくりと差しかかった。


 戦場の危機を救って以来、

 飛行魔物は民衆の味方だと認知されつつあった。


 城門の兵士たちが驚いたように夕闇に染まる空を見上げる。


「ヒマリ様だ!」


「お戻りになられた!」


 歓声が広がる。


 ドラムは王城の中庭へ静かに降り立った。


 翼をたたむと、ヒマリたちはゆっくりと地面へ降りる。


 そのまま王城の執務室へ向かった。


 ◆


 侍女が扉を軽く叩く。


「どうぞ」


 フェルマーの落ち着いた声が返ってくる。


 扉が開かれると、

 机へ向かっていたフェルマーが、ゆっくり顔を上げる。


 ヒマリ。


 ノリス。


 そして、アレクシス。


 三人の姿を見た瞬間、その表情がわずかに和らいだ。


「……無事で何よりだ」


 静かな一言だった。


 だが、その言葉には本心からの安堵が込められていた。


「ただいま」


 ヒマリが笑う。


「それから――」


 胸に抱えていた黒い木箱を差し出した。


「早速だけど、これ。

 アレクシスの義眼と義手、作れる?」


 フェルマーは両手で受け取ると、すぐには蓋を開けなかった。


 重さを確かめるように静かに持ち上げ、魔力の流れへ意識を向ける。


 やがて、小さく頷いた。


「……保存処理は完璧だな」


 木箱へ優しく手を添える。


「これなら魔術的な再接合も十分可能でしょう」


 ヒマリの表情がぱっと明るくなる。


「本当?」


「ええ」


 フェルマーは穏やかに微笑んだ。


「アレクシス公子ほどの魔力量があれば、

 義眼も義手も限りなく本来の身体に近づけられます」


 アレクシスは思わず息をのむ。


 失ったものを取り戻せるかもしれない。


 その希望だけで胸が熱くなった。


「……よろしくお願いします」


 深々と頭を下げた。

 するとフェルマーの眼差しが静かに鋭さを帯びた。


「礼は女王陛下に言いなさい」


 一拍置いて続ける。


「私は、あなたのことを亡国の公子としか思っていません。

 ジギスムントに捕らわれたままであったら、

 廃嫡して別の王を立てる道もあった」


 その口調は厳しかったが

 アレクシスが無事に戻ったからこそ出て来る言葉でもあった。


「ヒマリ女王には、言葉では言い尽くせない感謝があります」


 そして真っ直ぐフェルマーを見つめる。


「その恩に報いるためにも、ロンデル王国の復興へ全力を尽くします」


 フェルマーは静かに頷いた。


「まだ、気力は衰えていないようで何よりです。

 改めて、王都ブリュードへようこそ、アレクシス公子」


「ありがとうございます」


 短いやり取りだったが、それだけで十分だった。


 フェルマーは続いてノリスへ視線を向ける。


 アレクシスへの予想より厳しい対応に

 ノリスは少しだけ肩を強張らせる。


 フェルマーは何も問いたださなかった。


 北部都市群に保護されたことを責めもしない。


 ただ静かに頷く。


「異界へ送り出した際、生存率は低いと思っていた。

 ――よく、戻って来た」


 その一言だけだった。


 ノリスは胸の奥の力が少しだけ抜けていくのを感じた。


「……ただいま、戻りました」


 自然と言葉がこぼれる。


 その笑顔を見て、ヒマリも小さく微笑んだ。


 ようやく全員が、帰ってきたのだ。


 ◆


 その夜。


 王都ブリュード――執務室。


 執務室にはヒマリとフェルマーだけが残っていた。


 窓の外では王都の灯が静かに揺れている。


「……北部都市群でのことを聞かせてくれ」


「ええーっ」


 ヒマリは椅子へ腰を下ろした。


「さっき話したじゃん」


「概要だけだろう。王錫杖の使い心地、姿を見せなかった暗殺者の残党、

 ペトラ主席との会談内容、派遣する使節団の規模もまったくわからん」


「えぇ……それ全部?」


 ヒマリの声が小さくなっていく。


「最初から、すべて話してください」


 フェルマーは静かに微笑んで圧力をかけた。


「長くなるから覚悟してね」


 ひとしきり話し終えると、二人の間に穏やかな沈黙が流れる。


 やがてヒマリが口を開いた。


「フェルマー」


「はい」


「ノリスとアレクシス公子のこと、どう思う?」


 フェルマーは少しだけ考えた。


 すぐに答えを出さない。


 二人の歩みを思い返すように目を閉じる。


 そして静かに言った。


「あの二人は――互いを選び始めている」


 穏やかな断言だった。


「……そうだね」


 ヒマリは窓の外へ目を向ける。


 夜風がカーテンを揺らす。


「私は――」


 言葉が止まる。


 もう一度、小さく息を吸う。


「私は、二人とも手放したくない」


 ぽつりと漏れた本音だった。


 フェルマーは否定しない。


 ただ静かに耳を傾ける。


「……ずるいかな」


 ヒマリは苦笑する。


 フェルマーは首を横へ振った。


「ずるくはないだろう」


 即答だった。


「ただ、ヒマリはまだ、

 自分が本当に望んでいるものを整理できていない」


 ヒマリは反論できなかった。


 アレクシスへの想い。


 ノリスへの想い。


 王としての責任。


 一人の少女としての感情。


 どれも嘘ではない。


 だからこそ、一つに決められない。


(私の本当に望んでいるもの

 ……フェルマーはわかってても、教えてくれないんだろうな)


 しばらく窓の外を見つめたあと、小さく呟く。


「まだ、分からない」


 フェルマーは黙って頷いた。


 急かさない。


 答えを押し付けもしない。


 ヒマリはゆっくりと微笑んだ。


「でも、近いうちに決着がつく気がする」


 迷いながらでも進む。

 それがヒマリの選ぶ道だった。


 フェルマーは静かに微笑む。


「いつもの調子が戻ってきたな」


 窓の外では王都の灯が夜空を照らしていた。


 まだ答えの出ていない問いが、いくつも残っている。


 それでも、今夜はそれでいい気がした。

次回、いよいよ最終章へと入ります。

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