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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第四章 北部都市群編

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出発の朝

次回で北部都市群編もいよいよ締めくくりです。

 翌週の正午。


 北部都市群の中央医療院へ戻ったペトラは、

 そのまま執務室へ向かった。


 部屋には、すでにヒマリとノリスが待っていた。


 窓の外では港が活気づき、荷役の掛け声が潮風に乗って響いている。


 ペトラは二人の前まで歩くと、何も言わず黒塗りの木箱を机へ置いた。


 鈍い音が室内に響く。


「……これは」


「約束の品だ」


 ペトラは短く答えた。


「ジギスムントは交渉に応じた」


 ヒマリは静かに木箱へ手を添える。


 重い。


 その重さが、この箱に収められたものの意味を物語っていた。


(これが……)


 アレクシス公子の右腕と右目。


 ジギスムントが最後まで切り札として握り続けていたもの。


 ヒマリは蓋へ手をかけかけて、そっと手を離した。


 ここで確かめるものではない。

 フェルマーへ託すべきものだ。


「私が行っても、ジギスムントは会ってくれなかったでしょう。

 ……ありがとう」


 自然と頭が下がる。


 だがペトラは苦笑して首を振った。


「礼を言われることじゃない」


 一拍置いて続ける。


「北部都市群の信用を守っただけだ」


 その言葉に、ヒマリは小さく笑った。


 商人らしい答えだった。


 ペトラは椅子へ腰を下ろし、改めてヒマリを見る。


「一つ聞く」


「うん」


「海路開放。本当に実行するつもりか」


 真剣な問いだった。


「もちろん」


 ヒマリは迷わず頷く。


「短期的には損をする」


「分かってる」


「空路の利用料も減り、サンドランドは再び力をつけるだろう」


「それも分かってる」


 それでも表情は変わらない。


 窓の外では、船が港を埋め、人々が忙しく荷を運んでいる。


「でもね」


 静かな声で続けた。


「富は独占するより循環した方が、最後はもっと大きくなると思う」


 ペトラは黙って耳を傾ける。


「一つの港だけが栄えるより、町と町が繋がった方がいい。

 物流が増えれば、人も技術も文化も動く」


「その結果、誰か一人じゃなく、みんなが豊かになれる」


 ネリィなら数字で証明してくれるだろう。


 ヒマリは、その未来の景色を信じていた。


「戦争で奪うより、交易で増やした方がいい」


 その一言に、ペトラは静かに息を吐く。


「……商人としては反論できん。――儲かる話だからな」


 苦笑が漏れる。


 ヒマリも笑った。


「これから王都に戻って、正式な交渉団を派遣するわ。

 一度に送れる飛行魔物の数も調整する」


 ペトラはゆっくり頷いた。


「期待している」


「北部都市群も、その未来へ賭けよう」


 握手は交わさない。


 それでも十分だった。


 互いが同じ未来を見ていることだけは、確かに伝わっていた。


     ◆


 午後になると、出発の準備が始まった。


 医療院の廊下では兵士や看護師たちが慌ただしく行き交い、

 荷物が次々と運び出されていく。


 ヒマリは木箱を抱え、アレクシスの病室を訪れた。


「入るね」


「どうぞ」


 杖を持ち、身体を起こしたアレクシスが穏やかに微笑む。


 もう身体の怪我は癒えていた。


「ペトラとの交渉、終わったよ」


 ヒマリは椅子へ腰掛け、木箱を膝へ置く。

 木箱の中で保存液が静かに揺れた。


「ジギスムントは応じてくれた」


 アレクシスは静かに目を伏せる。


「そうですか……」


「これからフェルマーに預ける」


 ヒマリは木箱へそっと手を添えた。


「義眼も義手も作ってもらって、

 きっと、元通り歩けるようになるよ」


 アレクシスは箱を見つめ、小さく息を吐いた。


「今回の件は……僕一人が巻き起こしたようなものです」


「言わないで」


 ヒマリは首を横に振った。


「北部都市群に時間を割いて、無駄だったなんて思わない。

 私も、大切な人たちとの繋がりをたくさん見つけられたから」


 一拍置いて、微笑む。


「交易も、海路も、平和も。

 全部まとめて未来へ繋げていこうよ」


 アレクシスは少しだけ笑った。


「ヒマリさんらしいですね」


「そうかな?」


「はい」


 迷いなく頷く。


「誰かを負かして終わるんじゃない。

 みんなが前へ進める道を選ぶ」


「それが、あなたです」


 ヒマリは照れくさそうに笑う。


「買いかぶりだよ」


「そんなことはありません」


 アレクシスは穏やかな表情で答えた。


「だから僕は――」


 言葉は途中で止まる。


 ヒマリは何も聞かなかった。


 静かに立ち上がる。


「ロンデルへは、その姿では戻らない方がいい」


「まずは一緒に王都へ行こう」


「ノリスも一緒。

 二人とも、王都でゆっくりこれからのことを考えればいい」


「……はい」


 アレクシスは力強く頷いた。


 病室を出ると、廊下にはノリスが立っていた。


「準備できた?」


「いつでも」


 ヒマリは微笑む。


「じゃあ、一緒に帰ろう」


 後ろで控えていたノリスの表情も、少しだけ柔らかくなった。


     ◆


 病室に静寂が戻る。


 アレクシスは窓の外へ目を向けた。


 青空を雲がゆっくり流れていく。


(君は、相変わらず完璧で、美しい)


 海路を開放し、大陸規模の交易圏を築こうとする。


 誰も思いつかない答えを、迷いなく示してみせる。


 婚約者だった頃から。


 いや、それより前から。


 ずっと憧れていた。


(僕には、何がある)


 包帯を巻かれただけの右腕へ視線を落とす。


 守れなかった祖国。


 止まった婚約。


 そして今も、ヒマリの隣へ立つ理由を探している自分。


(それでも)


 問いから逃げるつもりはない。


 答えは、自分で見つける。


     ◆


 医療院の前では、ドラムが静かに翼を休めていた。


 日差しに照らされた白い羽が、潮風に揺れる。


 港では船乗りたちの掛け声が響き、市場にはいつもの活気が戻っていた。


 ヒマリは三人を見渡して微笑む。


「準備はできた?」


「はい」


 アレクシスが答える。


 ノリスも頷いた。


「いつでも」


「じゃあ、帰ろう」


 ドラムが低く鳴いた。


 大きな翼がゆっくりと広がる。


 三人は背に乗り込み、ドラムは力強く地面を蹴った。


 潮風が頬を撫でる。


 北部都市群の街並みが少しずつ遠ざかっていく。


 ノリスは一度だけ振り返った。


(ここで、私は変わった)


 影として生きるしかないと思っていた自分。


 その思い込みを打ち砕いてくれた場所。


(ありがとう)


 心の中で小さく呟き、前を向く。


 ヒマリの隣へ。


 アレクシスの隣へ。


 それが今の、自分の居場所だった。


 ドラムは青空へ向かって大きく翼を広げる。


 北部都市群で結ばれた新たな絆を乗せ、彼らは王都への帰路についた。


ヒマリ達は王都に戻ります。

北部都市群編、気に入っていただけたら評価お願いします。

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