表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第四章 北部都市群編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/85

商人は人を見る

北部都市群の最高責任者、ペトラ登場です。

政治家でも軍人でもない「商人」だからこそ、

見えるものがあります。

 北部都市群中央医療院は、静かな場所だった。

 磨かれた石畳の廊下に簡素な木製のドアが並ぶ。


 窓から差し込む淡い光。

 そして、どこか潮の香りを含んだ風。


 ノリスは治療室の前に立っていた。


 扉の向こうから、慌ただしい声が聞こえる。


「もう少し熱が下がらない?」


「右肩の感染が進んでいる。

 薬草の配合を変えろ!」


 現場の声を聞くだけで胸が締まる。


 ただ、扉を見ることしかできなかった。


(……やっぱり、無理していたんだ)


 目を閉じれば、地下牢の姿が浮かぶ。


 切断された右肩。

 閉じたままの右目。


 血に染まった包帯。


 それでも笑っていた。


 痛いはずなのに。

 自分を責めるより先に、ノリスを気遣っていた。


(そんなの……間違ってる)


 自分なら憎み続ける。

 感情のままに壊す。


 それが、復讐というものだ。


「君か?」


 低い声が響き、振り向く。


 廊下の空気が、少し変わっていた。


 自然と人が道を開いている。


 深い外套を纏った大柄な男が、ゆっくり歩いてきた。


 四十代半ばほど。


 蓄えた髭に鋭い鳶色の目。


 けれど軍人の威圧感とは違う。

 人を値踏みする商人の目だった。


「……誰?」


 ノリスが警戒すると、男は小さく肩をすくめる。


「北部都市群主席、ペトラだ」


 名前を聞いて、ノリスの肩が強張る。


 北部都市群。

 八都市を連合した貿易拠点。


 海運と交易を握る巨大勢力。


 その頂点に立つ男。


(……何故、ここに?)


 そう思った瞬間、視線が自然と逸れた。


 また政治だ。

 また価値を測られる。


 アレクシスも、自分も。

 そんな予感がした。


 ペトラはノリスの反応を見て、小さく息を吐く。


「怖がらせるつもりはない」


 そう言いながら、治療室へ視線を向けた。


「中にいるのは、アレクシス公子だな」


「……はい」


 港で騒ぎになった時点で、気付かれているのだろう。


「なるほど」


 ペトラは低く呟く。


「ロンデル最後の正統。

 やはり、生きていたわけだ」


 ノリスの胸が冷える。

 今の自分は無力だ。簡単に捕らわれてしまう。


 そうなれば、サンドランドと同じだ。


 アレクシスは、また駒にされる。


 その表情を見たのだろう。

 ペトラが静かに言った。


「勘違いするな」


 ノリスが顔を上げる。


「価値があるから助けた――じゃない」


「……え?」


「商人はな、人を見る」


 低い声。

 だが、不思議と温度があった。


「あの港で、君は死にかけだったと聞いている」


 一歩近づく。


「それでも、公子を離さなかったそうだな」


 ノリスの呼吸が止まる。


「損得で人を運ぶ奴は、そんな顔をしない」


 静かな断定だった。


「本気で助けたいと思ってたのだろう?

 ならば、信用する」


 胸の奥が、少し熱くなる。


 そんな風に見られたことなんて、なかった。

 いつも、魔王として力を振るうだけの存在だったから。


「……ありがとう、ございます」


 小さく頭を下げる。

 ペトラは肩をすくめた。


「礼は早い」


 そして、じっとノリスを見る。


「君、自分を後ろに置く癖があるな」


 心臓が跳ねた。


「……え?」


「あきらめた奴の顔だ」


 静かな声。


「自分はどうでもいい、そう思ってる顔でもある」


 息が止まる。

 初見で見透かされていた。


 ノリスは視線を落とす。


「……私は、それでいい。

 あまり、踏み込まないで」


 瞳に一瞬、強い光が灯ったのをペトラは面白そうに見つめた。


「訳ありのようだな。

 単身でサンドランドから公子を救出して来いと

 ブリュード女王に命じられたか?」


「ヒマリはそんなこと言わない」


 答える声が、小さい。


「私が勝手に――ひとりで動いた」


 沈黙。


 ペトラは少し考えた。

 そして、不意に笑った。


「商人として言おう」


「……?」


「本物と偽物しか価値がないなら、世界の半分は潰れる」


 ノリスが顔を上げる。


「代用品も、補佐も、繋ぎもいる。

 当たり前だ。支える方が重要さを知らないでどうする?」


 その言葉が、少しだけ胸に残る。


 何かを言おうとした時だった。


 ――勢いよく扉が開く。


「ペトラ主席!」


 医師が駆け出してきた。


「アレクシス公子の容体、安定しました!」


 世界が止まる。


「熱も下がり始めています!

 峠は越したと思います」


 ノリスの呼吸が止まった。


「……本当?」


「ええ。ただ、まだ予断を許しません」


 その瞬間。

 胸の奥で、何かがほどけた。


 ペトラが顎で病室を示した。


「行ってくるといい。

 今の君が、一番会いたい相手だろう」


 足が止まる。


(……会いたい)


 その感情が、少し怖かった。


 地下牢で交わした言葉。


 優しかった声が響く。


 (君をちゃんと、見ていたい)


 ノリスは、小さく息を吸う。


「……行ってきます」


 扉へ向かう。


 一歩ずつ。


 すべて、あの時の気まぐれだったらと思うと怖い。

 でも――確かめたい。


 その気持ちは、もう誤魔化せなかった。


次回は、ノリスとアレクシスの関係がさらに一歩進んでいきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ