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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第四章 北部都市群編

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ヒマリ、アレクシスの生存とノリスの行動を知る

ヒマリ、目覚めます。

そして、少しだけ遅れて情勢を知ることになります。


 ロンデル医療棟。


 最初に見えたのは白い天井だった。


 何度も見上げた場所だ。


 窓の外からは復興作業の音が聞こえてくる。


 木材を運ぶ掛け声や職人たちの怒鳴り声。

 その合間に、どこかで子供が笑う声も混じっていた。


 世界は動いている。

 傷つきながらも前へ進んでいる。


 なのに、自分だけが取り残されたような気がした。


 喉が渇いていた。

 水差しへ手を伸ばし、一口だけ含む。


 冷たい水が喉を落ちていく感覚だけが妙に鮮明だった。


 ベッド脇の机には報告書が積まれている。

 だが読む気力が湧かない。


 指先には力が入らず、呼吸をするだけで肺が焼けるように痛んだ。


 魔王城ブースト接続。

 体の魔力回路が塞がったまま、

 寝ずにロンデル復興を続けた後遺症。


(アレクシス)


 最後に見たアレクシスの背中が脳裏に浮かぶ。

 届かなかった自分の手。


 思い出すたびに胸の奥が静かに痛んだ。


(……終わった)


 助けられなかったのだと。


 起き上がろうとして、腕に力が入らない。


「まだ無理をするな」


 低い声が響いた。

 振り向くと、窓際にフェルマーが立っていた。


 いつもの細面の眼鏡。


 だが、ほんの少しだけ疲れて見えた。


「フェルマー……」


「二週間、眠っていた」


「……二週間も?」


「あれだけ無茶をして、すべて放り出して倒れるとは

 ――引継ぎ甲斐があったな」


 皮肉だった。


 だがその奥には確かな安堵も感じられた。


 ヒマリは苦く笑う。


「怒ってる?」


「ええ、魔力過剰使用から忠告も聞かずロンデル単独侵入」


 フェルマーが指を立てていく、間違いなく怒っている。


「休息も取らず、復興支援。

 挙句、二週間昏睡。――反省文では済まない案件だ」


「……ごめんなさい」


「謝罪ではなく改善を求めている」


 そう言って、フェルマーは細長い箱を持ち上げた。


 深い藍布に包まれている。


「本来、戴冠式に合わせる予定だったものです」


 布が外される。

 現れたのは、一振りの錫杖だった。


 白銀の杖身。


 三重の銀輪の中央で、透明な聖水晶が静かに回転している。


 装飾より実用性を優先した造りだ。

 握り部分には、滑り止めの革が巻かれていた。


「軽い……」


「内部を空洞化している」


 フェルマーが淡々と答える。


「君は無理をする。

 女王が簡単に倒れては国が揺らぐ」


「なので支援術式特化した」


 聖水晶が淡く光る。


「魔力制御補助」

「浄化効率上昇」

「緊急時の生命維持」


 ヒマリが目を丸くした。


「凄い、ロンデル復興の合間にこんな魔道具まで――」


「天才だからな」


 フェルマーは表情を変えず即答した。


「――君は死に急ぎすぎる」


 その言葉には少しだけ感情が滲んでいた。


 ヒマリは、そっと錫杖を握る。


 温かかった。

 まるで、誰かの手みたいに。


「……綺麗」


「少しは威厳が出て来るといいな」


「そういうところ」


 少しだけ笑う。


 フェルマーは、小さく息を吐いた。


「冗談ではない。王錫杖の重みを忘れないでくれ」


 ヒマリが顔を上げる。


「それは王の責任。君一人の命ではない」


「守られる側も、

 君を想っていることを忘れないように――」


 部屋が静かになる。


 錫杖は軽い。

 なのに、不思議と重かった。


 王とは、たぶんこういうものなのだ。


「……うん」


 ヒマリは、少しだけ強く握った。


「手放さない」


 フェルマーは何も言わなかった。


 ただ、僅かに表情を緩め――


 次の瞬間、真顔に戻る。


「ヒマリ陛下。報告が二つあります」


 空気が変わった。


 ヒマリの指が止まる。


(……嫌な予感がする)


「一つ目。

 アレクシス公子は、生きています」


 世界が止まった。


 手から、ペンが落ちる。

 乾いた音がやけに大きく響いた。


「……え?」


 呼吸が止まる。


「サンドランド地下牢に収容されていた」


「重傷ですが、生存しています」


 生きている!アレクシスがっ。


 その瞬間、張り詰めていた何かが壊れた。


「……っ」


 視界が滲み、うまく呼吸できない。


 安心じゃなかった。


 もっと乱暴な感情だった。


「生きて……」


 涙が勝手に零れる。


「アレクシス……」


 助けられなかったと思っていた。


 もう間に合わなかったと。


 だから、その言葉だけで、胸の奥がぐちゃぐちゃになった。


 フェルマーは静かに続ける。


「二つ目」


 空気が、再び冷える。


「ノリスが救出に向かいました」


 ヒマリの涙が止まった。


「……ノリスが?」


「異界経由で、単独潜入。

 現在、消息不明です」


 ヒマリの胸が冷える。


(どうして?)


(どうして、あなたが――)


 フェルマーは静かに言った。


「彼女は悔いていた。ロンデル崩壊の責任は自分のせいだと」


「その贖罪として――」


 そこまで聞いた瞬間。


 ヒマリは理解してしまった。


(ノリス)


 魔力をすべて奪われて、まだ責任を負うつもりなのだ。


 胸が痛む。


 同時に、小さな焦燥が混じった。


(私より先に……ノリスが……)


 アレクシスを救いに行った。


 自分が動けなかった間に。


 その事実が、胸の奥を静かに刺した。


 ヒマリは立ち上がる。


 ずっと昏睡して、衰弱した足がもつれた。


 それでも止まらない。


「フェルマー」


「はい」


「ノリスは今どこ?」


「サンドランドでの報告を最後に不明です」


 短い返答。


「追手がかかった可能性もある。

 異界で異常が起きた可能性も」


 ヒマリは、錫杖を握った。


「行く」


 即答だった。


「アレクシスも」


「ノリスも」


 声が震える。


 でも、止まらない。


「全部、私の居場所だから」


 フェルマーが目を細める。


(やはり、こうなるか……)


「落ち着け、ヒマリ」


「……なに?」


「先程の話を忘れたのか」


 静かな声。


「女王が単身で何処へ向かうつもりです?」


 ヒマリは息を呑む。


 悔しい。


 でも、正しい。


 だから、躊躇しながらもクルスを呼んだ。


(……クルス。二人の場所は?)


『ノリスの波動は感じる』


『生きてはいる。

 だが――遠い』


 ヒマリは唇を噛んだ。


「目立つ二人だ」


 フェルマーが続ける。


「情報が上がってから迎えに行く方が早い」


 ヒマリは、ゆっくり頷く。


「……総力で情報収集して」


「最優先で」


 涙は、まだ頬に残っている。

 それでも、目だけは、もう前を向いていた。


「待ってて」


 錫杖を、強く握る。


「今度こそ――誰も置いていかない」

すれ違いながらも、少しずつ動き始めました。

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