表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第四章 北部都市群編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/86

あなたはヒマリじゃない

地下牢にて、アレクシス公子を発見。

ただし、少しだけ予想外の形になります。

 地下牢は静まり返っていた。


 湿った石壁と錆びた鉄格子。

 血と薬草が混ざった重たい匂いが空気に残り、

 遠くで水滴の落ちる音だけが響いている。


 「誰だ……?」


 鉄格子の奥、暗闇の中に人影が見えた。


 壁にもたれ、浅く呼吸を繰り返している。


 ノリスの足が止まる。


 そして次の瞬間、息が詰まった。


 右腕がなかった。


 肩口から先が失われ、乱暴に止血された痕だけが残っている。


 包帯は乾いた血で赤黒く染まり、

 どれだけ長く苦しんできたかを物語っていた。


 右目も布で覆われている。


 以前の穏やかな公子の面影は、傷の下へ隠れていた。


 それでも分かった。


 アレクシスだった。


 本当に生きていた。


 その事実だけで胸が締めつけられる。


 だが同時に、視線を逸らしたくなるほど苦しかった。


 サンドランドで交わした密約。

 王都ブリュードで崩れていく街。


 そして、ロンデルの崩壊。


 全部、自分から始まった。


 ヒマリを傷つけ、この人も傷つけた。


 今、自分はその結果を見ている。


 指先が小さく震えた。


「……牢番ではないな」


 掠れた声だった。

 アレクシスがゆっくり顔を上げる。


 残った左目が暗闇を探し、やがてノリスの方へ向けられた。


「……ヒマリ?」


 その呼びかけは祈りのように弱かった。


 ノリスの胸が痛む。


 違う。

 そう言わなければならない。


 だが今ここで否定すれば、

 この人から最後の支えまで奪ってしまう気がした。


「……助けに来た」


 気づけばヒマリの声を使っていた。


 アレクシスの肩から少しだけ力が抜け、

 安心したように小さく笑った。


「……やっぱり」


 弱々しい声だった。


「来てくれると思ってた」


 その笑顔を見た瞬間、ノリスは視線を逸らした。


 こんな顔にしたのは自分だ。

 そう思うだけで胸が苦しくなる。


 外は砂漠のはずなのに、湿った石畳が恐ろしく冷たい。

 少し迷って、アレクシスの前で膝をついた。


「……痛い?」


 震える声で尋ねると、アレクシスは少しだけ笑った。


「すごく」


 冗談みたいな言い方だった。

 ――だが笑えるはずもない。


「ありがとう、君が来たから少し楽になった」


 限界だった。

 罪悪感と後悔が胸を押し潰す。


「……ごめんなさい」


 声が崩れた。


「全部……私のせい」


 アレクシスはわずかに首を傾げる。


「……どうしたの?」


 もう誤魔化せなかった。


 ヒマリを演じ続ける資格などない。


 ノリスは震える息を吐いた。


「私は――ヒマリじゃない」


 地下牢の空気が静まり返る。


 アレクシスは何も言わず、ただじっとノリスを見ていた。


 やがて小さく息を吐く。


「……やっぱり」


「え?」


「少し違うと思ってた」


 静かな声だった。


「ヒマリはもっと未来を見る」


 一拍置いて続ける。


「こんな風に、僕の前で泣きそうな顔はしない」


 胸が詰まった。


 ノリスは唇を噛みしめる。


「私は……ノリス。魔王だった女」


 自分の名前を絞り出した。


「最初にロンデルに攻め込んだのは私。

 第四軍が全滅したのも、あなたが囚われたのも全部、私のせい」


 責められると思った。

 憎まれると思った。


 それが当然だと。


 だがアレクシスは静かだった。


「……そっか」


 ただ、それだけだった。

 怒りも非難もない。


 だからこそ苦しい。


「……恨まないの?」


 ようやく出た声は弱々しかった。

 アレクシスは少し困ったように笑う。


「恨む元気も残ってないし」


 冗談めかして言った後、ゆっくりと視線を向けた。


「それに、君は来てくれた」


 ノリスの呼吸が止まる。


「こんな危ない場所まで」


 地下牢に静寂が落ちる。

 無防備に膝を付き、殴られても我慢するつもりだった。


 なのに、アレクシスは優しかった。


「……私はヒマリの代わりだから」


 やっとそれだけを口にする。


「言われた通りに、救出に来ただけよ」


 アレクシスは少し考え、それから穏やかに笑った。


「そうかな」


 一拍置いて続ける。


「少なくとも、今ここにいるのは――ノリスでしょ?」


 心臓が大きく跳ねた。

 逃げ場を失ったような感覚だった。

アレクシスの優しさは、

彼女にとって救いであり、罰でもあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ