表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第三章 ロンデル公国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/61

母と公妃の間で

ロナ・フォン・ブリューテの話です。


ヒマリのやったことを理解はしている。

でも、許せない。


 

 ロンデル公国、公妃ロナ・フォン・ブリューテは、

 窓の外を見ていた。


 首都エルドラ公宮の執務室。

 昨夜の戦闘の報告書が、机の上に積まれていた。

  「七人……か」


 ロナは報告書を握り潰しかけて、止めた。


 死者、七名。

 重傷者、二十三名。


  ――たった三体で、この被害。

 ヒマリの介入が無ければ、住民に被害も出ていたはず。


「公妃陛下」

 扉が開き、侍従が頭を下げた。

「王都の使者が参っております。

 ヒマリ女王が、直接お目にかかりたいと」

 ロナは、報告書を閉じた。


「通しなさい」

 声は、平静だった。

 胸の奥が、ざわついていることを、

 誰にも悟らせない声だった。


 ヒマリは、思ったより小さかった。

 ロナが最初に思ったのは、それだった。


 童顔。黒い目。黒い髪。

 髪を編み込みもせず、束ねもせず、

 少女のように肩先で切り揃えている。


 王都を解放した女王が、これほど小さいとは。


「ロナ・フォン・ブリューテ公妃」

 ヒマリは、一礼した。


「お時間をいただき、ありがとうございます」

「どうぞお掛けになって。歓迎いたしますわ」

 ロナは、椅子を示した。


 自分も、対面に座る。

 しばらく、沈黙があった。


 ロナは、その沈黙を壊さなかった。

 先に話すべきは、来た側だ。


「昨夜の魔物について」

 ヒマリが、口を開いた。


「差し出がましいと思いましたが、介入させて頂きました」

「警備兵から報告があがっています」

「すべては救えませんでした」


 ロナは、ヒマリを見た。


「なぜ、貴方が他国の軍を気にされるの?」

 会話を始めて、違和感だけが募っていく。


「ジギスムントの布告を知らぬわけでもないでしょう?」


「助けられる命を放ってはおけない」

「ジギスムントに代わってロンデル公国を救っていただけると、

 感謝申し上げればよろしかったかしら」


「感謝も許しもいりません」

 率直な言葉だった。

 ロナは、わずかに目を細めた。


「そして、旧ロンデル軍に、許しを請うつもりもありません」

 ヒマリは、静かに言った。


「聞いてもいいかしら」

 ロナは、静かに言った。


「何でしょう」

「第四軍、いえ、ロンデル公国軍は――

 本当に、あなたが虐殺したの」


 ヒマリは、目を逸らさなかった。


「虐殺ではない……戦争の結果です」

「八千人が死んだ」

「はい」

「私の親族の兵士たちが、あなたの魔法で焼かれた」

「……はい」

 ヒマリは、俯かなかった。

 だが、その目に、何かが揺れた。


「ジギスムントは、第四軍を最初から捨て石として扱っていた。

 それは、分かっている」


 ロナは、窓の外を見た。


「あの男は、今、サンドランドで

 次の手を打っている」

「はい」

「そしてあなたは、

 ロンデルを自分の陣営に引き込もうとしている」


 ロナは、ヒマリを見た。

「違うかしら」

「……否定はしません」

 ヒマリは、静かに言った。


「ただ、引き込むのではなく、選んでほしい」

「同じことよ」

「違います」

 ヒマリの声が、わずかに強くなった。


「ジギスムントは選択肢を消して、従わせた。

 私は、選択肢を示して、判断を委ねたい」


 ロナは、その言葉を聞いた。

(美しいことを言う)


 だが、信じるかどうかは、別の問題だ。


「お母様」

 扉が開いた。


 アレクシス公子だった。

 銀色の髪。

 柔らかな青い目。

 母親に似た、高い鼻筋。


 だが、その表情は、

 母よりずっと穏やかだった。


「入ってきなさい」

 ロナは、息子を見た。


「聞いていたの」

「……少しだけ」

 アレクシスは部屋に入って、ヒマリを見た。


 一瞬だけ、何か驚いたような顔をして、

 すぐに穏やかな表情に戻った。


「ヒマリ殿、ですね」

「はい」

「昨夜は、ありがとうございました」

 ロナは、息子を見た。


(この子は)

 怒っていない。


 八千人の兵士が死んだことを、

 知っているはずなのに。


 その中に、幼い頃から顔を知っている者たちが

 いたはずなのに。


「お母様」

 アレクシスは、静かに言った。


「ヒマリ殿は、昨夜、命を懸けて

 エルドラを守ってくださった」

「知っている」

「であれば――」

「知っていると言っているの」

 ロナの声が、わずかに硬くなった。


 アレクシスは、怯まなかった。

「お母様が、何を考えていたか当てましょうか」


 ロナは、答えなかった。


「内容がどうあれ、八千人の死を許せない」


 正確だった。

 だから、反論できなかった。


「今は、やめてください」

 アレクシスは、静かに続けた。


「ヒマリ殿を追い詰めて、何かが変わりますか。

 死んだ者たちが、戻りますか」

「戻らないことは、分かっている」

「であれば」

 アレクシスは、母を見た。


「今、私たちに必要なのは、

 敵を一人増やすことではなく、

 味方になれる者を見極めることでは、ないでしょうか」

 沈黙が、部屋を満たした。


 ロナは、ヒマリを見た。

 ヒマリは、ただ待っていた。


(この子は)

 ロナは、思った。

(腹が立つほど、真っ直ぐだ)


「一つだけ、聞かせなさい」

 ロナは、ヒマリに言った。

「はい」

「ジギスムントと、あなたの違いは何?」

 ヒマリは、少し考えた。


 その間が、ロナには意外だった。

 迷っているのではない。

 正確に答えようとしている間だ。


「ジギスムントは、制度のために人を動かします」

 ヒマリは、静かに言った。


「私は、人のために制度を作りたい」

「……同じことを言う者は、歴史上、無数にいたわ」

「はい」

「そして、たいていは、途中で変わる」

「……そうかもしれません」

 ヒマリは、目を逸らさなかった。


「でも、まだ変わっていません」

 ロナは、しばらく、その言葉を聞いていた。


「公宮への滞在は、許可します」

 ロナは、立ち上がった。


「——ただし、これは受け入れではない。ロンデルからの従者も

 必ず同行させること」

「はい」

「そして」

 ロナは、ヒマリを見た。


「私が納得できない行動を取った時、

 安全の保証も無くなる」

「承知しました」

 ヒマリは、一礼した。


 ロナは、息子を見た。

 アレクシスは、穏やかに微笑んでいた。


(この子が、何を考えているのか分からない)


 ロナは、しばらくアレクシスを見ていた。


(……母親なのに)


 ヒマリが退室した後。

 ロナは、窓の外を見た。

 エルドラの街が、朝の光の中にある。


「アレクシス」

「はい」

「ヒマリを、どう思う」

 息子は、少し考えてから、答えた。


「……正しいことを、しようとしている人だと思います」

「正しいことと、正しいやり方は、別物よ」

「はい」

「覚えておきなさい」

 ロナは、執務室を出た。


 廊下を歩きながら、

 胸の奥の怒りが、まだ燃えていることを感じた。


 だが――

 今日は、それをしまっておくことにした。

アレクシスが何を考えているか分からない、

という母親目線が入ってしまう、ロナの好感度があがりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ