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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第二章 王都決戦編

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盤面を捨てる王

ジギスムントって、

本当に嫌なタイプの敵だと思います。

 炎と死臭が、平原を覆っていた。


 第四軍の陣列は、すでに軍と呼べる形を失っている。

 燃え、砕け、散り、

 ――それでもなお前へ進もうとする残骸。


 それを見下ろす王都軍本陣で、

 ジギスムントは、ただ黙って立っていた。


 ――計算外だ。


 第四軍は捨て石。

 魔王軍の前衛を削り、

 ヒマリとノリスに躊躇を生じさせるための犠牲。


 だが――


 ノリスは、魔力消耗を度外視して火球を撃ち続けた。


 ヒマリも、決断を止めなかった。


 想定よりも早く、

 想定よりも深く、

 王の盤面が削られていく。


「……次の報告を」


 ジギスムントの声は、まだ落ち着いていた。


 想定の外側にある事象を

 失敗と呼ばない。


 伝令が駆け寄る。


「第、第四軍――八割以上が壊滅。

 残存部隊も、戦闘能力を喪失しました。

 その際、魔王城結界は消失」


 伝令の声が、わずかに震えていた。


「ああ、光の幕が崩壊する様が見えた」


 王は、目を細めた。

 その声に、喜びも悲しみもない。


 ――将来の反乱分子を、魔王軍の仕業として処分できた。


 それで、十分だった。


「目的は達した。魔王軍の魔力消耗率は?」


「結界を失い……想定の一・三倍です」


 わずかに、王の口角が上がる。


 ――使える。


 第四軍は無駄死にではない。

 魔王軍の弱体化という形で、確実に価値を残している。


 だが、その瞬間。


「……陛下」


 別の伝令が、青ざめた顔で割り込んできた。


「第二軍が――陣を離脱しました」


 空気が、止まった。


「……何?」


「行方不明であった第二軍・シュルツ将軍が、部隊を率いて戦線から後退。

 現在、王都方面へ進路を――」


「……理由は」


「不明です。伝令も拒否されています」


 一拍。


 二拍。


 ジギスムントの思考が、超高速で回転する。


 第二軍。

 主力。

 魔王軍を抑え、第四軍の犠牲を意味のあるものに変えるための要。


 それが――消えた。


 この瞬間、王の戦場は未定義になる。


 どれほど兵が残っていようと、

 どれほど王都が堅牢であろうと、

 勝利条件が崩れた戦争は、すでに負けている。


「……シュルツめ」


 怒りはない。


 あるのは、冷たい納得だけ。


 ――やはり、あの男も役立たずだ。


 理屈よりも、信義や縁を貫く男。

 王にとって最も扱いにくい種類の駒。


「前線の配置を再計算」


 ジギスムントは、即座に命じた。


「第二軍の穴を、第一軍で補填。

 王都防衛の第三軍と合流し、防衛線を再構築」


「……陛下、それでは魔王軍に背を見せることになります」


 参謀が息を呑む。


「分かっている」


 ジギスムントは、戦場を見据えた。


 黒い霧の向こう。

 魔王ノリスと、聖女ヒマリのいる場所。


 ノリスは魔力切れ、魔王城結界もない。


 これなら――勝てるか?

 答えは、ノーだ。


 第二軍が王都に先行し、挟撃を狙ってくる。


 フェルマーは既に気づいているはずだ。

 自分が即座に思いつくことを、

 あの男が見落とすはずがない。


 王都への撤退は、封じられた。


 だが――


 第三軍はまだ無傷だ。

 サンドランドまでの道は、まだ開いている。


 魔王軍も混乱している。

 今すぐ追撃はできない。


 ならば――


「……王都は放棄する」


 周囲が凍りつく。


「全軍、サンドランドへ転進する。

 王都はすぐに取り戻す。だが、この戦場からは退く」


「陛下!? こちらも第三軍で挟撃をすれば……」


「味方同士で殺し合うのか? ノリスの高笑いが聞こえてきそうだ」


 ジギスムントの声は、淡々としていた。


「心配せずともあの二人は未熟だ。

 策略に失敗した聖女は、勝ち方を知らない」


 そして――


「魔王城を奪われた魔王は、統治を知らない」


 だから今は。


「時間は、こちらの味方だ」


 それだけで、十分だった。


 撤退の号令が、王都軍全体に伝播していく。


 角笛が鳴る。

 戦線が、ゆっくりと後退を始める。


 【魔王城・本部】


 ヒマリは、その動きを見ていた。


「……撤退?」


 フェルマーが目を見開く。


「シュルツの手腕で第二軍が抜けた

 ……王が、判断を切ったな」


 ノリスが、舌打ちした。


「逃げたわね。あの男」


 だが、ヒマリの胸に浮かんだのは、別の感情だった。


 ――恐怖。


 勝っているのに。

 結界が無くなって、敵が崩れているのに。

 王は、盤面を捨てて逃げた。


(……この人、私たちと同じ戦争をしてない)


 ヒマリの頭の奥で、クルスが囁く。


『合理的だ。正しい撤退だよ』


『彼は、君たちが壊れる未来を見た』


 ヒマリは、歯を噛みしめた。


(じゃあ、私たちは?)


『……最初の選択を、ようやく終えたところ』


「ジギスムントは……追えない」


「ヒマリ?」


「私たちも第二軍がどうなるか知らない…」


 シュルツの保険であることはわかっている、

 でも――なぜ、説明がなかったのか。


 思考に――クルスの声が、重なる。


『そう、このまま第二軍が王都を占拠したら、

 君とは敵同士だ』


『ジギスムントもサンドランドに落ち延び

 婚姻と外交で、君は包囲される』


 ヒマリは、空を見上げた。


 逃げる王の背中が、遠ざかっていく。


 それは敗走ではなく、

 次の盤面への移動だと、ヒマリには分かった。


 ――戦争は、終わっていない。

次回から王都統治編に移っていきます。

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