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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第二章 王都決戦編

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決戦パタゴニア 下編

戦場の駆け引きをそれぞれの視点で描きます。

【ノリス視点】


 魔法陣は、脅しだ。


 だが地上は――別の話。


 着地した瞬間、弾けるように走っていた。


 肉体へ魔力を通す。


 筋肉が膨張し、視界が研ぎ澄まされる。


 一歩。


 地面が抉れる。


 二歩。


 速度が跳ね上がる。


 王都軍の兵士が槍を構えた。


 遅い。


 突かせる前に穂先を素手で掴んだ。


 握り潰す。


 そのまま兵士ごと振り回し、後方へ叩き飛ばす。


 次。


 さらに次。


 剣が振り下ろされる。


 躱さない。


 腕で受ける。


 魔力を纏った皮膚に、刃は通らない。


「魔王を、剣で止めようとするな」


 低く、静かな声が漏れる。


 盾を構えた兵の前でも、足を止めない。


 進むだけで、兵が崩れていく。


 やがて王都軍が、じりじりと後退を始めた。


(押せる)


 だが――


(これだけか)


 循環する魔力に小さく舌打ちする。


 かつての自分なら。


 この程度の抵抗、一息で終わっていた。


 今は違う。


 魔王城はヒマリに掌握され。


 供給もしぶられる。


 さらにヒマリの指示に従わなければならない。


 それでも。


 ノリスは前へ進む。


(今は、それでいい)


 王都軍前線が、じわじわと後退し始めた頃。


 ふと、空を見上げた。


(もう一段階の展開が可能……)


 気に入らない。


 だが――理解はしている。


 一呼吸置き、両腕を広げた。


 魔力が、急速に収束する。


 空気が震えた。


 地面が低く唸る。


 次の瞬間。


 薄く黒ずんだ上空に巨大な魔法陣が展開された。


 黒い円環。


 平原の半分を覆うほどの巨大な陣。


 幾重にも重なる紋様が赤黒く輝く。


 王都軍の動きが止まった。


「な……」


「あれは」


「大規模魔法の準備陣か――!」


 悲鳴に近い声が前線を走る。


 兵が後退し、隊列が崩れる。


 魔導士部隊が、一斉に結界へ魔力を注ぎ込んだ。


 右翼に兵が集まり始める。


 中央から。


 左翼から。


 吸い寄せられるように。


 上空に魔法陣を維持したまま、本陣に向かって静かに微笑む。


(撃たなくても十分ね)


 圧力だけで、陣形は歪む。


 その隙に、フェルマーの結界が中央を覆っていく。


 だが同時に――


 大規模魔法を目にした王都軍が、動いた。


 後退ではない。増援。

 中央と左翼から兵が流入してくる。


「……なにこれ」


 魔法陣の干渉に眉をひそめた。


 上空に魔力を更に込める。


 魔導士部隊が、一斉に結界を展開始める。


 一部隊ではない。


 二重に展開された結界に魔法陣が次々と上書きされる。


 三十枚。


 百枚。


 多重、重層結界。


「過剰投入よ」


 呆れた声。


 これだけの結界を張れば、大規模魔法すら減衰できる。


 だが同時に。


 これだけの魔導士を右翼へ集めたということは――


【ジギスムント・本陣】


「魔導士全隊、魔王へ」


 ジギスムントは即座に命じた。


 参謀がわずかに眉をひそめる。


「……全隊、ですか。


 中央の支援が手薄になります」


「構わない」


 ジギスムントの視線はノリスを追っていた。


 あの魔力を、彼は知っている。


 かつて。


 ノリスが魔王として前線で力を振るった際


 一度だけ、全力を解放した夜があった。


 ロンデルの街が消えた。


 建物も。


 人も。


 地形すら残らなかった。


「あれを、野放しにはできない」


 参謀は、それ以上何も言わなかった。


 王の目に宿っていたのが――


 計算ではなく。


 恐怖だったからだ。


【フェルマー・本陣】


「……想定以上だ」


 フェルマーは戦況図を睨んだ。


 中央結界への圧力が急に落ちている。


 上空に現れた巨大な魔法陣に次々と小魔法陣が連結していく。


 王都軍の全魔導士が解術と結界に割り当てられた。


「ヒマリ」


「見てる」


「王はノリスを恐れすぎている」


 戦況図の配置が歪んでいた。


 フェルマーは結界石を取り換え、配下の術士を休ませる。


 中央と左翼の結界が再び輝きを取り戻した。


「成功ね」


 ヒマリもその様子を見て肩の力を抜く。


「ノリス」


 回線を開く。


「なに。撃っていい?」


「それは駄目。

 でも作戦は成功よ。できるだけ引き付けて」


 一拍の沈黙。


 やがてノリスが低く笑う。


「……なるほどね」


「私が怖くて、魔導士全部隊が釘付けってわけね」


「そういうこと」


 ノリスの魔力は解放寸前の形で止まったまま。


 王都軍の魔導士は広範囲に多重結界を張り続けることになる。


 右翼は膠着した。


 だが今は、それで十分だった。


【ジギスムント・本陣】


 三十分が経過した。


 ノリスは、まだ撃っていない。


「……おかしい」


 ジギスムントは戦況図を見つめた。


 あれほどの魔力を収束させながら、


 解放しない。


「魔導士隊、報告」


「は。大規模魔法陣に干渉成功。

 魔力圧は想定の六割程度です」


「六割」


 ジギスムントはその数字を噛みしめた。


 かつて街を消した夜の、六割。


 魔王城を失い。

 魔力コアを失い。

 さらにヒマリの制御下。


「弱体化している」


 断言だった。


 参謀が慎重に言う。


「ですが、地上に降りた際、結界突破の火力は――本物でした」


「放つなら、とっくに放っている。

 ノリスの性格的にもな――」


 ジギスムントは静かに言った。


「あれはフェルマーの策だろう。

 私を敵陣右翼に縛り付けるための」


 参謀が息を呑む。


 戦況図の歪みに、ようやく気付いた。


「……してやられました」


「いや」


 ジギスムントは口角を上げた。


「好都合だ」


 彼は後方を見た。


 第四軍。


 ロンデル公国の死兵。


「ノリスが脅しにしか使えないなら」


 一拍。


「前線を押し上げる好機だ」


「第四軍、投入する」


 角笛が鳴った。


 地平線の向こうで、


 第四軍の旗が動き始める。


 ヒマリの胸に冷たい感覚が落ちた。


「……来るわね」


「ああ」


 フェルマーが唇を噛む。


「王は、捨て石を切った」

膠着した戦線に遂に第四軍が投入されます。

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