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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第二章 王都決戦編

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ジギスムント視点:疑念が初めて恐怖に変わる夜

ジギスムント視点です。

悪役の話なので、

応援しにくいかもしれませんが……

王都ブリュードは、完璧だった。


夜半の回廊に人影はなく、

灯火だけが等間隔に揺れている。


完璧だ。

自分が作った秩序が、今夜も機能している。


――だから、この胸の違和感が、

  どこから来るのか分からなかった。


ジギスムントは自室の執務机に座り、書類を閉じた。

羊皮紙の束は整然と並び、記載内容にも不備はない。


署名も揃っている。


それなのに、胸の奥に小さな棘のような違和感が刺さったまま抜けない。


「……静かすぎる」


独り言が、やけに大きく響いた。


扉の外には近衛が配置されているはずだ。

だが足音も、鎧の擦れる音も聞こえない。


彼は立ち上がり、扉を開けた。


廊下には、確かに兵がいた。


姿勢正しく、微動だにせず立っている。


「……ご苦労」


声をかけると、兵は即座に頭を下げた。


「はっ。陛下」


だが。


――温度がない。


以前なら感じていたはずの、緊張、畏怖、あるいは忠誠の熱。

それらが、妙に均されている。


「不審な人影はみなかったか?」


「異常ございません」


即答。


早すぎる。

考える間がないほど、整いすぎている。


ジギスムントは視線を逸らし、歩き出した。


回廊を進むにつれ、同じ感覚が積み重なっていく。


誰もが礼儀正しく、静かで、よく働く。

質問には即答し、判断に迷いがない。


――まるで、訓練された人形だ。


胸の奥が、じわりと冷えた。


「……最近、皆よく働くな」


試すように、文官の一人に声をかける。


「はい。陛下のお役に立てることが、我々の喜びです」


笑顔で、完璧な受け答え。


だが、その目の奥に、個人的な感情が見えない。


その瞬間、ジギスムントの脳裏に、ひとつの言葉が浮かんだ。


――管理されている。


誰に?


彼は足を止めた。


「……最近、誰が婚姻準備を調整している?」


文官は一瞬だけ、ほんのわずかに間を置いた。


「補佐官会議の決定です。複数名による合議で――」


「具体的には?」


「……ええと」


その沈黙は、ほんの二拍。


だが、ジギスムントには十分だった。


(誰の名前も、出てこない)


いや、いるのに――誰もその名を口にしない。


頭の奥で、歯車が噛み合う音がした。


(これは……)


彼はゆっくりと自室へ戻り、扉を閉め、結界を張る。

魔力の流れを確認するが、異常はない。


にもかかわらず。

胸が、ざわつく。


机に置かれた婚姻関連の書類を見下ろす。


アリシア王女の肖像画の作成、廉価版を商人に販売。

サンドランドとの条約文。

戦勝広場からの祝典の進行表。


どれも、自分が承認したものだ。


――だが。


「……本当に、俺が決めたのか?」


その疑問が浮かんだ瞬間、喉がひくりと鳴った。


思い返そうとする。


あの時、執務室にいたのは誰だったのか。


霧がかかったように、核心だけが抜け落ちている。


「馬鹿な……」


自分は王だ。

他人に誘導されるほど愚かではない。


そう言い聞かせようとするが、心臓の鼓動が早くなる。


ふと、思い出す。


ノリスの言葉。


――「あなたは、使う側だと思っているでしょう?」


彼女が去る直前、浮かべていた、あの哀れむような笑み。


「……違う」


否定する声が、震えた。


「私は、支配する側だ」


だが、部屋の隅に置かれた燭台の炎が、ふっと揺らいだ。


風はない。

結界も完全だ。


なのに、影だけが――わずかに、伸びた。


その形が、一瞬だけ魔王の輪郭に見えた気がして、

ジギスムントは息を呑む。


「誰だ」


返事はない。


だが、耳元で、ほとんど錯覚のような気配が囁いた。


――安心してください。


それは、声ですらなかった。

考えが、直接流れ込んできたような感覚。


――陛下は、正しい選択をしています。

――何も、疑う必要はありません。


膝が、わずかに震えた。


これは命令ではない。

脅迫でもない。


納得を与える声だ。


そして、それが一番恐ろしい。


「……誰かいるのか?」


問いは、空気に溶けた。


代わりに、胸の奥に静かな重さが残る。


思考が、整えられていく。

疑問が、角を落としていく。


怖い。


はっきりと、そう思った。

だが同時に、安堵もあった。


考えなくていい。

委ねればいい。


すべては、うまくいく。


その感覚に、ジギスムントは歯を食いしばる。


「……違う……!」


机に手をつき、息を荒げる。


額から汗が滴り落ちた。


――これは、支配だ。


はっきり理解した瞬間、背筋が凍った。


見えない糸が、すでに自分の周囲に張り巡らされている。

しかもそれは、敵意を持たない顔で、静かに寄り添っている。


「ノリスが……魔王城を取り戻したのか…」


魔王が関わっているのは間違いない。

だが、微妙にピントがずれている。


彼女の姿が浮かばない。

だが、確信だけがある。


この仕組みの中心にあるのは、魔王城だ。


ジギスムントは椅子に沈み込み、額を押さえた。


王として、初めての感情が胸を満たす。


怒りでも、焦りでもない。


それは――


理解できないものに触れてしまった者の、純粋な恐怖だった。


誰もが安らかで、秩序正しく、よく働く夜。


何か手を打たなければならない。


だが、王都には剣を向けるべき敵が、

 どこにも――いない。


ジギスムントは夜明けまで、

眠れなかった。

次回はヒマリ側に戻ります。

じわじわが、恐怖が加速していきます。

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