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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第一章 魔王城制圧編

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魔王城コア・同化

前魔王クルスとの対面。

制御権を巡る争いは、戦いではなく選択だった。

完全掌握の代償は何か。

 中層の戦闘が沈静化した直後、

 魔王城は自律的に軍の再編を開始した。


 ヒマリは命令していない。

 だが、城は理解している。


 ――次に取るべき最適行動を。


「前線部隊を三群に再編。

 戦闘能力ではなく、制御適性で分ける」


 淡々と読み上げるのはフェルマーだった。

 彼の手元で、魔力の配列が書き換えられていく。


「シュルツ隊は先導。

 デーモン部隊は後方で魔法支援。

 飛行戦力は展開せず、封印待機」


「……敵が来ないわね」


 ヒマリは前を見たまま言った。


「当然だ」


 フェルマーは即答する。


「楽勝と思えた敵に壊滅的な被害を負ったのだ。

 魔王ノリスが戻るまで、出てはこないだろう」


 彼は一瞬だけ、ヒマリを見る。


「それに、我らの目的は魔王軍壊滅などではない」


 その言葉に、ヒマリは答えなかった。


 彼女の視界には、

 魔王城の最深部――中枢区画が半透明に重なっている。


 そこへ至る回廊は、

 かつて魔王玉座と呼ばれていた場所だ。


「……クルス」


 ヒマリは、その名を思い浮かべる。


 前魔王。

 この城を作り、支配し、

 そして今は――コアとして存在している。


「制御権を掛けた争いになるわね」


 ヒマリは、誰にともなく言った。


「でも、戦う必要はないはず。

 制御権はすでに私のもの」


 フェルマーは小さく頷く。


「ああ、魔王城は既に君に傾いている。

 後は意思の問題だ」


 軍勢は音もなく進む。


 そして――


 中枢区画に辿り着いた。


 そこはもう、城ではなかった。

 壁も床も物質ではない。


 魔力の脈動が、巨大な心臓のように鼓動し、

 周囲の壁から出る巨大な光の管に支えられている。


 その中心に――


 女が座っていた。


 魔力で編まれた玉座。

 そこに腰掛ける細い身体。


 長い黒髪は重力を無視して宙に揺れ、

 光の粒子が王冠のように頭上を巡っている。


 白い肌。

 広い額と高い鼻。中性的な輪郭。


 左右対称の整いすぎた顔立ち。


 だが、その瞳だけは違った。

 深い闇を湛えた捕食者の紫瞳。


 前魔王クルス。


「……来たのね」


 魔王城とは違う柔らかい肉声。


 だが、どこか低く――

 性別を断定させない響きだった。


「好き勝手にやってくれたわね」


「あなたが、選択しなかったからでしょう?」


 クルスの声は、どこか楽しげだった。


「私がやってあげたのよ。

 あなたの出来ないことは私に任せなさい」


 ヒマリは一歩前に出る。


「だめよ、あなたから、制御権を引き継ぎに来た」


「それなら、もう持ってるじゃない」


 クルスが指を鳴らす。

 その瞬間、世界が闇に沈む。


 ヒマリの足元が消えた、恐怖で呼吸が乱れる。

 ――大丈夫、私は立っている。


「まだ、持っていない。あなたがここにいる限り」


「あなたは選択できなかった。

 だから、スマホのDM通知もゼロなのよ」


 ヒマリは歯を喰いしばる。

「ずいぶん、デリケートゾーンに踏み込んでくれるじゃない」


「あなたの過去も見させてもらった。

 あれだけ愚痴ばかりなら誰も近寄らないでしょ」


 クルスは楽しそうに暗闇を舞う。


 周囲の闇が狭まる。


「あなたは優秀な設計者だった。

 お陰で勝てたよ。でも、魔物にも感情はある」


「……誰を犠牲にするか、あなたに判断できるの?」


 クルスは目を細める。


「わからない。けど、私が決めなければいけなことなのよ」


 彼女はゆっくりと立ち上がり近づいてくる。


「ふぅん。捨てられて、お勉強したのね」


「死にたくなければ誰でも変わる」


 ヒマリは首を振った。


「あなたは、

 最終的に城の最適化を阻害する」


 その瞬間、

 クルスの笑みが、凍りついた。


「……ああ」


 彼女は、ようやく理解したように呟く。


「あなた、

 もう、元の世界に戻る気が無いのね」


 ヒマリは一瞬、言葉に詰まるが、感情を整理する。


「私は、ここに来て初めて期待された――」


 それ以上の言葉が続かない

 クルスが、抱きしめて来たから。


「ここに来るまで辛かったでしょう――」


 彼女は、おでこを付け頬を寄せてくる。

 生身ではないはずなのに、鼓動が高まった。


「すでに選択を終えていたのね、

 あなたのこと把握したつもりだったのに…」


 クルスは頬を離すと、両腕をヒマリの腰に回した。

 吐息が、鼓動が、やけに近い。


「完全制御を望むなら――

 私ごと、取りなさい」


「……え?」


 甘い囁き、次の瞬間。


 膨大な情報と感情が、

 ヒマリの中へ流れ込んできた。


 恐怖。

 傲慢。

 支配欲。

 孤独。


 魔王クルスが積み上げ、

 魔王城を形成したすべての意思。


「ちょ、待っ――」


 拒絶しようとした。

 だが、城が先に判断した。


 《統合開始》

 《拒否権:無効》


「なっ……!」


 ヒマリの視界が白く染まる。


(やめ……!)


(私は、制御を――)


(こんなの、聞いてない……!)


 だが、クルスの声が、優しく重なった。


『大丈夫』


『あなたなら、耐えられる』


 少しだけ歓喜が混じる。


『私はね、ファンになっちゃった。

 貴方に期待させてもらうわ』


 その言葉と共に、

 クルスは溶けるように消えた。


 ――否。


 消えたのではない。


 ヒマリの中に、完全に収まった。


 《魔王城・完全制御権》

 《取得完了》


 同時に、

 外界との魔力回線が遮断される。


 《対・魔王ノリス供給:遮断開始》


 城全体が、歓喜のように震えた。


「……成功だ!」


 フェルマーが、声を上げる。


「制御権、完全掌握!

 これでノリスの魔力供給もとめられる」


 魔物たちが、ざわめく。


 歓声。

 安堵。

 忠誠。


 誰もが、ヒマリを見る。


「ヒマリ殿……!」


 シュルツが、膝をつく。


「おめでとうございます。

 これで、魔王城は――」


「……ええ」


 ヒマリは、ゆっくりと息を吐いた。


「終わったわ」


 確かに。制御権が手中に納まったのがわかる。

 魔王城の詳細な地図が頭に浮かぶ。


 だが。


 自分の思考に、

 もう一人分の静かな視線がある。


(……クルス?)


 答えはない。

 だが、確かにいる。


 喜ぶ声を背に、

 彼女はただ、黙って中枢を見つめ続けた。


 ――完全制御とは、

 支配ではなく、不可逆の融合なのだと。


 その違和感だけが、

 静かに、確かに、胸に残っていた。

制御権はヒマリのものになりました。

けれど、クルスは消えていません。

完全制御とは、融合。

ここからヒマリは少しずつ変わります。

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