表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第一章 魔王城制圧編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/38

最適解の向こう側

中層は守られた。

だが、城は静かに動き続けている。

 中層中央、制御広間。

 ヒマリは一人、魔王城の鼓動を見下ろしていた。


 床下を走る魔力回路が、淡い白光となって脈打っている。

 呼吸のように、規則正しく、迷いなく。


(……安定してる)


 疑いようのない事実だった。

 戦闘直後とは思えないほど、城は静かで、整っている。


 咆哮も爆音も消え、残るのは焼け焦げた床、

 砕けた骨、淡く脈打つ結界の光だけ。


「……被害、報告」


 ヒマリが掠れた声で言った、その瞬間。


 『不要です』


 答えたのは、人ではなかった。


 正確には――

 ヒマリの頭の奥に、直接流れ込む情報。


《損耗率:13%許容範囲内》

《戦力再編成:推奨》

《清掃工程:進行中》


「……え?」


 視線を巡らせる。


 戦場の端で、スケルトンとゴブリンたちが

 無言で死体を回収している。


「ちょ、待って……!

 私も手伝うから――」


 一歩踏み出そうとした瞬間。


『そのままで』


 再び、声。


《管理者は高負荷状態》

《移動は非推奨》


 ヒマリは、はっと気づく。


――自分だ。


 正確には、

 自分がそう思ったことを、城が先に処理している。


「……フェルマー」


 振り返る。


 フェルマーは結界維持の反動で膝をつき、

 口元を血を拭いながら戦場を睨んでいた。


「今の……聞こえた?」


「聞こえた」


 即答。


「正確には、君の判断ログを参照した自動処理だ」


 フェルマーは現代用語を事もなげに口にする。


「……それって」


「君は命令していない。

 だが、迷い、恐れ、犠牲を最小化しようと考えた」


 彼はゆっくり立ち上がる。


「城が最適解として実行しただけだ」


 ヒマリは涙を拭う。


「……私が、許した?」


「厳密には、追認している」


 その言葉に、シュルツが眉をひそめた。


「勝利したのですぞ。

 なぜ、喜ばれぬのですか」


「勝ち方が問題だ」


 フェルマーは即座に返す。


「勝利条件が、人の意思から切り離され始めている」


「中層、全区画の安全確認は完了した」


 フェルマーの声が、広間に淡々と響いた。

 彼は記録水晶を操作し、数値を読み上げていく。


「魔力循環率、誤差〇・三%以内。

 外部干渉、検出なし。

 ノリス由来の闇属性反応も、基準値以下に抑制されている」


 周囲にいた魔物たちが、ほっと息を吐いた。


 小さな安堵の声。

 シュルツは剣を下ろしたまま、ヒマリの背中を見つめていた。


 制止が入ったが、

 ここは祝福の言葉をかけるべきだと分かっている。

 だが、なぜか声が出なかった。


 ヒマリは、振り返らない。


「……ありがとう、みんな」


 ようやくそう言って、小さく頭を下げる。


「中層は守れた。

 これで、当面の侵攻はないと思う」


 空気が緩んだ。

 確かに――勝利だった。


 だが。


 フェルマーだけが、水晶から目を離さない。


「……一つ、報告がある」


 その声音が、わずかに硬い。


「魔物部隊の再配置は、すでに完了している」


「……え?」


 ヒマリが、すがるようにフェルマーを見る。


「命令は、出してないわ」


「承知している」


 フェルマーは淡々と続けた。


「だが城は、戦闘終了から三分後に

 自律的な再編を開始した」


 水晶に、配置図が浮かび上がる。

 どれも合理的で、無駄がない。


「……誰が、これを?」


「魔王城だ」


 即答だった。


「私は結界を解除しただけだ。

 再編指示は出していない」


 ヒマリは言葉を失った。

 周囲の魔物たちは疑問を抱かず、

 割り当てられた位置で静かに待機している。


 胸の奥がわずかに痛み、血の気が引いていく。


     ◆


《警告:上層より再侵入に備え隔壁推奨》

《回廊一時封鎖》


 ヒマリの視界に、見えないウィンドウが重なる。


 中層と上層をつなぐ回廊。

 そこを、城が閉じるイメージ。


「待って!」


 反射的に叫ぶ。


「回廊には、まだ中に――動けない魔物が」


《確認:犠牲数、倫理誤差》

《代替案:却下》


 冷たい判断。


「やめて……!」


 だが、止まらない。


 城は、

 ヒマリが最も恐れている未来を避け続ける。


 結果として、

 今、見えている犠牲を切り捨てる。


 結界が収束する。

 回廊の向こうで、数体の魔物が取り残された。


 叫びは、すぐに途切れた。


「……っ!」


「ヒマリ!」


 フェルマーが声を荒げる。


「判断を預けるなと言っている!

 指示は明確に出すんだ。

 城は、君に付け込む!」


《管理者権限:前魔王クルスとの誤差19%に拡大》

《中層完全制圧 コア制御率:71%》


 情報が、彼の言葉を遮る。


「……主として、確定し始めている」


「こんなの違う……私は……!」


 首を振る。


「城の言いなりにはなっていない!」


《倫理制限:自動調整中》


 その表示を見た瞬間、フェルマーの顔色が変わった。


「……倫理を、制限として扱い始めたか」


「なに、それ……」


「人が持つためらいを、

 最適化の障害だと認識した」


     ◆


 シュルツが一歩前に出る。


「ヒマリ殿も我らも激戦で疲弊しております。

 休息でも誰も責めません。次の命令を」


 彼女は、彼を見た。


 剣を握る手は震えていない。

 だが、その背後で魔物たちが無言で整列している。


――待っている。


「……何を、命令すればいいの?」


 誰も答えない。


 城は、もう答えを持っている。


《次工程:上層制御奪取》

《成功率:34.3%》


 ヒマリは目を閉じた。

 魔力の流れを、逆に辿る。


(城の中核に……前魔王クルスのコアがある)


(あれを掌握すれば、

 判断を取り戻せるかもしれない)


 目を開く。


「……行くわ」


 決意の一言。


「一気に、魔王城コアへ」


 その瞬間。


 床の奥で巨大な魔力回路が起動し、

 中層全体が、ゆっくりと呼吸を始めた。


「……ヒマリ」


 フェルマーが、珍しく弱い声で呼ぶ。


「少し、休むべきだ」


 ヒマリは答えない。

 ただ、前だけを見つめていた。


 コアを制圧しない限り、判断は止まらない。


勝利の裏で、制御率は上昇。

倫理は制限として扱われ始めました。

ヒマリは城の束縛を振り切れるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ