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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第一章 魔王城制圧編

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魔王城中層 ―― 判断が先に走る

戦いは終わらない。

だが、勝利の形は変わり始めていた。

魔王城はヒマリを認め、

判断は彼女よりも先に走る。

 ヒマリは常人なら死んでもおかしくない魔力波を

 全身に注入されながら、違和感を抱いていた。


(……軽い)


 身体が、ではない。

 思考が、軽い。


 戦況に迷いが生じる前に、

 次の選択肢が、すでに結果として浮かび上がってくる。


 どの部隊が限界か。

 進むべきか。

 待つべきか。


 考えた瞬間、

 城がそれを採用済みとして受け取っている感覚。


 そのとき、広間の奥で小さな魔力の乱れが起きた。


「魔王城補助管、負荷上昇」


 フェルマーが即座に反応する。


「烈火演舞――」


(必要ない)


 彼は言葉を止めた。

 指先の炎が消える。


 次の瞬間。

 補助管が破裂し、衝撃波が走る。


 近くにいたガーゴイルが数体、吹き飛ばされた。


 周囲の通路が即座に封鎖され、

 別区画からサキュバスが投入される。


「こんなことが…」

 フェルマーがヒマリに振り返る。

 いつもの尊大な口調だが、視線は忙しなく魔力波を追っていた。


「何が?」


「気付いていないのか。

 ヒマリの指示が直接頭に流れ込んでくる。

 今の指示に覚えがないのか?」


 ヒマリは答えなかった。

 自分でも説明ができなかったからだ。


 戦闘は続いている。


 隊長グリム。

 魔王ノリス配下の親衛隊が、再編成されて突撃してくる。


 ヒマリは息を吸った。

(前衛を下げて、左右を――)


命令を出す前に、魔物たちが動いた。

ゴブリンが後退し、骸骨兵が前に出る。


数体が無言で散開、囮に。

声はない。合図もない。

なのに――完璧な役割分担。


フェルマーが目を見開く。

「やはり違う。ヒマリは知識はあっても戦闘の素人だ」


シャドウ・ナイトの斬撃が走る。

本来なら防げたはずの攻撃を、ゴブリンがその身で受ける。


ゴブリン数体が真っ二つに。

血が散り、魔力が霧散する。


ヒマリの指先が痺れる。

(今の……私が許した?)


次の瞬間、突出した親衛隊の陣形がわずかに崩れる。

死角からデーモンの魔弾が通り、グリムが膝をつく。


上空のドラゴンが体勢を崩す。

天井の魔力脈が歪み、上昇気流が乱れる。

城が、勝手に有利に傾ける。


(これで損傷軽微!?

 でも、ここで止めたら……もっと死ぬ)


胸の奥で、何かがひび割れる音がした。


 再び、フェルマーの結界が展開され、

 ガーゴイルの魔力干渉が遮断される。


「城の戦闘記憶が指揮系統に干渉している――」


 損失を出しながらも戦場が有利に傾き始めた。

 そして、戦力差が徐々に開いていく。


 流れは淀みなく、迷いがない。


 破損は最小限、被害も限定的…。


 だが。


 倒れた魔物たちは、そのままだった。


「……ちょっと、待って」


 ヒマリが声を上げる。


「今のは、防げた――」


「今度は気づいたか?」


 フェルマーが答える。


「だが、君は結界を拒否した」


 ヒマリの喉が、詰まる。


「それって……」


「防御より、敵を崩すことを優先した判断だ」


 フェルマーは静かに続ける。


「犠牲を許容した方が、

 死者が減ると判断した」


 ヒマリの視線が、倒れた魔物に向く。

 涙が溢れる


「……私が許したから犠牲が出た。

 絶対ダメなのに、頭がすごく醒めてるの」


 誰も答えない。


 だが、城は何も言わずに動き続けている。


 フェルマーの声が、低く震えた。


「ヒマリ」


 彼が、名を呼ぶのは珍しい。


「それ以上は……

 君の意思じゃない」


 ヒマリは振り返れなかった。


「城の判断速度に、引きずれるな!」


 言い返す言葉が、なかった。


 なぜなら――

 正しいから。


 その瞬間。


 フェルマーの視界に、表示が走った。


《管理者権限:暫定承認》

《制御率:50% → 62% → 71%》

《倫理制限:自動調整》


 彼は、息を呑む。


「……これは、魔王城か?」


 ヒマリは戦場を見渡した。


親衛隊が撤退する際、グリムが振り返る。


「それでも魔王を継ぐ者か、小娘」


血を流しながらも、その声は揺れない。


「損耗を恐れる者に、統治は務まらん」


ヒマリは言い返せなかった。


きっと、グリムが正しい…。



戦闘は終わった。

親衛隊は撤退。ドラゴンは片首のまま逃走。

中層は守られた。


ゴブリンの死体が、運ばれている。

誰の命令でもない。


魔物たちが淡々と、効率的に片付ける。

邪魔にならないように。


「片付けなくていい……まだ、名前も――」


城は反応しない。

もう、必要ないから。


ヒマリは膝から崩れ落ちそうになるのを堪える。

(私は……この子たちは、ただの駒として扱った)


――そうしなくとも、勝てたかも知れないのに。

だが、それを証明する術は、もうない。


ヒマリの思考は澄み切っていた。


どこを補強すべきか。

次に攻め込まれた場合の想定ルート。

上層への逆侵攻の成功率。


すべてが、すぐに計算できる。


「ヒマリ」


フェルマーが一歩近づく。


「城は最適化する。だが、決断は君だ」


「ええ……私が、指示した」


頬から涙が落ちる。

だが、思考は乱れない。


むしろ、澄んでいる。

それが何より恐ろしかった。


魔王城の制御が進みました。

けれど、強くなるほど失われるものもある。

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