魔王親衛隊、中層に降りる 後半
中層の戦いもいよいよ佳境です。
そして、ついにヒマリに魔王城が応答し始めます。
「もうひと踏ん張りか」
シュルツは剣を構え、ガーゴイルを切り払った。
床から無数の光の管が現れ、ヒマリに突き刺さる。
視界が反転し、世界が数式に分解される。
戦場の配置、魔力流量、損耗率、再生時間。
中層の全データが一瞬で可視化されていく。
「……っ」
情報量が多すぎて脳が焼ける。
冷たい声が響く。
――最適解を提示せよ。
「……やめて……!」
膝が崩れるが、光は止まらない。
一本刺さるごとに様々な感情が入り乱れ、眩暈と共に
膨大な魔力が流れ込んでくる。
「よしっ、魔王城がヒマリを認め始めた」
(全然よくないよ……! 痛いし、頭が割れそう……!)
「あの小娘に集中しろ! 制御権に干渉を始めているぞ!」
シャドウ・ナイトの隊長グリムが異変に気づき、隊列を再編。
楔形陣がヒマリに向かって突進する。
殺到するガーゴイルを、今度は骸骨兵たちが盾壁で受け止める。
骨が砕け散っても、再生して立ち塞がる。
ゴーストたちが風魔法で隊列を乱し、
透明な体でナイトの視界を奪う。
地に落ちたガーゴイルを、スライムたちが集団で包み込み、
酸で溶かし潰していく。
だが、
ついに、結界を破ったツインヘッドドラゴンが、
咆哮と共に中層に駆け下りた。
炎の首が持ち上がり、中層を焼き払おうとする。
「いいぞ首が上がった、ガーゴイルは頼む!」
シュルツが剣を構え、飛び上がる。
「魔法剣・氷結の刃!」
氷の剣気がドラゴンの炎首を狙うが、氷首がブレスで迎撃。
「おおおおっ!」
シュルツが咄嗟に氷首に狙いを変え、首に一太刀を入れた。
ギシャァァァ!!
苦悶の咆哮を上げるドラゴンにデーモンが後ろから食らいつき
巨大な牙で翼を引き裂く。
だが、さらに後ろから親衛隊隊長グリムが追い付いてくる。
「容易くやらせはせん」
グリムは静かに言った。
「があっ」
次の瞬間、デーモンの背が斜めに裂けた。
黒い剣がデーモンの再生を阻害する闇魔法を帯びていたが
デーモンは嚙みついたまま離さない。
ここが勝負所とみたお互いの増援がドラゴンを中心とした
輪を作り、混戦が始まった。
「邪魔をするな!
ヒマリ様の新しい時代が来るのだ!」
「死にぞこない共が」
グリムは剣を抜こうと力を籠めるが
デーモンは剣をめり込ませたまま体を再生し、
今度は身動き取れぬグリムに噛みつく。
◆
ヒマリの眼前には小さなディスプレイが次々と開き、
戦闘シミュレーションの結果が示されていく。
【最適解の提示】
損耗許容値:27%
中層破損率:31%
勝率:82%
ヒマリの呼吸が乱れる。
(違う……そうじゃない)
提示された最適解は、合理的だった。
ゴブリン前衛を切り捨て、デーモンを主軸に再配置。
手傷を負ったドラゴンへの集中砲火。
中層の三割を犠牲にすれば勝率は上がる。
「それは……嫌」
演算が止まる。
――統治効率低下。
ヒマリは歯を食いしばる。
「効率はいい、損傷率を下げて!」
一瞬の静止。
数式が再構築され、新しい戦術案が提示される。
損耗許容値:14%
勝率:62%
長期安定性:上昇
光が収束する。
――前魔王クルス方針とのズレ:12%発生
構造維持の方向性は一致。
城が静かに応答する。
ヒマリは膝をついたまま、荒く息を吐いた。
「これでいく、迎撃指示を顕在化して!」
「方針を受諾――」
不意に、魔王城のすべての光源が明滅した。
玉座の間から中層へ続く回廊。
石壁に走る魔力脈が、脈拍のように淡く明滅して
光の管からヒマリに吸い込まれていく。
魔王城はただの拠点ではなく、
意思と記録を持つ存在として描いています。
そして、前魔王クルスの方針と
ヒマリの考えが少しずつ交差していきます。




