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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
最終章 魔神ベル・ブリュード編

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ヒマリの告白

最終決戦の場でそれぞれが本心を語り始めます。

「違う!!」


 ヒマリの声が、コア制御室を震わせた。


 痛いほど強く、王錫を握る。


「クルス、あなたは偽物なんかじゃない!」


 ベルの複眼が、ゆっくり動いた。


 ヒマリは一歩前へ出ると、王錫を振り上げる。

 クルスの制御から外れ、暴走を始めた錫杖から、

 眩い光が溢れ出した。


「私は、あなたを選んだ!」


 光はベル・ブリュードの外骨格を溶かし、

 ぱらぱらと表層が入れ替わる。


 ベルは身体を黒いベールが覆い、小さく舌打ちをする。


 閃光がおさまると、目の前にクルスの姿が現れていた。


 最近、お気に入りにしている男性の姿だ。


「お前は、誰だ?」


 ベル・ブリュードが目を細める。


 クルスは構わず、ヒマリの暴走しかけた錫杖に手を伸ばす。

 残った光が、まるで吸い込まれるようにクルスの身体へ流れ込んでいく。


『……っ』


 微かに、息を呑む気配。


『感動的な告白をありがとう』


 少しの沈黙。


『――それ、今言う?』


 いつもの冷静な声だった。


 ヒマリは泣きそうになりながら笑った。


「今だから言うの!」


「私の目の前でじゃれ合うな。不快だ」


 ベルが腕を広げる。

 その足元から赤黒い蟻の群れが生まれ、クルスへ殺到した。


 だが、クルスは振り向かない。

 背中から電子のチューブを床に突き刺した。


 その瞬間。

 コアの光が、わずかに白へ戻る。


 赤黒い蟻が、砂のように崩れ落ちた。


「……自己学習で、そこまで変えたか」


 ベルの群青の瞳が、クルスを見つめる。


「だが、実体までは得られなかったようだ」


 ヒマリが制御を取り戻した王錫を振るい、白銀の光が広がる。


「わかったでしょう。あなたが自らをベル・ブリュードとしたように、

 すでに運命は分かれている」


「強制浄化!」


 しかし、その光はベルへ届かない。


 腐敗と痛みが混ざりすぎている。


「無駄だよ」


 ベルが両腕を広げた。


 直後、羽音が響く。


 黒い暴風が吹き荒れ、クルスの姿が一瞬で掻き消された。


 同時に空間が裂ける。


「ヒマリ!!」


 ノリスが飛び出した。


 その影が床を走った直後、黒い衝撃波がヒマリを飲み込む。


 轟音とともに床が吹き飛び、王錫の障壁が悲鳴を上げた。


 スガァァァァン。


 結界が砕ける。


「――っ!!」


 ヒマリの身体が壁へ叩きつけられた。


 息が詰まる。


 肺から空気が抜けた。


 視界が白く揺れる。


 立てない。


 (王都から戦いっぱなし、もう、いいんじゃ……)


 そんな言葉が脳裏をよぎる。


 その時だった。


「立ちなさい」


 低い声が響く。


 ノリスだった。


 ヒマリの前に立ち、全身から黒い魔力を滲ませている。


 肩から血が落ちていた。


 ベルの触腕に腹を抉られている。


 それでも――退いていない。


「ノリス……!」


 ノリスは振り返らない。


 ただ、ベルだけを見ていた。


「嫌いなのよ」


 静かな声だった。


「あなたみたいなの」


 影の刃が伸び、空気が歪む。


「魔王城の奥に隠れていて、力を得た途端、神を名乗る」


 ベルが笑った。


「違うよ」


 群青の瞳が細められ、触腕がさらに食い込む。


 ノリスの口元から、血が滲んだ。


「私は『クルス』であり『人間の完成形』であり『魔人ベル・ブリュード』だ」


「はん?」


 ノリスが激痛に奥歯を嚙み殺しながら笑った。


「あなた、自分そう名乗っただけでしょう」


 空気が止まった。


 ベルの複眼が、揺れる。


「孤独も絶望も――全部、外から取り入れただけ」


 ノリスが触腕を引き抜く。


「だから、空っぽなのよ」


 ベルの表情が、再び幼く歪んだ。

 怒り、というよりは困惑に近い。


「黙れ」


 空間が爆ぜた。


 黒い触腕が螺旋状に広がって伸び、ノリスへ殺到する。


 だが、ノリスは退かなかった。


「待ってた」


 影が裂け、黒い魔力が一気に広がる。

 触腕へ絡みつき、その動きを拘束した。


「フェルマー!!」


「クルスの残した解析を進める!」


 フェルマーが床へ手を叩きつける。


 術式が展開し、白い光が七色のチューブを走った。


 魔導眼鏡の奥で、フェルマーの目が血走っている。


「通常経路はすべてダミーだ!」


 声が震える。


「でも――一点だけ!」


 空中に光の線が浮かび上がった。


 ベルの胸部。


 外骨格の奥。


「そこだけ供給速度が異常に膨らんでいる!」


『魔王城コアだ!』


 再びクルスの声が響く。

 まだ、実像は結べないようだった。


『早く接続を切れ! 僕以外では侵食される!』


 ベルの複眼が大きく開く。


「……見つけたか」


 その瞬間、拘束を振り切った鋭い棘を持つ触腕がフェルマーへ向いた。


「まずい!」


 チューブが一斉に殺到する。

 障壁が軋み、亀裂が走った。


 そして――砕ける。


 触腕がフェルマーへ届く、その寸前。


 白銀の光が走った。


「フェルマー、こっち!」


 ヒマリだった。


 王錫が強く輝いている。


 両手で握りしめ立ち上がっていた。


 足は震えている。


 それでも、もう逃げない。


「ノリス!!」


 ヒマリが王錫を振るう。


 白銀の浄化光が一直線にノリスへ走り、黒い影剣へ流れ込んだ。


 闇の中に白い紋様が刻まれる。


 相反する二つの力が、一瞬だけ融合した。


 ノリスが目を見開く。


「これは……」


「内部を狙って!!」


 ベルの顔が変わった。


 初めて、明確な焦りが浮かぶ。


「――っ!!」


 ノリスの姿が消えた。


 影と化した身体が床を滑る黒い奔流となり、ベルへ一直線に迫る。


 ベルが迎撃する。


 無数の触腕を一つにまとめ、広範囲へ衝撃波を放った。


 背後の壁が崩れる中、黒翼が舞う。


 ノリスは影となり、衝撃を紙一重ですり抜けていく。


 そして――胸部。


 外骨格の裂け目。


「穿て――!!」


 浄化を帯びた拳が、ベルの内部へ突き刺さった。


 ズバァァァァァァン!!!!


 振動が止まった。


「――ァァァァァァァァ!!!!」


 絶叫が響く。


 初めてだった。


 ベル・ブリュードが、苦鳴を上げた。


 胸の奥から白い光が噴き出し、群青の瞳が大きく揺れる。


 完璧だった笑みが、崩れ落ちた。


「な……ぜ……」


 ノリスは右腕をさらに押し込む。


 赤い瞳が、真っ直ぐベルを見据えていた。


「あなたは、人の痛みを――理解した気になってるだけ」


 ベルの身体が大きく痙攣する。


 黒い管が暴れ、コアが軋む。


 魔王城全体が、地鳴りのような音を立てて揺れ始めた。


『ヒマリ!!』


 クルスの叫びが響く。


『まだ終わってない!!』


 その瞬間。


 ベルの裂けた胸の奥で――


 何かが、ぎろりと蠢いた。


 黒目だけを集めた、人間ではない瞳が。


 一斉に――ヒマリを見つめた。

ベルの胸の奥で目を開いたもの。

決戦は――まだ終わりません。

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