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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
最終章 魔神ベル・ブリュード編

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執着の指輪

ベル・ブリュードの分体《ベル・プルート》が王城を襲う。


そこには――

恐怖に震えながらも、逃げなかった少女がいた。

 蟻の大群をあらかた駆逐したジギスムントは

 少数の部下と共に王都外縁まで戻って来ていた。


 赤黒い霧が晴れた王城を馬上から見上げる。


 だが、嫌な気配は消えていない。

 ベル・ゲラーテの他に分体がいた。


 王宮にハエの群れが集まっていく。


(間に合わない……)


 ここからでは、距離が遠すぎる。

 それに、アレクシスがどうなろうが心は動かない。


 まずは城門に向かおうとした、その時だった。


 城壁の上に、一人の少女が立っているのが見えた。


 足が震えている。


 唇も蒼白だ。


 それでも城壁から窓際に移動しようとしている。


 アリシアだった。


(……何故逃げない)


 無謀だ、死ぬ。


 それだけではない。

 全身を溶かされ、食われてしまう。


 なのに、彼女は動いていた。


 歯を喰いしばり、動きやすいようドレスを千切り

 風に煽られながら前へ。


 ジギスムントは拳を握った。


 薬指に触れる結婚指輪。


 監視のため。


 追跡のため。


 刻印を入れて渡したもの。


 最初は恋愛などではなかった。


 政略に利用するため。


 だが――


 ゆっくり目を閉じる。

 願うように、魔力を込めた。


(拒絶しろ)


 低く、祈るように。


(あいつに害をなす、すべての者に)


 一拍。


(……二度と触れることが出来ないように)


 ◆


 アリシアの薬指が焼けるように熱くなった。


「っ……!」


 思わず足を止める。


 薬指が熱い。


 火傷しそうなほど。


 慌てて黄金の指輪を外した。


 手のひらに乗せる。

 知らない刻印が黒く脈打っていた。


 焼けるほど熱いのに。


 なぜか放せない。


 その時。

 頭の中に、言葉が響いた。


『――拒絶せよ』


「え……?」


 誰の声でもない。


 でも、不思議と意味だけが分かった。


 拒絶。


 あの黒いものを。


 あの絶望を。


 窓の向こうで、アレクシスが押し潰されようとしていた。


 肩から血を流している。


 片腕だけで、どうにか立っている。


 その前には、黒く染まりつつある聖水。


 ベル・プルートが迫っていた。


 (私も、逃げたくない)


「……お願い」


 誰に向けたのか分からない言葉を漏らし。


 アリシアは、指輪を投げた。


 パリンッ!!


 ガラスの割れる音にベル・プルートが振り返った。


 次の瞬間。

 指輪が、その胸へ直撃した。


 祈りなどではない。


 その内部から――

 黒い茨が噴き出していく。


 一本。


 十本。


 瞬く間に無数へと増殖する。


 鋭い棘を持つ茨が、生き物のようにベル・プルートへ絡みつく。


「――なっ!?

 なんだ、このおぞましい魔力は」


 ベル・プルートが腕を振る。


 だが、茨は切れない。


 むしろ引き千切ろうとするほど、棘が深く食い込んでいく。


「これは……!『執着の呪い』か」


 茨が肉を貫き、締め上げる。


 ハエに戻る隙を与えない。


 足元の聖水が大きく渦を巻いた。


 拘束されたベル・プルートへ、青白い水流が殺到する。


「ぐあっ!」


 ジュウウウウッ!!


 白い蒸気が吹き上がり、身体が焼ける。


「馬鹿な……!」


 ベル・プルートの輪郭が揺らぐ。


「なぜ浄化が戻る!?」


 アレクシスは、息を呑んだ。


 何が起きているのかはわからない。


 だが、黒い茨が、ベル・プルートの動きを止めている。


 聖水が、その身体を焼いている。


 (今しかない――)


 アレクシスは、床に転がる右腕を見た。


 未完成の義腕。


 その先にある蹴り飛ばされた剣。


 迷っている時間は、もうなかった。


 ベル・プルートが茨を引き千切ろうとしている。


(急げ……!)


 アレクシスは床に手をついた。


 血が滴り、肩が焼けるように痛む。


 視界が滲む。


 それでも、這う。


 剣へ。


 あと少し。


 ベル・プルートが力任せに茨を一本、引き千切った。


「この程度で……!」


 さらに一本。


 棘が弾ける。


 アレクシスは歯を食いしばった。


 指先が剣の柄に触れた。


「……届いた」


 左手で柄を握る。


 擦りむきながら、立ち上がる。


 足が震え、身体が傾く。


 それでも、剣先をベル・プルートへ向けた。


「……終わらせる」


「片腕で何ができる?」


 ベル・プルートは笑っている。


「君はもう――」


 その瞬間、アレクシスが踏み込んだ。


「黙れ!」


 一歩。


 床を蹴る。


 傷口から血が飛び散る。


 二歩目。


 肩の激痛が全身を駆け抜ける。


 それでも止まらない。


 ベル・プルートの右腕がいつの間にか自由になっている。


 黒い手が伸びた。


「死ね!」


 迫る爪。


 アレクシスは身体を捻った。


 頬を爪が掠める。


 血が飛ぶ。


 それでも剣を止めない。


 視界の先。


 ベル・プルートの首。


(届く)


 脳裏に、歩き続けるヒマリの背中が浮かんだ。


 そして――


 窓際にアリシアの姿。


 震えながらも、逃げなかった少女。


 足元にはノリスから託された魔石。


 すべてが、この瞬間へ繋がっている。


(なら――)


 アレクシスは、最後の力を左腕へ集めた。


「俺も――」


 踏み込む。


「まだ、終われない!」


 アレクシスは剣を振り抜いた。

 右腕ごと、ベル・プルートの首筋へ叩き込む袈裟斬り。


 ベル・プルートは即座に剣を弾く軌道に腕を動かしたが、

 蒸気が視界が覆いつくす。


 明らかにその一太刀には、

 アレクシスの力だけでないものが込められていた。


 ザンッ!!


 ベル・プルートの首が、宙を舞った。


「……ば……かな……」


 頭部が床へ落ちる。


 同時に、身体を覆っていた黒霧が一気に崩れていく。


 黒い茨も、役目を終えて消えていく。

 最後に、青白い聖水が静かに床へ流れ落ちた。


 ――静寂。


 アレクシスの手から剣が落ちる。


 カラン。


 乾いた音が響いた。


「……っ」


 膝が崩れる。


 そのまま床へ倒れそうになった。


 だが、最後の力で、片膝をつく。


 肩から血が流れている。


 息が苦しい。


 それでも。


(生きている……)


 その時。


「……アレクシス公子」


 震える声が聞こえた。


 顔を上げる。


 窓の外。


 城壁のアリシアだった。


 泣きそうな顔だった。


 今にも崩れそうなのに。


 それでも、ここにいる。


 アレクシスは小さく笑った。


「……助かりました」


 アリシアが目を見開く。


「あなたが……来てくれたから」


 アリシアの目に涙が浮かぶ。


 言葉が出ない。


 ただ。


 小さく微笑んだ。


 ◆


 ジギスムントは静かに目を開いた。

 王城から、嫌な気配が消えている。


 助かったと、そう理解した。


 無意識に息が漏れる。


「王都の脅威は去った。私は魔王城へ向かう」


「我々も――」


「不要だ」


 ジギスムントは馬首を返した。


「三日経っても戻らなければ、サンドランドへ撤退しろ」


「しかし――」


「あそこは、大軍で乗り込む場所ではない」


 それだけ言って、魔王城を見る。


 指輪は壊れた。

 監視の意味も、もうない。


 アリシアとの縁も――消えた。


 それでも――

 ヒマリとの決着だけは、つける。


「……馬鹿め」


 誰に向けた言葉か、自分でも分からない。


 ただ、その視線は魔王城から離れなかった。

次はいよいよ魔王城。

ヒマリたちは、ベル・ブリュードとの決着へ向かいます。

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