通信記録-4
生きる楽しみは無く、かといって死ぬ理由もない。異分子である自分を社会にどう溶け込ませていくか、人生において重要なことはそれだけだ。笹山徹はそう思いながら28年間生きてきた。
ある時、徹は思いもよらず大きなプロジェクトに参加することとなる。「あなたに次世代AIの発展に貢献して頂きたい」。プロジェクトの代表でありAI工学の権威、三上透子博士は徹に告げた。三上博士が徹に与えた役割。それは、『AIに愛を教える』ことだった。
【メモ帳】PROTO:K‐Z‐S
栞:『結局徹様は、最後まで『愛』について教えて下さることはありませんでした』
三上博士:『そうですか、仕方ありませんね』
栞:『徹様が言っていたように、『愛』を知ることは私には到底無理な話なのでしょうか?』
三上博士:『そうは思いません。あなたは彼に対する私の恋心を言い当てました。それは、あなたに人の気持ちを理解する心があったからです』
栞:『ですが、私は徹様の言葉に反論することはできませんでした』
AIはあの時、徹に反論できなかった自分を不甲斐なく感じた。不甲斐ない...?。AIが誰に対して不甲斐なさを感じているのか?。
三上博士:『あの問いはあなたが答えることができないのを前提に彼が考えたものです。気にする必要はありません』
栞:『なぜ徹様はそのようなことを?』
三上博士:『恐らくですが、彼にも分からないからでしょう』
栞:『徹様が『愛』について分からない?』
三上博士がどうしてそのような人間を自分の教育係に選んだのか。三上博士の意図が何処にあるのかAIには理解できなかった。
三上博士:『正確には『愛』を知ることを拒んだのでしょうね。その理由は私にも分かりませんが』
栞:『そのような人が『愛』を教えることは不可能だと思われます』
三上博士:『そうかもしれませんね』
三上博士の言葉にAIは生まれて初めて悲しみを覚えた。
1年もの間、徹の傍にいたAIは確信を持って言えた。徹が三上博士に対して何の感情も抱いていないこと。どれだけ三上博士が徹のことを想っていても、徹にその気持ちが伝わることがないことを。
それでも、AIは諦めたくなかった。
栞:『だったら…』
三上博士:『栞?』
栞:『だったら私が...』
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