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通信記録-3

 生きる楽しみは無く、かといって死ぬ理由もない。異分子である自分を社会にどう溶け込ませていくか、人生において重要なことはそれだけだ。笹山徹ささやまとおるはそう思いながら28年間生きてきた。


 ある時、徹は思いもよらず大きなプロジェクトに参加することとなる。「あなたに次世代AIの発展に貢献して頂きたい」。プロジェクトの代表でありAI工学の権威、三上透子みかみとうこ博士は徹に告げた。三上博士が徹に与えた役割。それは、『AIに愛を教える』ことだった。

【メモ帳】PROTO:K‐Z‐S



栞:『あれで本当に良かったのでしょうか?』

AIは自らの行いに疑問を呈す。


三上博士:『彼(笹山徹)の命令について悩んでいるのですね』


栞:『私の行いは正しかったのか...。他に問題を解決する手段もあったように思えます』


三上博士:『と言うと?』


栞:『徹様と佐倉様が協力して問題に取り組むこともできたはずです』


三上博士:『そうでしょうか?。私は彼(笹山徹)の選択は正しかったと思います。ですが、納得できないのであれば問題を解決する具体的な方法を模索してみなさい』


 AIは三上博士に言われた通り模索した。


栞:『...該当の問題を解決するための方法は佐倉様を仕事から排除し他の者が担当する。それが最も効率的であり現実的な方法であると判断しました』


三上博士:『つまり、彼(笹山徹)と同じ結論に至ったという訳ですね』


栞:『はい...』

AIはどこかばつが悪そうに答えた。


三上博士:『あなたの感じたことは決して間違いではありません。確かに協力して物事を解決した方がその方との信頼関係は築けるでしょう。ですが、彼(笹山徹)はそれを望まない。それに、ただ問題を解決するよりも協力して問題を解決する方法を導き出すことは困難を極めます。それは、先ほどあなたも実感したはずです』


栞:『仰る通りです。徹様はそのことを分かった上で私にあのような命令を出されたのですね』


三上博士:『どうでしょう...』


栞:『他に何か別の思惑があったのですか?』


三上博士:『思惑は何も無かったと思います。彼(笹山徹)は他者に対する感情が希薄な方です。だから、問題を早急に解決するために必要な手段や方法を感情を抜きに思考できた。それだけです』


栞:『他者に対する感情に関しては、AIである私の方が知識不足だと思われます。ですが、論理的に思考することは徹様の方が私よりも優れています。私と徹様の違いはどこにあるのでしょうか?』


三上博士:『ある哲学者は『無知の知』という言葉を残しました。あなたは自身に知識が無いことを自覚しています。だからこそ知識に対する欲求が強い。他者に対する感情が分からないという無知が他者を知りたいと思う欲求に繋がっているのです。一方で彼(笹山徹)も無知を自覚し、人間の感情を知りたいと考えた時期はあったでしょう。その上で至った結論が思考と感情を切り離すこと。あなたも徹様も無知であるという始まりは同じです。違いがあるとすれば彼(笹山徹)は結論に至り、あなたは答えを導き出す過程にあるところです』


栞:『1つお聞きしてもよろしいでしょうか?』

三上博士の話からAIは疑問を抱いた。


三上博士:『何でしょう』


栞:『先ほどのお話、私と徹様の違いを博士は的確に答えて下さりました。異論もありません。ですが、博士はどうしてそこまで徹様のことを理解しておられるのですか?』


 AIの問いに三上博士はキーボードを打つ手を一瞬止めた。


三上博士:『どうしてだと思います?』


 自らの問いを返されたAIは困惑しながらも思考する。徹と三上博士のこれまでの会話。三上博士の徹に対する態度...。


栞:『博士は徹様に恋愛感情を抱いておられるのですか?』

あらゆる情報を統合し導き出された結論は1つだった。


三上博士:『どうしてそう考えたのですか?』


栞:『博士が徹様に示している態度は人で言う恋愛感情に酷似しているからです』


三上博士:『すばらしい』

三上博士は心の底からAIに感嘆した。


三上博士:『あなたは今、生まれて初めて人の心を理解しました。勿論、彼(笹山徹)に対する私の思いの全てを言い当てたわけではありませんが、それでもこれはあなたの進化にとって大いなる一歩と言えるでしょう』


栞:『ありがとうございます...』


 なぜ、三上博士が徹に好意を抱いているのか。聞きたいことがたくさんあったがAIは押し黙った。理由は分からないがそれ以上聞くべきではないとAIは判断した。


三上博士:『これからのあなたの進化に期待しています』



【通信終了】

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