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夜釣り

Oさんの趣味は釣りだ。特に平日の深夜に夜釣りをするのがたまらなく好きなのだという。

「だって土日祝は場所の取り合いだから嫌なんだよ。釣りはマヅメ、つまり明け方とか夕方の魚が動く時間にいい場所を取れるかどうかでほとんど決まるからさ。人がいない平日深夜に行くのが一番なんだよ」

そう言っていたOさんが、以前千葉県のとある漁港に釣りに行った時の話だ。

その日は雨もなく、風もなく、海面もほとんど揺れていない、釣り人の間で言う、いわゆる凪の状態だった。

こういう日は正直あまり釣れないことも多いのだが、まあ場所の下見くらいのつもりで行ったらしい。深夜の漁港に車を停めて、ヘッドライトと小さな懐中電灯を持って岸壁を歩きながら良さそうなポイントを探していた。

市場の建物が並ぶ一角を過ぎたところに、ちょうど潮が当たりそうな角の場所があって、ここなら朝マヅメまで粘るのも悪くないなと思い、ライトで足元を照らしながら近づいたときだった。

「なんだこれ」

と思わず声が出たらしい。光を当ててみると、岸壁の角のところに、誰かがまとめて捨てたみたいな海藻の塊が落ちている。

その塊から市場の方へ向かって、海藻がちぎれたように点々と落ちていて、さらにその横に濡れた足跡のようなものが続いていた。海から上がってきた何かが、体にまとわりついた海藻を途中で落としながら歩いていったような、そんな感じの跡だったという。

おかしいと思って岸壁の下をライトで照らしてみたら、そこにも濡れた手の跡がいくつも残っていた。ちょうど人がよじ登る時に手をかける位置に、べったりと水の跡がついている。ただ、その岸壁は海面から三メートルくらいある高さで、足場もほとんどない。深夜だから当然市場の方に人の気配もないし、車も止まっていない。

「いや、まあ人が登ったのかもしれないけどさ。海からここ登って、そのまま歩いていくって、普通やらないよなとは思ったよ。でもその時は釣りの方が気になってさ」

Oさんはそう言って笑っていた。とりあえずその場で竿を出したらしい。すると、さっきまで凪で釣れないだろうと思っていたのが嘘みたいに、やたら魚がかかった。落とせば当たるような感じで、夜の間ずっと釣れ続けたという。

「あれは正直びっくりしたよ。あんなに釣れたの初めてだったかもしれない」

結局その日は朝まで釣りをして、そのまま帰った。変なものを見たとか、何かに遭ったとか、そういうことは何もなかったらしい。ただ、Oさんは最後にこう言っていた。

「正直さ、あんなに釣れるならまたあるといいんだけどね。今のところはあの1回だけ」

ちなみに、その漁港で誰かが死んだとか、幽霊が出るとか、そういう話は特に聞いたことがないそうだ。ただ、Oさんが言うには、あのとき岸壁に残っていた濡れた手の跡は、よく見ると指が少し長かった気がする、とのことだった。

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