思い出
これはOさんという人から聞いた話だ。
ずいぶん昔のことで、本人も
「子どものころの記憶だから曖昧なんだけど」
と何度も前置きしていた。
小学生の頃、近所の公園でよく遊んでいたそうだ。
放課後になると自然に子どもが集まってきて、鬼ごっこをしたり、ボール遊びをしたりするような、ごく普通の場所だったという。
その公園に、いつの頃からか女の子が混ざるようになった。
おかっぱ頭の子だったらしい。
「気がついたらいる感じでさぁ」
とOさんは言っていた。
最初から一緒に来るわけではない。
誰かが連れてくるわけでもない。
ただ鬼ごっこをしていると、いつの間にかその中に入っていることがあったという。
「だいたい、気づいたら混ざってるんだよ。最初からいることはなかったなぁ」
ただ、その子のことをOさんはほとんど覚えていない。
名前も知らないし、どこの家の子なのかも分からない。
はっきり覚えているのは、おかっぱ頭だったことくらいだと言っていた。
子どものころのことだから、そんなものかもしれないと本人も言っていた。
ただ1つ、少し変だと思うことがあった。雨の日でも、その子は遊ぼうとするのだ。
かなりの雨でもびしょ濡れで公園にいて、
「遊ぼう」
と言う。
台風に近いような荒れた日でも同じだったという。
「今日は無理だろ」
そう言って断ると、その子はものすごく不満そうな顔をしたらしい。
怒るというより、拗ねているような。
「まあ、ゲーム機も携帯もなかった時代だからさ。遊びたい気持ちは分かるんだけどね」
ただ、不思議なことに、その子の家で遊ぼうという話には一度もならなかったそうだ。
どこに住んでいるのか聞いた記憶もないし、誰かが
「あの子の家に行こう」
と言ったこともない。
公園で会って、公園で遊んで、それだけだったらしい。
中学に上がるころになると、Oさんはその公園で遊ぶこともなくなった。
そして、あの女の子のこともすっかり忘れてしまっていた。
記憶から完全に消えていたそうだ。
それを思い出したのは、ずっと後になってからだった。
成人して、地元の同窓会に出たときのことだったという。
昔の話をしているうちに、誰かが『あの公園の話』をし始めた。
すると別の人が、
「そういえば、いつも混ざってくる女の子、いたよな」
と言い出した。
それを聞いた瞬間、Oさんの中でも急に記憶が戻ったらしい。
「そういえばそんな子いたなぁ!」
忘れていたことをごまかすように大げさに答えたそうだ。
ところが周りの反応が妙だった。
「お前、忘れてたのかよ」
と言われたらしい。
「いやいや、忘れる方がおかしいだろ」
そう言われて、Oさんは首をかしげたという。
「その子さ、肌がカエルみたいな色だったじゃん」
その時Oさんはしっかりと思い出した。
白黒映画に色がついたみたいに記憶が塗り替えられたかのようだったらしい。
「緑色だったろ」
「……緑だったな」
ただ、それまでOさんはそのことを完全に忘れていた。
おかっぱ頭の女の子だったことしか覚えていなかったそうだ。
Oさんの出身地は岩手県で、昔から河童の伝承が残っている地域だという。
川や沼の多い土地で、子どものころから河童の話を聞くことも多かったそうだ。
ただ、Oさん自身は
「まあ偶然だろう」
と笑っていた。
「あの子、雨の日でも遊びたがったんだよな」
そう言ってから、少しだけ間を置いて、こう付け加えた。
「むしろ、雨の日の方が嬉しそうだった気がするんだよ」




