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金霊

これは東京の会社で働いていた女性、Uさんから聞いた話だ。

数年前、同じ会社にHさんという女性がいたそうだ。真面目でどちらかというと信心深いタイプで、神社や縁起物の話なんかもわりと信じる人だったという。

ある日の帰り道、会社から駅へ向かって歩いているときのことだった。

ビルとビルの隙間を通る細い道で、急に音がして、目の前に何かが落ちてきた。見ると5円玉だった。上から飛んできたような感じだったらしい。

辺りはオフィスビルばかりだったので、どこかの窓から誰かが投げたのかもしれない。ただ、落ちてきた場所がちょうどHさんの足元で、まるで狙ったような感じだったという。普通ならそのまま置いていくような場面だったが、Hさんはもともと縁起を気にする性格だったので

「これは何かの縁かもしれない」

と思い、その5円玉を拾って持ち帰った。それから小さなお守り袋に入れて、財布とは別にいつも持ち歩くようになったという。

すると、不思議なことにその頃からHさんの仕事が妙にうまくいき始めた。

担当していた案件が立て続けに成功したり、トラブルになりかけていた案件がなぜかうまく収まったりして、社内でも調子がいい人として知られるようになった。Hさん自身もよく

「この5円のおかげなんですよ」

と笑っていたそうだ。ただ、その様子を見ていたUさんは、なんとなく引っかかるものを感じていたらしい。あるときHさんに

「そういう得体の知れないものは、あまり大事にしない方がいいんじゃないですか」

と言ったことがあったという。Hさんは少し困ったように笑って

「ただの5円玉ですよ」

と答えた。たぶん、嫉妬か何かだと思われたのだろう。Uさんもそれ以上は言わなかった。

それからしばらくして、Hさんはある男性と付き合い始めた。交際は順調で、周りから見ても幸せそうだった。ただ、その頃からHさんは変な夢を見るようになったと話していた。

夢の中で、巨大な5円玉が目の前に現れて、それが自分の体をすり抜けてどこかへ行ってしまう。

そしてその後、どこからともなく大勢の人の笑い声のようなものが聞こえてきて、そこで目が覚める。Hさんは

「なんとなく縁起が悪い夢なんですよね」

と言っていたそうだが、それでも5円玉を手放すことはなかった。やがてその男性と結婚することになり、Hさんは会社を退職することになった。退職の挨拶をしたときも、本当に順風満帆という感じだったらしい。

ただ、それからあまり時間が経たないうちに、HさんのSNSの投稿が思わぬ形で炎上してしまった。

詳しい内容まではUさんも知らないが、かなり大きく広がってしまったらしく、そこから生活が少しずつ崩れていったという。

周囲との関係もぎくしゃくし始め、結婚したばかりだった男性とも次第に距離を置くようになり、結局別れてしまったらしい。ほんの1ヶ月ほどのあいだに、仕事も、人間関係も、結婚も、全て失うような形になったという。

その後Hさんがどうなったのか、会社の人たちは誰も知らないそうだ。Uさんはその話をしてくれたとき、少し額に手を当てて少し考えながら、こう言った。

「だから私、言ったんですよ。そんな得体の知れないものをありがたがらない方がいいって」

実はUさんには、最初から少し気になることがあったという。Hさんの近くに、いつも何か影のようなものが寄り添っているように見えたらしい。はっきりした形ではなく、なんとなく黒っぽいものが、少し離れてついて歩いているような感じだったそうだ。

「あくまで感覚なんですけどね」

と前置きしてから、Uさんはこう言った。

「あの影、待ってたんじゃないですかね。Hさんの幸せのいちばん濃厚な部分を」

江戸時代の記録には、金や銭のようなものがどこからか飛び込んできて、人に金運をもたらす怪異が書かれていることがある。金霊、銭神と呼ばれるものだという。

Hさんに欲があったからなのか、それともまったく別の怪異だったのかは分からない。ただ、似たような話ではある気がする。

禍福は糾える縄の如し、という言葉があるが、もし本当にそういうものがあるのなら、できれば良いご縁だけをもらっておきたいものだと思う。

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