金霊
流石にまだUさんはその会社で働いていますので、アルファベット表記で対応しております。
東京の会社で働く女性、Uさんの話。
ある女、Hが帰り道歩いているとどこからか5円が飛んできた。
ビルの隙間だったので誰かが投げたのかも知れないが、元々信心深いタイプだったので何かの縁と持ち帰った。
お守り袋に大切に入れて常に持ち歩くようになった。
そうするとどんどん拍子に仕事がうまく行きはじめた。
Hは常々5円のおかげだと言っていたが、会社のある人からは、気をつけた方がいいと言われた。
Hはただのやっかみだろうと気にしなかった。
その内、ある男性と付き合い始めたが、変な夢を見るようになった。
大きな5円玉が自分をすり抜けてどこかへ行ってしまう。そうすると大勢が嘲笑うような声が聞こえて目が覚める。
なんとなく、縁起が悪い夢だったという。
しばらくして付き合っていた男性と結婚することになり、会社を退職することになったが、それからまもなくSNSの投稿が炎上してしまう。
すると男性とも次第に距離を置くようになり、別れることになってしまった。
1ヵ月ほどで全てを失ったHはその後どうなったか誰も知らない。
「だから私言ったんですよ、そんな得体の知れない何かがついているものをありがたがらない方が良いって」
その人、Uさんによるとニヤニヤしている影のようなものがHに寄り添っているように見えていたという。
「なんとなく、なんとなく、なんですけど、あの影は待っていたんじゃないですかね。Hの幸せの絶頂を...」
江戸時代から金や銭のようなものが飛び込んできて銭を成す妖怪を金霊・銭神という名で書かれている。
Hに欲があったからダメだったのか、はたまた違う怪異だったのか分からないが、おそらくそれらと近しいモノなのだろう。
禍福は糾える縄の如しとは言うが、そういう怪異からは良いご縁だけいただきたいものだ。